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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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磐城轟丞 いわきごうすけ

作者: 出裸万茶
掲載日:2026/06/11

試作品

磐城轟丞に殺意という情念がまだ形成される前の小さな身体しか持ち得なかったころから、彼の眼差しは、ある道具、一点に注がれていた。彼が図工の授業中に、周囲の景色と切り離されて、独り、机に座っていたとき先生から「危ないから、絶対に、人に向けたりしないこと」と言われて、与えられたカッターを初めて手にした瞬間、彼の人生がそこに充分に詰まっていることを、口を半開きにしたま凝視する態度で決定付けられた。午後の日差しに当てられた刃の光沢を角度を変えて眺め、窓の外に置かれた、誰のものでもない、真っ直ぐ伸びた朝顔の茎を切りたくなって、教室を飛び出していった衝動も、その後の彼の暴力性を端的に表してもいた。初めの事件はその後すぐに起こった。親から貰ったお小遣いで、何の理由も言わずに、カッターを買った一週間後。国語の授業中、隣の席の山田という、野球少年らしい、いばった性格の滑舌の悪い奴に、悪戯をされた。普段の轟丞は物静かな性格で、こうした悪戯にも、何も言わず、押し黙って耐えていた。しかし、今回は以前と違う物があった。彼はズボンのポケットに入れたカッターを握り、見えないように、刃を剥き出して、彼を突き刺す妄想を繰り返していた。この時の轟丞に、怒りというものがあったわけではない。ただ、悪戯を辞めさせたいだけの主張が彼の手をひたすらに動かしているだけだった。山田は先生に注意されても、怯む様子を見せず、ひたすらに、轟丞の頭を触ったり、自分の鉛筆で、轟丞のノートに落書きをしたり、意地悪な口調で、「せんてーにチクったら殺す」だとか、「馬鹿アホ死ね」だとか、いじめと変わりない暴言を浴びせ続けた。轟丞は尚も耐えながら、この時間が終わってほしくて仕方がなかった。やがて、轟丞は声なき声が自分を呼びかけるのを聞いた。それは、紛れもなく、今起こっている原因をとめる唯一の方法として、轟丞の頭からつま先まで、その方向に意識を向けさせるような、鋭い鈴のような音だった。山田がもう一度頭を触ろうとした瞬間、轟丞は勢いよく椅子から立ち上がり、両目を開いて、カッターを振り下ろした。女の子の悲鳴を聞いて、黒板から目を離した先生が生徒たちの方へ、目線を移すと、山田の赤いシャツの袖を切り裂いて、腕まで達したカッターが血を垂らし、それを見つめている轟丞の姿だった。山田は最初、吃驚して固まったまま、直ぐにビクビクと身体を震え上がらせて、泣き出した。轟丞はその様子をつばを飲んで見つめていた。そして、カッターを振り下ろしたときよりも、さらに力強く握り直した。「やった、やっちゃた。」と轟丞が自分の行いを心のなかで呟いたのは、彼が教員室に連れられて、親の到着を待つ間であった。それまでは、これまでの世界と違う、血が付いたカッターと自分だけの世界を把握するだけで精一杯だった。

中学生時代は未定

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