送られたというか落された。
蒼は犬が好きです
あの青年に初めての口付けという形で世界に関わる情報を得たあたし。
まだ夢のようなふわふわとした感覚の中。あたしはその情報を大方にまとめるとこうだ。
まずキスしてきた変態兼青年。あれは日本で生きていた弟の魂の半分らしい。
何で半分かなんて突っ込まない。頭に入ってきた情報はややこしくて、思考回路単純なあたしには説明できません。とにかく弟だと言われたので空と呼んでいいか、と尋ね了承されたのでよし。弟にキスされたのかという危ない線もノーカウントでいこう。口付け以上の線は超えてないもん。
次に森で案内役をしてくれた彼(大きなおおかみもどき)。
あたしと一緒に送られるらしい。空曰くイイパートナーになってくれるだろうから、名前も付けてやって、だって。うんわかったよ。ぴったりの名前考えるね。
そしてあたしが送られる世界。5つの大きな国で成り立っていて、東に水の国、西に風の国、南に火の国、北に地の国。そして中央に天座。あとは日本でもよくあった某ファンタジーに似ている。ギルドが存在し、モンスターもどきが居て、魔法が存在する。
その他、かくかくしかじか。そこら辺はレッツ経験、だそうです。そして最後に
”いつも見守ってるよ、蒼。”
そんな言葉を残され、あたしの意識はそこで背中に衝撃を感じることで遮断された。
「いっ!たーい・・・」
あたしは柔道で背負い投げされたような痛み(されたことないけど)に顔をしかめながら体を起こした。見渡せば周りはとにかく白。教会のような細工の石造りの壁、柱、祭壇。いくつかある小さめの高い天井窓から光が差し込んでいる。ここは天座に存在している神殿だ。そして祭壇の上にはまさかの巨大な弟像。しかもありえないほど白いエンジェルスマイル。
”いつも見守っているよ、蒼” ふと、空の最後の言葉が頭をよぎる。
空の言葉を思い出し、お前はどこぞのシスコンかと眉間にシワを寄せていたところ、ふしゅんっと鼻息を横からかけられた。振り向くと案内役の彼がじっと見つめている。
「ご、ごめんごめん!空の白い笑顔、小さいころ以来見たことなかったからさ・・・」
思わず本音が出てしまって言葉につまる。彼はじっと聞き入って、あたしを見つめたまま。そこでふと思い出す。名前、あげるんだった。
「・・・」
「・・・」
しばらく無言でお互いを見つめ合う。あたしは目の前の彼をじっと観察して気づいた。彼の毛並みは神殿の白に属していない。彼の白はもっとこう、なんというか・・・
「銀・・・?」
に近い気がする。 彼の耳がくいくいっと動き、ふぁさり、2本のしっぽが揺れたので、
「銀」
はっきりと呼べば。彼は近寄って頭を摺り寄せてきた。さらさらした毛並みとじんわりくる温もりに自分の頬が緩むのを感じた。
「銀、あったかいね」
立ち上がって銀の首に手を回し、ぬくもりを確かめるように、顔を埋めると安心感に包まれた。
しばらくそうしていると、銀がぴくりと反応し扉を警戒し始めた。何かと思い耳を澄ませば慌てたような複数の足音、話し声が近づいて来る。あたしは顔を上げて隠れられるような場所は無いか探したけど、ここは神殿。見晴らしがよすぎる。あたしはまだしも銀も隠れられそうな場所は見当たらない。
あたしは頭をフル回転させ対応を考えた。
相手は味方じゃないからあたしは何をされるかわからない。ここは隠れる場所なし。扉は一つ。
とすれば、できることも一つ。
「銀。逃げるよ」
あたしの考えを察してくれた銀は、あたしを背に乗せ、祭壇のほうへ移動し、扉に向かって身構える。ばたばたと足音は近づいてきて、扉が一瞬光った瞬間。
「今だ」
あたしの合図と同時に、銀は扉に向かって駆け出した。
走れ銀←