表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

陽が落ちて

 やっと帰れると思うと、今までの不安定だった気持ちがようやく安定し始めた気がした。



《陽が落ちて》



 アヤに頼まれて、僕は六日前にこの場所に来た。

 アヤを一人にしてくることは、不安だった。

 周りの人にあまり心を開かないし、多少心を開いている相手に本音を言うことは滅多にない。けっこう心を開いてくれているはずの僕やハルル先生にだって、心の(うち)を打ち明けてくれることは少ない。なのに、淋しがり屋。

 僕を見送ってくれた時、アヤは笑っていた。でも、それは作り笑いで。本当は「行かないで」と言いたいのに、それを我慢して言わなかった。


「やっと帰れる」


 会議が行われた屋敷を出る時、思わず心の声が漏れてしまった。

 だいたい、午前中に解散するはずだったのに、午後にまで長引いたのが悪い。

 馬車を使うと二日ほどかかってしまうので、僕は魔術で移動することにしていた。ただ、あまり街の中で魔術を使いたくないため、移動は街を抜けたあとの人気のないところでするようにしている。もちろん、ここに来る時もそうだった。

 長引いた会議のせいで、街を出たのが夕方になってしまった。早く帰りたいのに。

 馬車道の横に広がる森林の方へ足を踏み入れ、道から自分の姿が見えないだろうと思われるところで足を止めた。

 薄暗い森の中で足元に魔法陣を出現させ、首都の草原に移動した。

 城についたころには、もうすっかり陽が暮れていた。

 急いでアヤがいそうな部屋、執務室に向かった。

 執務室の扉を開けて中に入る。暗い室内。夜の訪れを感じさせる、静かな部屋。執務室の一番奥にある大きめの仕事用の机に、黒い人影があった。

 そっと近付いてみると、その人影はアヤだった。腕を枕にして、静かに寝息をたてていた。

 急に申し訳なく思った。

 夕方には戻るはずだった自分のことを、ずっとここで待っていてくれたのだ。


『おかえりなさい』


 この一言を言うために。

 帰りが予定より遅いのを心配しながらも、待っていてくれた。ただ、それだけで嬉しくなる。


「ただいま」


 眠っているアヤの耳元で囁いた。


「ん……」


 すると、小さく声を上げ、ゆっくりと頭をおこした。そして、眠たそうに目をこする。その仕草が可愛らしい。


「あ。えっと……」


 いつの間にか眠っていたことに気付いたようだ。慌てて僕の目の前に立つが、少し気恥ずがしいのか、すぐに下を向いてしまった。

 だから、僕は微笑みを浮かべて、もう一度同じ言葉を言った。


「ただいま」


 暗い室内だったけれど、アヤが笑ったのが判った。そして、優しい声で言葉が帰ってきた。


「おかえりなさい」



fin.




H24 11/17~H25 2/5

…ひとやすみ…

《想うのは…》シリーズ、一応完結です。

もしかしたら、後日談があったりして。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