第三話 「面接」 (改訂版)
女優志望の美香は、今まで役名のある仕事をやったことがなかった。だから『雪子』役に採用されたらいいなと思っていたが、八歳の女の子の役をやることを疑問に思っていた。まさか声優ではないだろうにと思っていた。
美香は指定された面接会場にやってきた。そこは映画会社のオフィスがある小さな雑居ビルだった。ここに来るまで大勢の人に道を尋ねたり、迷ったりしてしまった。いままで面接に行った事は何度もあったが、ジャパン・エンターテイメント・ピクチャーという映画会社は名前しか聞いた事がなかった。か睦美によれば、かなりの老舗のようだが、最近はヒット作がないということだった。
面接はプロデューサーの栄村と監督の轟木を名乗る男二人で行われた。この時、同じように背が高い痩せた女が三人も一緒に来ていた。それを見た美香はこの中で真ん中ぐらいかな? それじゃ落ちてしまうよね。と考えてしまった。
面接で四人は渡されたメモでお芝居をしてみたり、動作のチェックや志望動機などを言わされたりした。この時美香は可もなく不可もなくといった出来栄えだったので、負けたかもしれないと、心の中で少し落ち込んでいた。
轟木監督は四人の顔を良く見てから、映画の事を語り始めた。
「今回の映画は『青銅の魔人―昭和最後の奇談―』というタイトルなんだ。田村坂先生の脚本でね原作は江戸川乱歩先生なんだ。今回の作品は原作を大幅にかえていてね、時代設定が昭和時代末期にしているし登場人物の設定も大きく変えたのだ。明智小五郎はそのままだけど、相棒の小林少年を大学生という事にし、それにあわせて君たちの誰かが射止めることになる雪子も高校生にしています。だから成人が小学生役をすることはないよ」
そんな話を一時間以上聞かされたが、四人の中には居眠りしていたものもいた。しかし、美香はこれは駄目だなと思い諦めてしまった。
「ところで、今回の雪子役はどの娘にしますか? 」
面接会場の隣には悪魔のようなファッションをした男がマジックミラー越しに四人を確認していた。
「そうだな右から二番目の娘だ! 他は大なり小なりの違いしかないが、あの娘ならきっと青銅の甲冑の虜になるはずだ。採用を決めたら早急に甲冑を発注してくれ」
数日後、製作会社から採用通知が送られてきた。そこには返事を促す文言と撮影日程表が書かれていた。美香はムチャクチャ喜んだが、雪子役で本当によかったのかしら? と考えていた。