流した涙と流れ星
《流した涙と流れ星》
ふと自室の窓から外を見れば、闇に白い光をそそぐ月の姿が見えた。誘われるようにバルコニーに出て、まるい月に目を向ける。
今になって後悔している自分がいる。こんなに淋しく思うとは、あの時はまだそう思っていなかった。
仕事で、このことはタクトに頼んだ方がいいと判断した件があった。それは、重要なことだったからだ。
ただ、馬車で片道二日ほどかかるところに行かなければならないし、向こうでの滞在期間は五日になっている。魔術で移動してどんなに早く帰ろうとしても、最低六日はかかる。
タクトに話をすると、彼は快く受けてくれた。
『行かないで』
自分が決めたこととはいえ、タクトに説明やら話をしている間ずっと思っていた。
けれど、仕事だからと言い聞かせて、その言葉は飲み込んだ。代わりに出てきた言葉は、心の中とは違う反対のもの。
「いってらっしゃい」
仕事に私情は持ち込まない。そう決めた。だから、淋しくても我慢する。
会えないのは、十日くらい。
大丈夫。
そう思ったのに。
タクトが城を出て三日。
夜、タクトに会うことはないが、城にいるということだけでも安心できた。しかし、今はいない。いつでも感じるタクトの魔力も、今はかすかに残ったものだけ。
いつからこんなに弱くなったのかは判らない。判らなくてもいい。ただ、いつも感じるぬくもりがないのが、心細い。
(早く帰ってきて―――)
そう願ってそっと目を閉じた。つうっと頬に伝う温かい雫。
タクトがいない。たったそれだけのこと。
でも、私にはそれだけのことではない。もっと、重要なこと。
見上げた空に、静かに流れる星の涙。
流れ星に願いをこめて
君に逢いたい。
fin.
H24 5/28~7/17
…ひとやすみ…
夜に執筆、というか話を考えると、感傷的になりやすいような気がします。
『流した涙と流れ星』この言葉は、お風呂に入ってる時に降ってきました。タイトルにいい感じ、と思い、試しに話を考えてみたらこうなりました。
続きとかタクト視点とか、話が浮かんできたら書いてみたいです♪
ブログより