第四話 「採寸」 (改訂版)
いくら高校の時に演劇部に在籍していたとはいえ、そのままのレベルでは商業映画に出れるわけではなかった。そのため美香は栄村プロデューサーの指示で俳優養成所に通うことになった。無論、映画会社が授業料を負担してくれるとの条件でだ。生活費を稼ぐためにバイトは続けていたが、それでもマトモに演技の勉強をできるのが嬉しかった。
もともと美香はこのような学校に通いたかったが、女優志望を実家の両親に大反対され、半ば家出同然で東京に出たので、経済的援助がないので諦めていた。養成所でみるみるうちに実力が自他共に認めるほどついてきたのが嬉しかったが、なぜ主役というわけでもない『雪子』役の自分を優遇する意味が判らなかった。
クランクイン間近のある日、美香はある工房に行くようにと指示された。ここで劇中で着る事になる『青銅の甲冑』を製作するための採寸を行うとの事だった。
東京郊外にもこんな山林があったのかと思うような辺鄙なところにその工房があった。その工房は古い民家の離れのような雰囲気で、ここで牛でも飼っていたとしても違和感のないような古ぼけた建物だった。美香は一人でやってきたので不安だったが、工房の中には老夫婦がいたので一安心した。
「高村美香さんですね? こんな山奥に来てご苦労サンです。今日はあなたの身体を測らせてもらいますので、すいませんがこの衣装を着てください。そうそう下着も全て脱いで直にね」
そういって老女から渡されたのは桃色をしたレオタードの生地の様なものだった。それを広げると人の形をしていた。それは所謂全身タイツだった。美香はそのような衣装があるのを知っていたが、実際に見た事もましては着た事もなかった。
「あのー、これって全身タイツですよね。まさかこれを着てマスクも被ってというわけなんですか? なんか恥ずかしいじゃないですか? 甲冑を作るのに本当に必要なんですか? 」
「高村さん、これから作る甲冑はあなたの身体に完全にフィットします。だから可能な限りあなたの身体に密着させないといけないのです。そうそう、触ったりするのはあたいがやりますからいいでしょ? 女同士ですから」
そういって老女は皺に覆われた手で美香の身体をさすった。まあ、おばちゃんが触るのなら大丈夫だということで着ているものを全て脱いで、老女が言うように渡された全身タイツの背中の開口口から足先を入れた。この時、美香は思わず大きな声で言ってしまった。
「おばさん! このタイツきつ過ぎますよ! 足先から吸い付いてしまうような感じがしますよ! もうちょっと大きなものを用意してください! 」そう要求したが、美香の頼みに応じてもらう事はなかった。