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~旅立ちの談~

本作をご覧いただきありがとうございます。

ブラック企業から異世界へと「アイターン」した主人公が、優秀(?)な戦闘メイド・ゆい君と出会うところから物語は動き出します。

勇者視点の格好いいバトルと、どこか生々しい現代の記憶が混ざり合う独特の空気感を楽しんでいただければ幸いです。


一年ちょっと前

「よくぞ来てくれた、異界の者よ。救世主よ。そなたこそ長きにわたる魔王との戦いの劣勢を覆す真の勇者である」

持ち上げすぎだよ社…王様。でも、せっかく転生したのだ。本気で行く。

朦朧とした意識の中、私はその時を思い出していた。

ダメージが残っている。全身に打撲痕、筋肉痛。しかし戦闘中かけ続けた自己強化魔法のおかげか、流血を伴う傷は一つもない。一粒約100円。私の愛用サプリだ。


「おはようございます」

私は宿の食堂へ降りた。この時間なら一人で考え事もできると思っていたが、彼女、ゆい君が既に居た。

着ているメイド服が体にあっていないし、最近の流行りとも違う。私の昨日の醜態の結果かもしれない。

「おはよう、随分早いな。」


「はい。色々あって、今、兄のアパートから通ってるんです。バスの関係でどうしても早く着いちゃうんですよ」


コーヒーの香りが漂う。

「転生勇者は若さが足りない」

わ、なんだこのテロップ!


フム。戦闘メイドゆい君か。昨日の戦いの様子だと、かなりの武術家や魔道士に師事していたのだろう。片手で2、3枚「刃のエッジソーサー」を持ってたような…


私は、冒険者の求職用ステータスシートをめくりながらそんな事を考えていた。

「仲間を連れて多角的にミッションを攻略してみてはどうか。」

そんな事を古株の冒険者に言われていた。


手際も良さそうだし、とりあえず近隣で目撃が多くなってる魔物の討伐にでも誘ってみるかな。


「あ、はい。わたくしで良ければお供しますよ。」

ゆい君は、あっさりと引き受けてくれた。


---

フィールドを歩く私のすこし後方をゆい君がついてくる。私はつい歩速を早くしてしまい、時々ゆい君が駆け足になる。


「スライムって湿地帯に出るものだと思ってましたけど、なんでこんな丘に居るんですか?」

本当によく気がつく。私は全く気にしなかったぞ。そんなもんだと思ってた。


「魔物だからな。我々の常識が通用するとは限らんよ。」

我ながら、テキトーな答えだと私は思ったが、ゆい君は注文をとる給仕のように手帳に書き込んでいる。


「営業ってのは、数と足でするもんだ。結果、1000体の魔物を無傷で倒したという実績が残る」


「セコいし、地味。」

なにか、言ったか?


冒険に出て、同じ所をずっと回っているような感覚になることもある。だが、その時こそ一番胆力と足腰が鍛えられる。


「いつもお世話になっております!」

そう叫んだ私は眼前の豚人オークを一刀両断にした。

最後までお読みいただきありがとうございました。

勇者の「営業は数と足」という持論や、ゆい君の「兄のアパートから通っている」という台詞……ファンタジーな光景の中に混じる、妙に世俗的なやり取りを楽しんでいただけたでしょうか。

もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価などで応援いただけますと幸いです!


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