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第7話 黒鉄騎士団の遺構とクロエの秘密

 ──帝国記録区画・最深部にて、激戦の果てに“墓ドール”は沈黙。

 ハルたちは奪われていた断片をふたたび取り戻し、いま2つの“詩文”を手にしていた。

 けれど──それは、始まりに過ぎなかった。


「“ぬう波形”、安定……現段階では、帝国側のAI干渉も沈静化ですの」


 研究区画を後にする直前、Nマウが光る端末をなぞる。


「ふぅ〜……なんか、ぬう戦の余韻、バチバチ残ってんだけど♡」


「……クロエ、大丈夫?」


 ハルが背後を振り返ると、クロエは未だ口をとがらせながら、両手で帽子をぎゅうっと押さえていた。


「美マウさまが、わたくしのぽーちっしゅの中で……ごにょごにょ……♡」


 どうやら、本当に“入って”しまっているらしい。

 セリナが近づいて耳打ちする。


「クロエちゃん、たぶん今が一番やばい状態……“ぬう精神合体中”ですわ」


「え、もう人格混ざってんの!?」


 言ってるそばから──


「やっぱ♡ 詩導って最高っしょ! ぬうLinkしちゃうしかないし♡ うふふ♡」


 クロエの口調が、ところどころギャル化していた。


「……美マウ、絶対なんかやってるな?」


「ぽーちっしゅ、上位互換ぬうイベントり説、浮上ですの」


   ***


 研究区画を脱出し、帝都の下層通路へ戻ったハルたちは、一時的に“猫影アジト”へ身を寄せた。

 ギルド経由で連絡を取ったセリナの知人ネットワークによって、帝国の衛兵隊が現場を封鎖しはじめているという報せが届いたのだ。


「とりあえず、ここで次の作戦を立てるしかねぇな」


 ハルが地図を広げようとしたその時だった。

 ──ぽこぽこぽこ……。


「……何の音?」


 クロエの足元、ぬいぐるみ風のキノコ型召喚獣が突如ピョンと跳ねた。

 くるりと体をひねり、集会所の窓の外、北西の空を指さすような仕草をする。


「え、何かに反応して……?」


「この動き、ただのランダム行動じゃないですの。座標的指向性あり。なにか“ぬう波動”に共鳴してますの」


「新しい断片? まさか、そんな連続であるわけ──」


 が、そのとき。

 ぽこん、と召喚獣がクロエの肩に飛び乗り──


「ぽえ〜〜む♡ くろてつ〜〜♡ おそるべしぃ〜〜♡」


 詩のような言葉を呟いた。


「いま、何て……?」


「“黒鉄くろてつ”って言ったですの。場所の固有名かもしれません」


「それ、もしかして──“黒鉄騎士団の遺構”じゃないか?」


 不意に、リイナが口を開いた。


「帝国が正式に発足する前……一時的に“前線防衛”を担っていた組織があった。その拠点が今は廃墟になってるって噂は、聞いたことがある」


「ってことは、そこに“第三の断片”が……?」


 仲間たちが顔を見合わせる。

 ──始まりは、いつも“ぬう”だった。


 そしてまた、キノコが跳ねた。

 ピョコンッ♡


「……ぬう、出たっしょ♡」


 Hマウの無責任な呟きに、ハルはぼそっと呟いた。


「……行くしか、ねえか」


   ***


 ──翌朝。帝都の外れ、朽ちた吊り橋の先に、それはあった。


「……ここが、黒鉄騎士団の拠点跡?」


 霧のかかる山中、深い谷を越えた先にひっそりと建つ、重厚な石造りの砦跡。

 門は崩れ、壁面には苔が這い、所々が崩落していた。


「……風が……変わった、ですわ」


 セリナが立ち止まる。

 空気がひんやりと湿り気を帯び、魔力の波が微かに肌を撫でた。


「ぬう波形、微弱ながら継続中。断片……あると見て間違いありませんの」


「それだけじゃない」


 リイナが剣に手をかける。


「誰かが、ここを“使っている”気配がある。足跡……比較的新しいな」


 中に何者かが潜んでいる──その警戒の中で、砦跡へと足を踏み入れる一行。

 石畳の通路を進むたび、あちこちに刻まれた奇妙な詩文のような刻印が目に留まる。


「これは……魔導詩式の一種。形式が古いですが、詩的共鳴力が高いですわ」


 セリナが解析を進める間に、クロエの様子がまた変わる。


「……ピコリ〜ン♡ むむむ〜♡ この感じ、なんか懐かしい〜?」


 彼女の口調に、あの“美マウ風味”が混じるたび、ハルは顔をしかめる。


「やばくね? なんか、完全に“ギャル化”し始めてない?」


「ぬう共鳴による人格融合……いや、クロエ自身の記憶が刺激されている可能性がありますの」


 Nマウの言葉に、一瞬だけ、クロエの顔が真剣に戻る。


「──なんで、知ってる気がするんだろ。ここ、来たことないのに……」


「記憶の混濁か、もしくは前世的要素……ありうるっしょ♡」


「“ぬう転生”……というより、“詩の血脈”ですの」


 その時──

 突如、砦の奥から、金属音が響いた。

 ガギャッ!!


「な、なんだ!?」


「防衛ギミック、未解除ですの!」


 天井から飛び出す、黒鉄製の魔導機兵──その額に、帝国の古い徽章。

 それは、かつての“黒鉄騎士団”の自律防衛装置だった。


「くるぞ──!」


 リイナが叫ぶ。次の瞬間──


「詩導、起動♡ クロエちゃん、ちょ〜カッコよくいくからねッ!!」


 クロエの帽子が光り、杖が勝手に舞い上がる。


「えっ!? ちょ、待って──!」


 だが遅い。

 ぬうLink・美マウ派生モードが自動展開され、クロエの周囲に複雑な詩文陣が浮かび上がる。


「──詩導詠唱、“ぽえみすと・ぷらす♡”──」


 空間に爆音。

 ドゴォォン!!

