~そして伝説へ~
【まえがき】
本作をご覧いただきありがとうございます。
ブラック企業を抜け出し、異世界で「星屑の勇者」として成り上がっていく男。エンドロールのあとの「既視感」某有名ゲームの3作目のように伝説となる…のか?
▼▼▼
2026年 地方中核都市。
私はいわゆるIターン転職をした。営業職という共通点はあるが全くの異業種。約1年、この業界の事もだいたい分かってきた。これはわたしとちょっぴりおっちょこちょいな新入社員ユイ君が私と同じプロジェクトを追った奇跡である。
私はこの縁もゆかりも無い町で生きてゆく。そう決めてから1年、まずは自分の周囲に示すため必死で頑張ってきた。
ある意味私は「勇者」だ。酔った時に周囲の人間にそんな宣言をしていたらしい。
営業経験はある。業界そのものが違うんだ。私はそれを冷静に分析するために、先輩方のやり方あえて無視し、独自の手法を試してきた。でも、そろそろ良いよね。業界ルールも概ね解ってきたし。
春。新卒採用者が集う、新入社員歓迎会という名の飲み会。
ほぼ強制参加の会社の飲み会。
無礼講と言う宣言は常に形ばかりである。真に受けて上に失礼する新人がいないかを私はチェックしようと思う。トラブルがあると後が面倒だ。
わたしは、集合時間に遅れないちょうどいい時間に居酒屋の暖簾をくぐった。
「今どき強制参加の飲み会とかどうかと思う…」
「タダメシはなんでもうまいから良いじゃん。」
油を落とした鶏肉のボイル、とグリーンサラダ、ソーセージ、そして酢の物。良いね。
一箸ずつ確実に口に運び、味わう。私の体調も悪くない。
あの新人、なかなか気が利く。大皿の料理を手際よく取り分けて配る。そして、何より笑顔がいい。
「そちら、飲み物、切らしてますね。すみません、店員さーん。」
「ユイちゃん、よく気が利きますよね。」
横目で見ながら、私の胃袋は料理を吸い込み、若者たちの声と安っぽい酒と料理が私を酔わせた。
ユイ君の応対は抜群だ。一見人懐っこく見えるが、その節々で、相手の言葉を封じる。強いて言うなら積極的タンクだ。
タイトなスカート。多分伸縮素材だ。危なそうで鉄壁だ。
「流石、勇者様。戦い慣れしてる」
フッ。転職の職場のストレスを思い出せば、こんなの何でもない。ほぼ徹夜の連続接待、地獄の残業と比較。余裕も良いところだ。
「流石です。勇者様、良い飲みっぷりです。」
いくら度数が弱いとはいえ、がぶ飲みすれば酔っぱらう。飲み方を覚えきってない若い奴がつぶれたら大変だ。その思いが私を率先して前線に立たせ、飲み芸を続けさせたのかもしれない。気が付かないうちに私は千鳥足で。おのれ、分身の術…れ?
私は戦闘不能になった。無事アパートまで帰還できたのはユイ君がタクシーを呼んでくれたおかげだったのだろう。
一年ちょっと前
「…君は、東京の…から、わが社に来てくれた、救世主だよ。業界の悪い慣習を打ち破ってくれる勇者になってくれることを期待しているよ」
持ち上げすぎだよ社長。これは鉄道路線一本で繋がった異世界転生だ。
ダメージが残っている。消化器官が圧迫されたような感覚。しかし「酔いどれゼロ」のおかげか、頭は比較的すっきりしてる。一粒約100円。私の愛用サプリだ。
「おはようございます」
私は少し早めに出社して段取りをしようとオフィスに入ったのだが、彼女、ユイ君が既に居た。
着ているスーツが体にあっていない、流行りとも違う。母親のお古だろうか。私の昨日の醜態の結果かも。
「おはよう、随分早いな。」
「はい。色々あって、今、兄のアパートから通ってるんです。バスの関係でどうしても早く着いちゃうんですよ」
コーヒーの香りが漂う。
「Iターン勇者は意外と脆い」
…ふとそんな言葉が頭をよぎった。
フム。四大卒か。昨日の歓迎会の様子だと、もしかしたら居酒屋がファミレスでアルバイトでもしてたのかもしれないな。片手で2、3枚お皿を持ってたような…
私は履歴書をめくる。
「明日は、外回りに誰か新人を連れて行ってやってくれ。」
そんな事を上司に言われていた。
以下略 今後の勇者の活躍にご期待下さい。
以下略って…雑なおわりだな。
そう。私は雑に転生してしまったようだ。
「唯。〜営業勇者の相棒は新入社員〜」完
最後までお読みいただきありがとうございました。
異世界の冒険と、現実の「Iターン転職」。二つの世界が鮮やかにリンクし、一つの結末へと収束していく構成を楽しんでいただけたでしょうか。
主人公が「雑に転生してしまった」と呟くラストまで、彼らの「仕事という名の冒険」を見届けてくださり感謝いたします。
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