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あの町のアカシ  作者:
3/4

マウント・ステーションと呼ばれる縦長の駅にて②

(11/17)書き足し済み

(11/18) 修正 多少書き足し

 僕の肩を後ろから誰かが掴んだ。その何者かは僕の頭を体ごと揺らして、そして耳元で叫んだ。

「アカシ!!」

 それはベイクだった。ベイクの声で僕はやっと正気に戻った。僕は白光に魅せられていたのだ。本当にこんなことがあるんだと僕は戦慄した。

 マウント・ステーションにはある特殊な白光を発する照明がそこいらじゅうに取り付けられている。天井にも壁にも、空いた隙間を埋めるようにその照明は張り巡らされてある。マウント・ステーションの白光は思い出をちらつかせ、時間を無意識のうちに過ごさせる。マウント・ステーションに散らばる白光は僕らのような招かれざる客を邪魔するためのものでもあるのだ。白光に魅せられた儚い者は思考の渦へ深く深く落ちていく。僕らを町という名の牢獄に捉えようとする。噂には聞いていたが、自分で体験するまでは信じられないことだった。


 僕は時計を見た。残り20分。

 幸いなことに僕らは走りを止めることはなかったらしい。風景がさっきまで見ていたものとは違っていた。左右には売店や飲食店が並んでいた。売店では二人の学生客が新聞を眺めていて、飲食店ではがら空きの店内でアルバイトの店員がタバコを吸っていた。僕は真っ直ぐ前を見る。これから行く先は売店でもなければ飲食店でもない。稲妻号はもっと奥にある。目の前にはとても高く、とても長い階段がそびえていた。


 ベイクが横に並び、自分の掛けていたサングラスを外し、僕に渡そうとした。これを使って、マウント・ステーションの放つ白光から自らを守れという意味にとれた。それは亡き父の形見だったか、よく覚えていないが、ベイクにとって大切なモノだったはずだ。僕は受け取れないとベイクに示すため首を横に振ったが、ベイクは無理やりサングラスを僕に押し付けたので、仕方なく僕はそれを受け取った。


 僕がサングラスをかけると、ベイクは僕を追い越してレミの後に続いた。先頭から、レミ、ベイク、僕の順だ。レミはもうすでに目の前にそびえるとても高くて長い階段を中腹辺りまで進んでいた。階段を跳ねるように登っていくレミの後ろ姿に、もう後ろを振り返ることはなさそうだと僕は思った。


 僕は階段の前で一旦立ち止まり、強固な覚悟を決めて階段を登りはじめた。階段の横には当然、階段と同じだけ長くて高いエスカレーターがあったのだけど、その乗降口には警備がいたのでエスカレーターを使うのは無理そうだった。なにより、エスカレーターは搭乗可能人数の限界近い数もの人間が乗っていたので、急いでいる僕らが、それをかきわけて登って行くのは無理な話なのだ。全速力で目的地へ駆けねばならない僕らは、素直に階段を2段跳ばしで駆け上る他ない。


 ベイクからもらったサングラスは思ったほど僕の視界を遮らず、それはマウント・ステーションの構内がおかしなくらい明るかったからだといえる。以前、僕がベイクのサングラスをかけた時はもっと視界が真っ暗で、数メートル先のガードレールすら見えなかったものだ。ベイク愛用のサングラスも使用者の視界をおかしなくらい閉ざすシロモノだった。

 これならマウント・ステーションの放つ白光も暫くは防げるはずだ。これは良いサングラスだ。白光の侵食にもある程度の時間は耐えることが出来る。今のうちに、白光に侵食され尽くされないうちに、心を安定させるんだ。心を強く持て。後の課題は僕の精神的強度だけなのだ。町の暗闇は僕らの弱い心に追いすがる。


 階段を登りはじめて少しすると、後ろから悲鳴が聞こえてきた。耳をつんざくような男の声だった。僕は思わず後ろを振り向いてしまった。レミもベイクも僕の前を走っていて、後ろからの悲鳴は無関係な人物が放つもののはずなのに、振り返っている暇などないのに、僕は振り返ってしまった。


 エスカレーターの乗降口で男がうめき声を上げてうずくまっていた。おそらくそれが先ほどの悲鳴を上げた人物だろうと僕は思った。近くには男のかぶっていたであろう、つばの広い薄いベージュのハットが落ちていた。

 男は必死に動こうとしていた。もがいていた。警備は僕が階段に登り始める前に見た時の姿勢で、立っている位置もそのままに、首だけ男の方を向いてそれを見下ろしている。

 男には足が片方しかなかった。片方の足はレーザーガンで焼き落とされていたらしかった。

 僕のいる位置からではレーザーガンがどこにあるかは分からないが、それは確かな事実である。レーザーガンは警備が所持しているものか、あるいは床のパネルが浮き上がってその下から覗いているのか。肉の焼けた匂いが僕の居る辺りまで立ち上ってきた。この匂いは僕らにとって嗅ぎ慣れたものである。僕らの住む町の警備は皆、これみよがしにレーザーガンを腰にぶら下げて町中を歩きまわるのだ。


 男はどこからかやってきたエスカレーターの乗降口にいる警備とは別の警備に担いがれていった。僕はそこで再び階段を登りだしたため、男がどこに担がれていったのか、これ以上、いったいどのような罰を受けるのかわからない。しかし、きっとただではすまないことははっきりとわかる。

 僕が男の行く先を最後まで見ずに再び階段を登りだしたのは、たかが他人の怪我に時間を費やしている場合ではないからというのもあるが、それ以上に階段の下で暗闇が張っている姿が見えたからというのが大きい。暗闇は僕らの想像以上に速い。


 もう後ろを振り返ることは出来ない。僕らを追ってきた暗闇が階段を這い登ってくる姿が容易に想像できた。


 階段を登るごとに人の数が増えていく。辺りは様々な種類の人間であふれていた。

 詰め襟を着た男女の学生(この町では男女共に詰め襟だ)が階段に座って談話している。恋人同士だろうか。

 口紅のような色をしたヘビ柄の財布を小脇に抱え、金髪ショートの女性が階段をのそのそと登っている。その金髪はきっと地毛ではない。

 町のパン屋もマウント・ステーションに来ていた。おそらく町の外からの輸入食材を引き取りに来たのだろう。僕はターレムの味を思い出し、口の中に唾液が溢れた。

 それ以外にもたくさんの有象無象。そのどれもが僕にとっては侮蔑の対象だ。


 溢れる人の波は、僕の心を強くすることに貢献した。階段を息を切らして登り切った時、サングラスにはすでにマウント・ステーションの白光が侵食していて、全体が乳白色に濁っていたのだが、階段を登り切るまで僕の瞳は白光に魅せられることはなかったのだ。階段を登る途中で思い出に囚われていたら、無意識のうちに登り切ることなど出来なかっただろう。途中で階段を踏み外して、最下段まで傷だらけになりながらずり落ちていたはずだ。


 僕は侵食されたサングラスを見つめてどうしようかと思ったが、このまま持っているのは危険だと思い、小さく「ごめん」と言って、サングラスを床に捨てた。捨ててから誰かに踏まれて粉々なる姿を想像して、罪悪感を感じた。だけど、僕には後ろを振り返ることすら出来ない。誰かに踏まれる運命ではなく、拾われる運命を僕は願った。駅には必ず落とし物入れがあるのだから、乳白色のサングラスだって誰かに拾われる運命が妥当なのだ。

話が展開しないので悩んでます

4000字まで追加するかも

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