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世界って広いんだね  作者: 椰代
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4/13

声の主は予想外

 私も予想外です。


 辺りはすっかり暗く静まり返っている。でも、白い狼を見失ってしまうことは1度もなかった。



 ところでこの案内役、狼って言っちゃっていいんだろうか。それはもう真っ白なすんばらしいキューティクルの毛並み。馬くらいの大きさで、ふっさふさのしっぽが何故か2本。


 うん、わかりやすく例えるとジ○リのヤマイヌさん。実は彼も山の主だったりして。

 歩くたびに揺れるしっぽを見ていると、心が和む。でも、しっぽが2本もある大きい狼なんて、DVDでしか見たことがない。いるはずもない。今思い返せば、今から会う声の主も謎だ。そもそもあたしはいつテレパシー能力に目覚めたんでしょう。顔も知らない誰かと普通に会話しちゃったけどさ。



 「・・・。」


 そこまで行き着いてあたしは考えるのを止めた。だって今から会える声の主は、きっとあたしのことを知ってる。あたしが電車に乗っていて、こんな状況になっちゃったミステリーも知ってる。というか、もしかすると関係者かもしれない。何はともあれ会ったら全部聞き出そう。


 しばらくして、森がひらけて大きな湖が見えてきた。月は出ていない。星が、輝いている。あたしには大地が煌めいて見えた。なんて神秘的なんだろう。足を運ぶのも忘れてあたしは立ち尽くした。


 案内役の彼は湖の傍まで行って、後ろのあたしに向き直った。じっとこちらを見つめてくる。

こっちだよと言われたような気がしたから、あたしも彼の隣まで歩み寄った。



 「うわぁ・・・! 綺麗・・・!!」



 宝石がちりばめられた水面を覗き込むようにしてかがむと。



 「蒼。待っていたよ」



 「えっ!?わっ・・・と!」



 突然傍で生身の声がしたので驚いて体勢を崩してしまった。

湖に落ちる!と目を瞑ったけど、ぐいっと強い力で引き上げられる。



 「いやあ、危ない危ない」



 苦笑が混じった声の主の声。あたしが恐る恐る顔を上げると。



 「・・・(う、わあ、綺麗)」



 動揺で声がでなかった。若い青年だ。弟に似ている、ような気がする。でもあたしが一番目を惹かれたのは翡翠色の目。日本人をやってるあたしにはもちろん縁がない色で。そもそも外国人で翡翠色の目の人なんているんだろうか。

 いやいや。見惚れてる場合じゃないよ自分。この人には聞きたいことがたっくさんあるんだから。



 「ということで、ここ何処ですか?あたしを地球、日本に返してください」

 


と目を見て単刀直入に聞いた。大丈夫。この人には全部わかってる。たぶんだけど。今は初めてのアローンサバイバルで極度のホームシックなんだ。言葉足らずは堪忍してください。後はもう今すぐ家に帰りたいです。


 声の主はというと、あたしと目が合った数秒間、目を見開いて硬直していた。そして次の瞬間、くすりと声を出して笑った。



 「・・・何がおかしいんですか」



 疲れていて早く返りたいあたしは声の主を睨んだ。


 「ここが君のいた世界じゃないってことはもうわかってるんだね。

  悪いが蒼を元の世界には返せない。蒼、、君は元の世界では他界しているんだよ」


 「え・・?」


 「君は朝、寝坊して遅刻しそうになって電車に乗った。その電車が事故に遭ったんだ」


 「・・・」


 「・・・。おいで。見てご覧」


 青年は湖に近寄って、水面に片手をかざした。すると水面に家族が映る。父さん、母さん、友人達。皆が喪服を着て順番に手を合わせていた。弟は見当たらなかった。そして祭壇の上には、あたしの笑う写真。


 「君は本来、命の流れにしたがって他の命たちと魂の川を廻る筈だったんだけどね・・・

  俺がたまたま見つけたんだよ。だから捕まえて連れてきたんだ。」


 「・・・どういうこと?」


 青年の説明曰く、命は廻り、ある一定の周期がやってくると、どこかの世界に根付くらしい。

そしてあたしはあの電車で死んだ後その周期に乗って廻り始めるところを、この人に捕獲された、らしい。まさか自分が他界しているっていうのは予想外。この人に連れてこられたっていうのも予想外。もうどうでもいい。全てが予想外なんだもん。


 「ところで蒼、今度はこっちの世界で生きてみる気はない?」


 青年は真剣な目であたしに尋ねた。何かあるのかと思ってあたしも真剣に返した。


 「・・・あたしに何か役目があるんですか?」


 「え?役目なんてないよ。俺のわがままだし」


 「・・・え?」


 さらっと言った。今この人さらっと言ったよ!わがままって!わがままって何!!

動揺が顔に出たのか否か、青年は宥めるようにこう続けた。


 「ははっここは俺の世界なんだよ。蒼に行って欲しい世界ってここじゃなくて、

  俺が神様の世界のこと」


 「・・・待て待て待て。あんたが神さま?」


 弟に似ている分、信じらんねえですよあたしは。何か怖いんだけど。

あたしの動揺に対して青年は笑顔で答える。この笑みは、、


 「いやだなあ蒼。行けばわかるよ行けば。そう、行ってみなくちゃわからない」


 態度がコロコロ変わる青年の顔はもはや神と思えず。弟の外国人バージョンに見えてしまう。

うん、青年のそれは、弟のシニカルな空にそっくりで。


 「君は俺の波長とすごく相性がいいんだよ。これも何かの縁と思ってさ」


 青年は呆然とするあたしを見て、面白いのか何なのか。とにかく笑いが止まらないらしい。ツボに入ると中々抜け出せないところもそっくりである。ますます弟に見える。


 「ふ・・・あはははっ!ダメだもう俺もう説明無理~ とりあえず俺の世界に送ってあげるね?

  心配しないで。ちゃーんと必要な知識は行く前に伝えるからね。

  あぁ・・・嫌なんて言わせないよ。俺と相性の合う魂なんてもう随分巡り会ってないんだから」


 拒否権ナシってか。しかも後半から青年の言葉は急に声色が下がった。それに目がなんていうか・・・ 獣・・・?身の危険を感じて後ずさるには遅かった。



 「・・・!!」


 はっと気づいたときには腕を引き寄せられ、腰に手を回され、顎先をつかまれ顔を持ち上げられていた。・・・何この恋人的状況。顔が弟と似てるせいか全然ときめかないんだけど。


 「はあ、鈍いなぁ、、ちゃんと警戒してよね。・・・蒼姉さん?」


 「え?!って空?! な・・・んっ」


 確認する前に唇を重ねられてしまった。

そこから何か、大きな力のようなものと、空が神であろう国に関するであろう歴史、知識、全てが鮮やかに流れ込んできた。あたしは青年から伝わるそれに驚いて、手で押し返そうとしたが、やんわりと止められた。そして大量の情報に頭痛がしてきた。


 あたしは、意識を手放した。



 どうしようすごく予想外に・・・!!

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