第一話 「美香」 (改訂版)
東京郊外のある町にすむ、フリーターの美香の日常は朝から晩まで様々なバイトに勤しむ日々であったが、その収入は東京で窮屈な貧乏アパートで一人暮らしするには必ずしも十分なものではなく苦しいものであった。女一人で暮らすのもギリギリだった。
そんな苦しい生活に耐えていたのは、幼いころからの夢である女優としてデビューするためのものであった。チャンスを掴み女優のキャリアをスタートするために故郷を離れ東京に出てきたが、すぐには上手くいかなかった。
劇団やテレビ番組など数多くのオーディションを受けたが、ことごとく不合格になっていた。いままで映像作品に出たといえばエキストラで参加したことがあるだけであった。しかもエキストラといっても交通費のみのギャラで他に出ても弁当ぐらいであった。
そんな状態では、とてもじゃないけど生活していけるものではなかった。そのためチャンス獲得のためにAVにでも出てみようかと本気で考えた事があった。
美香の取り柄といえば、スレンダーな体つきで背が高いことだった。だからエキストラのオファーが来るのは、もっぱら背が高い女が必要な場合が多かった。
「美香、あなたどこかの劇団に入ったらドウなのよ! チャンスを求めて闇雲にオーディションを受けても駄目じゃないのよ! 悪い事は言わないから入ったら? 紹介ぐらいはしてあげるからさ」
東京に出てきて唯一の友人といえる睦美にはいつもこのように駄目だしされる。彼女がいうには美香は背が高いけど取り立てて美人ではないし、スレンダーだけどセクシーさにかけるし、演技力はといえば好不調の波が激しく、本番に弱いタイプと指摘されていた。
美香も劇団に入るべく有名劇団のオーディションに受けた事があったが、最終面接で脱落したのが最高で、まだ劇団に入った事はなかった。しかも、劇団に入っても生活のためにアルバイトをしなければいけないので、今よりも苦しい生活になるような不安があった。
「そうだね、あたしも上京して二年になるけど、このまま埒あかんしね。そろそろ、田舎に帰るか正社員になるために就活でもしなきゃいけんかなと考えていたんだよ。でも未練もあるのであなたがいうように劇団に入って基本から学ぶのもいいかなとも考えているのよ。女優の夢諦めたくないしね」
この日いろいろ話をしたが、睦実は知り合いになんか都合の良い話がないか聞いてみるといって別れた。この彼女が持ってきた話が美香の運命を大きく変えるとは思ってもいなかった。