第十二話「脱皮」
雪子が出演する場面の撮影が終わったので、美香の身体から「青銅の魔女」の甲冑をはずしてもらうことになった。それにしても若い女に着ぐるみを着せたままにするなんておかしな話だった。でも、このころになると気に入っていた。まるで自分の身体のように感じていたからだ。
「ちょっとおしいかな? でも一生こんなものを着て過ごせないよね。それに他の仕事できないよね」
このとき美香が思っていた他の仕事とは、女優ではなくアルバイトのことだった。すぐ別の女優としてのオファーが来る事もないし、この映画のギャラなんて安いだろうから、生活のために他の仕事を探さないといけないと考えていた。
まず美香の身体から甲冑を外す作業が始まったが、一点一点が高価な特注品らしく丁寧に外され、棺桶のような大きな箱の中に収められていった。「ようやくこれで青銅の魔女の姿から解放されるのね。このまま映画のキャンペーンをしなさいとか、はたまた一生青銅の魔女のままで言われなくてよかったわ」
そして全ての部品が外されると美香の素肌が現れた。しかし、美香は全身タイツのようなインナーを脱いでいないことに気付いた。すでにインナーを構成していた物質は美香の表皮と一体化していたのだ。そのため、美香の身体にあるはずの体毛の類のものは一切存在しなくなっていた。
「これって、いったいどうしたというのですか?」
そういってみたが、衣装係りはそんなの気のせいじゃないの? といって取り合ってくれなかった。
軽くなった身体に私服を纏い帰宅する美香。次の仕事の当てなどない事は気にはならない解放感に満ち溢れていた。この時から美香の身体に新たな変化が始まっていた。
いままで体が過労などで痛くなる事もあったけど、なんか身体が生まれ変わったように軽いのだ! なんか幸福感でいっぱいだった。そんなこんなで眠る時間がやってきた。美香は着ていた服を脱いでパジャマを着ようとして下着姿になった。この部屋には姿見なんて良い物はないので小さな手鏡で自分の姿を見ていた。
「なんか綺麗な肌になっているわね。まるでエステにでも行ったみたいなのかな? そんなところ行った事無いけど」
そう思って見ていると急速に体が熱くなった! その熱さにたまらず美香は着ていた下着を脱いでのた打ち回っていた。美香は苦しんでいたが一人暮らしなので誰にも気付いてくれる人はいなかった。
「どうなっているのよ熱いよ! なんか身体がにえたぎっているみたい! 誰か助けて!」
そういっている最中、ついに美香の身体の変化が始ったのだ。体中がブロンズに変色し輝き始めた! どうなってしまったの? という疑問があったが暴走的に美香の身体は変化し始めた。脱皮が始っていたのだ。