最終話「抱擁」
映画「青銅の魔人」であるが、諸般の事情により一般公開されないお蔵入り作品になってしまった。その理由を美香は知らされることはなかったが、折角のデビュー作が幻になったのは残念でしかたなかった。デビュー作品がお蔵入りになったので顔は知られることはなく、そのまま夢を諦めて田舎に帰ることになるだろうと思っていたところ、予想外の事が起きてしまった。美香が人気女優になったのだ。
最後の思い出として応募した連続テレビドラマでまさかの主役に抜擢され、そのドラマが空前のヒット作になったので、その後もオファーが殺到したのだ。そしてメジャーな女優になっていた。彼女は多忙な日々を送っていたが、一部の者にしか知られていない秘密があった。そう毎週一夜は青銅の魔女になってしまうことだ。
「美香さん、どうして木曜日から金曜日の晩はNGなんですか? 撮影の予定の設定が難しくなるですが」撮影が深夜に及ぶ事になったテレビ局のプロデューサーは不平の声をあげていた。
「本当に申し訳ございません、本当に申し訳ございません。どうしても帰らないといけないのです。許してください」美香は何度も頭を下げていると、プロデューサーの後ろに何故かテレビ局の社長が立っていた。
「まあ、そういうことだ。彼女を帰らせたまえ! そうしなければならないのだ。穴埋めはしてもらえるからいいじゃないか」
「社長! どういうことなんですか? 撮影現場に直接来られるなんて! なぜそこまでされるのですか?」プロデューサーは現場への介入じゃないかと不審に思っていたが。経営者からの直接指示なのでシブシブ応じていた。
美香は急いでハイヤーに飛び乗っていたが、今日はある方のところにいかないといけなかったのだ。青銅の魔人の元に。ハイヤーから飛び降りた美香は急いで古い洋館の中に入っていった。そして彼女はエントランスを通るとすぐ、着ていたあらゆるものを全て脱ぎ捨ててしまった。すると彼女の身体に変化が現れてきた。
一糸纏わぬ生まれたままの彼女の白く綺麗な肌 -メジャーになったので磨きがかけられていたー がブロンズ色に変化したかと思ったら、甲冑のように変貌していった。青銅の魔女となったところで目の前には青銅の魔人が立っていた。
「おひさしぶりね、待たせてごめんなさい」美香いや青銅の魔女は彼に話しかけ、ハグをしはじめた。その姿は人間同士というよりも神同士の抱擁のように思えるぐらい神々しかった。
「お前のように俺の連れになる女性を待った甲斐があった。そのために数多くの女性を犠牲にしたのは残念だが」
「それは言いっこなしよ! 最悪でも記憶喪失ぐらいですんでいるから。でもこうして私が青銅の魔女として適合したんだから、そうでしょう? 明日はオフだから楽しみましょう。お互い」そういうと青銅の魔女は魔人を誘っていた。
「そうだなあ、俺がこんな身体になったのは未知の生命体に犯されたからだが、ツガイの片割れだったので、どうしても女性に寄生しなくてな。それで探したわけだけどお前でよかったよ。こうして満足できるからな、俺もこの青銅の寄生体も!」
二人の青銅生物は屋敷内のある部屋に入ると青銅生物として融合し始めた。二人が接することが出来るのはもうこの状態でしか出来なかったからだ。
「あなた、こんなアヴァンギャルトな姿、普通の人が見たらなんというかしら? さしずめゾンビか悪魔の戯れかしら?」
「お前もそこまで言うのか? まあそうかもしれんな。なんだって青銅の甲冑から様々な触手が伸びているからな。でもこうしないと俺らはもう人間として交わることができないからな」
「でもキスは出来るわよ! それにしても、まだ結婚してもらえないかしら?」
「まあ待て、お前絶好調だろ女優業は? いま結婚したら人気絶頂の女優と大実業家との結婚、格好のマスコミのエサになるだけだ」
「そうだけど。でも一週間に一回はこうしなければ私たちは生きていけないでしょ! もう契りを結んだ以上は離れたら死ぬだけでしょ」
そういってふたつの青銅生物の抱擁は続いていたが内部では美香と相手の男が人間の男女として融合していた。その姿は怪奇そのものであった・・・
この作品が当方初投稿の作品でしたが、なかなか完結させることが出来なかったので、ようやく終えてホッとしています。当初から怪奇モノにしようと思ったのですが、中途半端になってしたったような気がします。
いわば処女作で至らぬことばかりでしたが、最後まで読んでいただいた方、感謝します。
2015/12/31脱稿