ひより
よく晴れた休日。夏乃は田舎道をバイクで走っていた。
K市の国道で花を供えて、その足である場所に向かう。
山肌に建てられたその場所は、少し離れた場所からでもよく見えた。
「なつくーん」
神社の鳥居の下で、ショートカットの、美少女が、夏乃に向かって手を振った。
「なっちゃん……じゃなくて、ひより、久しぶり」
鳥居の横にバイクを停めて、夏乃はヘルメットを外した。
ひよりは、巫女装束に身を包んでいる。
「へー……」
「なによ」
夏乃は何度か無言で頷いて、
「うん、似合ってる。でも、髪は切らないほうがよかったかも」
「前髪いびつに切っちゃったから、仕方なかったの!」
ひよりは両手で頭を隠すように覆って、もー、と唸った。
「ひより、大学受験は諦めたの?」
石段を上がりながら、ひよりに問いかけた。
「今は考え中。もともと、なつくんの大学の看護学科に行きたかったんだけど。だから、家出中にいろんな大学のオーキャン行ってたんだけど」
くるり、と体を反転させて、ひよりは夏乃を見た。
「こっちの道も、考えてみようかなって」
そうか、と夏乃は笑う。
「そういえば、はたたがみって、何?」
手水で手を清めながら、夏乃は言った。
「前に一度、言ってたよな?」
ああ、とひよりは笑う。
「夏の季語。激しい雷のこと」
「なんだ……」
何か、神様の名前かと思っていたのだ。
「霹靂神と書く。青天の霹靂って、よく言うでしょ」
「うん」
「激しく、荒々しい、雷のこと」
境内をゆっくりと歩いて、ひよりは空を見上げた。
激しく、荒々しい、下手をすれば相手を傷つけかねない。
それほどまでに大切で。
「きっと、彼にとって、君への思いは……」
それ以上は言わない。
言わなくても、夏乃にはわかっていた。
「ひよりちゃん、いつから気づいてたの? 亮介が……」
ふと、夏乃が顔を曇らせる。
彼女がこの言葉を口にしたのは、いつだっただろう。
「内緒」
少女がふわりと、笑った。