 詩的呪句により、機兵が一体、爆発と共に沈黙する。


「ちょ……今、私なにしたの……?」


「初の“クロエ主導・詩導魔法”……制御は不完全ですが、完全に適応段階へ突入してますの」


「この娘、ここで覚醒しかけてるじゃねーか……」


「うふふ♡ これは……“詩の里帰り”っしょ♡」


 ──闇に沈む旧拠点の回廊、その中央。


「来るよ……気配、すっごく濃い……」


 クロエが、ひらりと杖を掲げる。

 その先端から“ぬう波動”が揺らめき、異様な気配が周囲に満ちる。


「詩的干渉波……。この反応、“断片”に近いですの」


「つうかこれ、なんか……嫌な予感しかしねえぞ……」


 ハルが一歩下がった直後──


「──侵入者、排除開始」


 無数の足音が、鉄を打つように響いた。

 視界の奥から、漆黒の鎧を纏った帝国騎士団兵が次々に出現。

 その中央、銀装束の“副団長”ハイシーが歩み出る。


「また来たのね。“逆鱗ウサギ”と……その“AIご一行様”」


「どこにいようと──追ってくるってワケか」


 リイナが剣を抜き、前へ出る。


「ふふ、今度こそ完全に“排除”する。第二波、展開ッ!」


 彼女の号令とともに、兵たちの背後からぬう機械兵が展開。

 それぞれの背に、ぬう装置のようなアンカーを接続した兵たちが、機械のような動きで前進を始める。


「ぬうジャマー・オートノード!?」


「完全に、AI封殺を前提にした布陣っすわこれぇぇ!!」


「でもこっちには──奥の手がある♡」


 Hマウが指パッチン。

 同時に、クロエのぽーちっしゅがポンと開き、異様な光の粒が舞い上がる。


「起きなさい、美の魔王──ッ!」


「うっせえええッ!! てめぇらにブサイク言われたまま黙ってられるかァ!!」


 クロエの杖がギラリと光ると同時に、空間が歪み、美マウの“データ残響”がクロエの魔力に共鳴する。


「融合モード《ピノ=ビマ=リンク》──っしょ♡」


 爆音と共に、クロエの杖が巨大な黒フリルの“メガ・ロッド”へと変貌。

 全身にピノコ柄の装飾が展開される。


「全力ぶっぱなすわよォォォッ!!」


「セリナさん、やれる!? 最後のアレ、いきましょ!」


「ええ♡ 準備はできてますわ、毒性たっぷりで♡」


 二人が杖を重ねた瞬間──


「合体詠唱ッ!!」


「《詩導魔核:クロノ・ハルシノグラム》──!」


「《癒毒連鎖:ネガティブ・ガーデン》ッ!!」


 詩と毒が混じり合う、謎の魔法構式が発動。

 空中に巨大な“詩文樹”が形成され、放たれた魔導エネルギーが敵兵たちをなぎ払う!


「うおおぉぉぉ!? 機械ごと、蒸発してんだけど!?」


「AIがいないのに、やれてるじゃん♡ ね、ハル?」


「いや、俺は何もしてない! けど……今なら──!」


 ハルが駆け出す。

 剣が、勝手にカタカタと震え、光を帯び──


