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ともだち 【読み切り短編】

作者: 鋏屋

「友達でいようって…… そう言われたの……」

 仕事帰りの午後の公園のベンチでコンビニカフェを啜っていたら、そんな声が耳に入った。見ると高校生の女の子が、私の座っているベンチの二つ向こうで話していた。ベンチに腰掛けた髪の長い女の子がハンカチで目を覆い、両わきで2人の女の子が彼女に慰めの言葉をかけていた。

 何気なくカフェに刺さったストローを回して耳を傾けると、どうやら告白して振られてしまった友人を慰めているようだった。

 今時珍しいセーラー服で、長い髪で顔を隠しながら肩をしゃくるようにして泣く女の子と、それを慰めて元気づけようと、若干幼さを残した声で肩を撫でるようにたたき合う彼女たちを横目で見ながら、私はそんな彼女たちを可愛いなと思った。

 私は、あんな風に可愛くできたのかな……


「やっぱり、友達でいましょう」

 そう切り出したのは私の方だった。

 会うたびに、終わりにした方がいいと思いながら、心が言うことを聞いてくれなかった。いけないことをしているという自覚も、そして一人になった後で、きっと酷い自己嫌悪に陥ることもわかってた。でも会ってしまうと気持ちに流されてしまった。会えば笑顔になって、離れれば涙になって、その繰り返えし。

 高校の同級生で

 そして私の親友の夫でもあった。

「再会するのが遅すぎたな……」

 いつか、あの人は私にそう言ったことがある。

 でも私は…… 私にはきっと突然すぎた再会だったんだと思う。前の彼と別れて半年、うまくいかない仕事。毎日を生きるのが精一杯だった私には突然の再会だった。運命の神様はきっと意地悪なんだろう。

 そんな私だったから、ただの同級生以上の関係になるのに、さして時間はかからなかった。たぶんあの人も色々と思うことがあったんだと思う。

 あの頃の私は、あの人との時間が全てだった。時間が理不尽なまでに早く過ぎると、あんなにも感じたのは初めてだった。

 愛してるって言わないでほしかった。

 一人になったとき、罪の重さにつぶれてしまいそうだったから……

 ありがとうなんて言わないでほしかった。

 これが最後なのかもと考えてしまうから……

 ただ黙って、夜が深くなるまでそばにいてほしかった。

 叶わなくてもいい…… 

 そんな覚悟をしていても、伝わる温もり以上の何かを期待してしまっていた。あの人を困らせるようなことも、何度か言ってしまったこともある。言ってしまって、自分が嫌いになって、あの人が帰った後夜通し泣いたこともあった。

 それでも私は幸せだったんだ。

 でもある日、私はあの人に別れをする決心をした。

 きっと私は自分につき続ける嘘に、疲れ切っていたんだと思う。

 だから別れは私から切り出した。

 友達でいよう……と

 何度も飲み込んできたその言葉を、やっと口に出せたきっかけが何だったのか、今では思い出せない。

 ただ一つ確かなのは、さよならを決めたのはあの人のせいではない。いつかどこかで、言わなければならない台詞だったから……

 高校時代に、友達から始まった私たちの関係は、再び友達に戻った。

 しかし、あの頃のように、決して心を通わせることのない。友達って言葉が別れの言葉になるなんて、高校時代には思いもしなかった……

 苦い味を残したままの、友達という関係。そう、ちょうどこのモカブラックのように。


 不意に前髪を風が揺らしていった。秋が深まり、冬の到来を予感させる夕方の風はとうの昔に冷えた感情を今一度冷やした。見ると高校生たちの姿はもうなかった。

 モカブラックの最後の一口を啜り終え、私はふぅとため息をついた。舌の先に少し苦みが残った。

 次は、キャラメルマキアートにしようかな……

 私はそんなことを考えながら、秋風の吹く公園を横切り、家路についたのだった。


おしまい。

会社帰りに通りがかる公園で喋っていた高校生を見かけ、それをネタに書いた短編です。心情描写と背景描写の練習って感じですかねw

しかし私にはやっぱり恋愛物とショート×2は難しいですね。

鋏屋でした。

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