第十三話「変貌」
美香の身体はブロンズに輝いていた。とにかく苦しかったので水道の蛇口を開いてコップの水を注ごうとしたが、水が飲めなかった、口がふさがっていたのだ。そう彼女の身体はブロンズ像のようになっていた。心もあるし手足も動くのに、硬い身体になってしまったのだ。
「どうしてなの? わたしなんかの罰を受けるというのよ? まだ人間なのに・・・」
そう思っていたが、彼女のブロンズと化した皮膚が甲冑のように隆起しはじめてきた。痩せすぎて貧相な感じさえする彼女の裸体は昆虫のような外骨格が形成され覆われていった。その姿はまさに映画の撮影の時に着ていた青銅の魔女そのものだった。しかし感覚はその時と違っていた。自分の身体の一部と認識していたからだ。
「どういうことなのよ! 私自身が青銅の魔女になったというわけなの? でも本当に不思議だわ、あの衣装を着ていたときは拘束感と圧迫感に苛まれていたというのに、いまは気持ちいいわ。なんなんだろうか?」
美香は自分の姿を見ようと部屋にある古くてヒビが入った姿見で確認しようとたが、鏡に映る自分の姿に驚嘆していた。大変美しいと思ったのだ。
「これが私? いままでの私なんかと比較できないぐらい美しいわ! でも、この姿で生きていかないといけないの? 誰か教えてくれないかしら・・・そうだ! 監督に聞けば!」 そう思って美香は外に出て行った。こんなに重量のある姿にも関わらず、まるで裸でいるようかのように軽々と歩いていけた。でも警察官に職務質問されないかと気持ちはギドマドしていた。
わざわざ外出したのも携帯電話を持っていなかったからだが、いまどき公衆電話を探す方が難しいのであるが、美香は近所の公民館前の路上にあるのを知っていたので直ぐ電話をかけた。監督に事の次第を報告したが、美香は相手が疑うこともなく、また驚かないことが不思議でならなかった。
「そうか、やっぱり君は適合したんだな。それはラッキーな事だよ。その姿だが朝が来れば元の姿に戻れるが、望めばいつでもなれるからな。でも一週間に一回夜はその姿に変貌するわけだ。そうなった理由だがあの人にしてもらうよ。そうだ映画で青銅の魔人をやっていた人だよ。この映画の出資者も彼なんだ。君は彼に選ばれたという事だよ。これから君は幸せになるんだからな、役者としても女性としてもだ」
そう監督は言っていたが何のことだが美香には理解できなかった。しかし、青銅の魔女に変貌しなければならないし、そうならないといけない身体になったことは判った。
美香は夜の街を闊歩し始めた。数少ない通行人は一瞬驚きはするが、なぜが恭順の態度を示し、誰も不審そうな顔もしないし警察にも通報されることはなかった。美香は青銅の魔女として夜の世界に君臨していた。それはずっと続くことになった。