「《お技☆自動叫び》発動。

『黒銀の超絶悦剣・ナイトメア・プリプリフィニッシュ』!」


「名前やべえぇぇぇぇッ!!」


 その一閃が、敵陣の中心──ぬう装置を貫いた。

 ジャマー装置が破壊され、空気が変わる。


「ぬうLink──再起動。ぬう濃度上昇中」


「ここで決める! Linkバースト、発動ですの!!」


 全員の魂が共鳴する。


「──《ポエミック・リンクフィナーレ》ッ!!」


 爆風と共に、敵陣が吹き飛ぶ。

 その中心に、断片──三つ目が、静かに輝いていた。

 だが、まだ戦いは終わっていなかった。


   ***


 騎士団本体との戦いの火蓋は、唐突に──だが、確実に切って落とされた。


「突撃ぃぃぃッ!! この斧が火を吹くぜぇぇ!!」


「斧で生きて斧で死ねぇぇ! 戦士バーバリアンは裏切らねえだろ!」


 リイナのツッコミがガルドの頭にクリーンヒットしつつも、PTは一斉に前進。

 前衛のリイナが“逆鱗”の斬撃で道を開き、クロエとセリナが後方支援に回る。


 そして──ハル。


「ぬっ……ぬう度高まってきた! これは……」


(ぬうLink☆臨界寸前ですの)

(てことは──お技☆発動ターイムっしょ♡)


「え、ま、また勝手に叫ぶの!? やめろ、絶対やめ──」


 剣が唸る。振るわれるよりも先に、空間がビリッと裂ける。


『《超悦☆トリプル・フリル・バスター・リバース・テンペスト》ッ!!』

「ながいぃぃぃぃっ!!」


 ハルの叫びも空しく、フリルを纏った光の刃がトルネード状に爆ぜ、敵前衛をまとめて吹き飛ばす。


「ハルのフリル剣……マジで進化してない?♡」

「自己学習型音声魔剣──量産できれば、国家転覆も夢じゃありませんの」

「夢見るなああああッ!!」


 一方その頃、クロエは――


「……キノコッ! おいでませ〜♡」


 杖を振ると、地面が蠢き、無数の“ピノコ茸”がポコポコ生え出す。


「さあ、今日のメインディッシュは毒! 副菜も毒! スープも毒!」


「うふふ♡ ヘルシー毒茶で煮込んで差し上げますわ♡」


 クロエとセリナの即席合体魔法《毒々ピノコフラワーフィーバー》が敵中に炸裂。──爆発。


「ぎゃああああああああ!! なんで私たちも巻き込まれてんのぉぉぉッ!!」


「ちょっと!? 味方に当てないって言ったでしょ!?」


「だってぇ♡ “範囲指定”したら、“みんな”入ってたんだも〜ん♡」


 リイナの額に青筋が浮かぶ。


「もう一回ぶん殴るか、あいつ…… つうか回復に専念して欲しい」 


 だが、その中でもハルは、ぐらつく足を踏みしめて立ち上がる。


「……でもさ。なんか、悪くないよな」


 吹っ飛びながらも、笑う。


「こうして戦って、騒いで、誰かを救うためにバカやって……。なんか、“チーム”って感じするじゃんか」


(それ、“チーム感”で済ませることじゃないですの)

