あたしを呼ぶ声
心地よい風があたしの体を撫ぜる。自分の体が湿った土の上に横たわっている感覚。
あれ・・・?あたしは電車のシートで寝てるんだよね。何故に土・・・?
くわっと目を開けば。
「・・・。どこじゃらほい」
――あたしの知らない森。そしてあたしは土の上。
自分、こんな場所で何してるんでしょう。何で森!電車どこ!模試はどうする!パンセット売り切る!!てかどこだここ、もうやだ現実逃避したい。
「・・・。とりあえず誰かに連絡しとこう」
それから2時間ほどだと思う。 あたしは気づかされた。
持っていたはずのケータイはかばんを探しても制服を探しても、どこにもないことに。
連絡手段はなし、と・・・
そこであの岩場に留まっているよりも、自分の勘を信じて現地の人を探すことにした。
日本でいう春の午後3時くらい、だろうか。 森は太陽の陽気を十分に蓄えているせいかぽかぽかとして暖かかい。きらきらとした木漏れ日に癒されながら歩き続けた。
けれどもあたしは女子高生。馴れない森を歩き続けるスタミナは限られている。時間は待ってくれない。気がつけば太陽はゆっくり傾いてきていた。肌で感じる風も冷たい。もうかなり歩いたはずなのに人も、鳥も見当たらない。太陽は沈む手前。
どうして誰もいないのか。急に大きな不安と寂しさがが押し寄せてきた。
「・・・っ」
あたしの体は長時間馴れない森を歩き続けた疲れからか、細い木の根に足を引っ掛けて少しひざをすりむいてしまった。立ち上がって、汚れを落す気にもなれなくて。その場にしゃがみこみうずくまった。さっきとは違った、夜の風があたしの体温を奪っていく。
”蒼”
誰かが自分を呼んだような気がしたのと同時に、
家に着いたときのような、安心感が体を包み込んだ。あたしが顔を上げると、
「・・・。」
目の前に狼に似た真っ白の動物がじっとあたしを見つめていたので驚いた。
”蒼”
また、聴こえた。さっきと同じ声だ。耳から入ってくる声でなく、頭に直接響く弟に似た声。
あたしは試しに、どうすれば帰れる、と単刀直入に問いかけた。
”・・・目の前の彼について行けばいい”
間を置いて声の主から返事があった。
わかりました、と返事をし、次いで目の前の白い狼と目を合わせる。
狼はあたしの目を見るとぱちっと瞬きをしてから、くるりと背を向けて歩き出した。
悪い感じはこれっぽちも感じない。あたしは迷わずその背中についていった。
ありがとうございました。
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