マウント・ステーションと呼ばれる縦長の駅にて①
変更
闇夜をそこかしこにある街灯が明るく照らす。街灯から白く伸びる光の線はいつまでも見ていたいほど綺麗だった。その中を僕らは走り抜ける。背後から迫ってくる暗闇に追いつかれてもアウトだったし、町の外へ向かう最終列車に乗り遅れてもアウトだった。列車はきっかりと毎日同じ時間で発車して入構する。しかし、今日だけは特別で列車は定刻の一時間後まで待ってくれるのだ。僕らはそんな今日を逃すわけにはいかなかった。
町の外へ出る本当に最後の最終便、稲妻号はあと10分で発車する。遅れてはならない。
マウント・ステーションへ急いで向かう。
残り25分というところで僕達はマウント・ステーションへたどり着いた。マウント・ステーションとは駅の名前だ。これ以上の説明は省略する。山の斜面に沿って建てられたというくらいのことは想像がつくだろうか。
駅構内に入る瞬間カメラで撮れば白とびするほどの光量に僕は目をつぶらざるおえなかった。だからといって足を止めている暇はなく、たとえ視界が開けてなくても、もとの勢いのまま前に進んでいった。壁だか人だかにぶつかりながら僕は走った。壁とぶつかった数だけ傷ついて、人とぶつかった数だけ罵声を投げられた。
しばらくその状態が続いて、ようやく目の前を走るレミの姿が見えてきた。レミは僕らの先導を切って走ってくれた少女だ。僕が想像する彼女の姿はいつも背中越しだった。想像の中の彼女は背中を向けて僕の手を引っ張ってくれている。
今、レミと僕の手は離れている。彼女は僕に背中を向けて稲妻号のあるプラットホームに向かってまっすぐに駆けている。彼女は彼女で必死なのだ。彼女が息を切らせた姿など今まで一度も見たことがなかった。何度も繰り返すが、今回の最終便を逃したら、僕らが町を出る手段はもはやない。僕もこんな些細な事を気にする余裕はないのだ。手は閉じておくべきなのだ。僕は右手も左手もグーに握りしめ、なるべく大きな振り子にした。
僕の後ろにはベイクが続く。ベイクの手には携帯が握られたままだった。携帯に繋がれたストラップが上下前後左右にでたらめに揺れていて邪魔そうだった。さっきまでベイクが連絡をとっていた相手は誰なのだろうか。正確な誰かは分からないが、きっと母親か父親か、もしくは別の親しい人物との別れの電話だろうと英断する。ベイクはよく町の東の方まで行っていた。東の方にベイクの親しい人物がいるのかもしれない。
もしかしたらあの2つの円盤がついた乗り物もその親しい人物からの贈り物だったりするのだろうか。ベイクは僕らの住む町では珍しく移動手段を持っていた。視界に散らばる白光にいつかの光景がどうしてもちらついてしまう。
あの時ベイクは僕らの間でヒーローだった。