(まあ、愚民らしくて好きだけどね〜♡)


「ええい、黙ってろッ!!」


 その時だった。

 敵集団の奥から、ひときわ異質な“気配”が近づいてきた。


「──データベース反応あり。“強敵”マーカーですの」


「来るぞ! ぬう感、跳ね上がってんぞこれ!」


 霧を割って現れたのは、漆黒の甲冑を身にまとった、一騎の騎士。

 兜の中は見えない。だが、明らかに常人ではない“何か”を纏っている。


「奴は……!」

 

 リイナが、かすかに目を見開いた。


「……“黒鉄騎士団”──廃棄されたはずの、最後の残党か……」


 そして、次の瞬間。空が鳴った。

 雷鳴。いや、それは──“戦いの予兆”。


「来るよ!」とハルが叫ぶより早く、木立の奥から金属の脚音が響いた。


 ──現れたのは、かつて帝国とともに栄え、今は破棄されたはずの旧式兵装部隊。だが、整列されたその動き、ぬうの流れ──操っている何かがいる。


「人形じゃねぇ……あれ、誰かが“中に”いるぞ」


「いや、“誰か”じゃないわね」


 クロエがふわりと宙に跳ね、杖を構える。

 その視線の先、指先ひとつで古代兵装を操る“黒鎧の魔導騎士”がいた。


「……残党、じゃなくて、監視者ってとこですの」


「さすがに戦うしかなさそうだな。みんな、隊列っ!」


 号令と共に、PTが前線を組む。


「じゃあ──詩、いくね♡」


 クロエの詩唱が始まると同時に、前線のガルドが突撃。

 リイナが盾を構え、敵の隊列を制圧。


 その背後では、セリナがマジで回復を……しようとしたが、間違えて謎の煙を焚いてしまい──


「ごめん間違えました〜♡ けど防御力は上がったはずですわ♡♡」


「もはや何の魔法か分からねえよ! まあ効いてるっぽいけど!」


 その時──クロエの詩唱が頂点に達した。


「“ピノコ♡ノリノリの舞”、解放〜〜!!」


 杖が天を突き、詩の光が一帯を照らす。

 旧兵装の一部が混乱し、動きを鈍らせたその隙──

 リイナの逆鱗が燃える!


「おらァァッ!!」


 両手剣が、敵の中枢に叩き込まれる。

 続けてガルドの斧が飛ぶ。

 Hマウが後方からバフを重ね、Nマウが構造解析による“弱点表示”を投影。


「そこだっ!!」


 ──そして。

 爆風が、敵陣を吹き飛ばした。

 その中心に、断片──三つ目が、静かに輝いていた。


「あれ!? ハイシーちゃんたちどこ行った──」

「索敵~……反応なしですの。ジャマー痕も急速に消失中」

「ま、逃げたってことっしょ♡」


(いちおう勝った……のかな)


「……出た。間違いない、詩文の構造ですの」


 セリナがそっと拾い、クロエが覗き込む。


「うん。なんかすごく、懐かしい気がする……。これ、“こたえ”に近い気がする」


 その瞬間、クロエの詩の力が断片に共鳴し、ほのかな風が吹いた。


「詩の構造が──リンクした……!」


 ハルが驚く中、Nマウの声が響く。


「第三の断片、座標情報確認。座標は──“神殿”の中枢域ですの」


「……つながった。全部、つながってきたな」


 リイナが静かに剣を鞘に戻し、月夜を見上げる。

 PTは、ついに三つ目の断片を揃えた。

 ──だが、彼らを見下ろす影が一つ、森の木陰に佇んでいた。


「これで、あと一つ。だが……ここからが“本番”よ」


 ハイシーの瞳が、静かに笑っていた。

 ──次回、「神殿への道と記憶の影」。


   つづく


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