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第5話 ケトルん逃走劇と逆鱗うさ耳の秘密

第5話 ケトルん逃走劇と逆鱗うさ耳の秘密


 魔法使いの隠れ里を訪れたハルたちは、噂とは裏腹に活気のない集落を前に肩透かしを食らう。

 だが、町で暴れていた少女・クロエが“最強に面倒”な逸材であると判明し、例によって巻き込まれたハルの手により、彼女もパーティに加わった──。

 こうして、バランス崩壊寸前の魔導士軍団が完成し、いよいよ“ケトルん奪還作戦”が始まる!


***


「……この戦力で、突入するのか?」


 朝焼けのゲートタウンを見下ろしながら、ハルはつぶやいた。

 右を見れば、斧を担いだ筋肉バカ・ガルド。


 左には、相変わらず毒か薬かわからん茶を振る舞うセリナ。

 その奥で、クロエがキノコに歌いかけている。

 ──終わったな。


(ぬう度、ぬう高安定ですの)


(パーティ、完全に“カオス編成”っしょ♡)


「……いいだろ。やるしかねえんだ。助けてやるって、決めたんだよ」


 ハルが口にしたその瞬間、背後で異音がした。


「……あ」


 振り返ると、クロエがキノコを爆発させていた。


「朝ごはんの準備中♡ ちょっと爆ぜただけよ〜〜」


「嘘だろお前……」


 そんな絶望感を振り払い、パーティは再び猫影アジトへと向かった。


【ゲートタウン・猫影アジト:作戦会議】


「……あいつが連れ込まれてるのは、城の地下“記録区画”だろうな」


 リイナが地図を指差しながら言う。

 かつて副団長だった彼女だけが知る、帝国の裏ルート。


「ただし、問題は──」


「どうせ、正面突破は無理なんでしょ?」


「いや、今回は違う。逆に、向こうが油断してる可能性がある」


 地図の上に、パサッと何かが落ちた。

 ──それは、ハルが持っていた“羊皮紙の断片”。


「あれ……ケトルんが持ってたやつじゃ?」


「そう……あいつ、これを持ったまま捕まった。つまり──」


 ハルは視線を鋭くする。‥‥‥が?


「ピーピー、それ似てるけど違いますの、まだ持ったまま帝国に連れて行かれてますの」


   ***


 猫影アジトの地下──作戦会議室に貼り出された地図の前で、リイナが指先をなぞる。アジトを出る間際、代表の男が、リイナの耳元で小声で囁いてきた。


「……昔、あんたが目をつぶってくれた礼だ。これは表じゃ絶対に手に入らねぇ情報だ」


 そう言って渡されたのは、古ぼけたメモの切れ端。

 濡れた指で文字が擦れていたが、リイナには見覚えがあった。

 ──帝都の城壁裏、旧排水路。

 それは、かつて記録区画に繋がっていた秘密の経路──騎士団でもごく一部の者しか知らないルートだった。


「ここだ。城壁裏、旧排水路。記録区画と繋がってたはず……」


 リイナが指差した地図の端を見ながら、ハルが言った。


「そこ、入れるのか?」


「あたしが騎士団にいた頃は、鍵が厳重で無理だった。けど、今はもう放棄されてる可能性もある」


「つまり、“ワンチャンある”ってことですね♡」


「うむ、強行突入ルートとしては悪くないですの」


「ただし、そこを抜けても──問題はその奥だ。記録区画は、帝国でも特殊な場所だからな」


 リイナの声が少し沈む。

 その目は、過去を映すようにわずかに揺れていた。


「“記録区画”って、ただの資料庫じゃないの?」


「……ああ、“表向き”はな」


 彼女の指先が地図の下にある、立ち入り禁止のマークに触れた。


「だけど、あそこには昔から“奇妙な連中”がいた。魔導研究者、人体技術者、AI技官……普通の兵士は立ち入れなかった」


「え、なんでそんな場所にケトルんが?」


「おそらく、あいつの“構造”に興味を持ったんだろうな。私も、あの部署の連中には何度も嫌な目に遭った」


「……リイナ?」


 ハルが気遣うように声をかけると、リイナはふっと笑った。


「大丈夫だ。だからこそ、ぶっ壊す価値があるんだよ」


【帝国記録区画:外郭進入ルート】


 夜──。

 パーティは静かに城下水の旧排水路から、帝国の地下構造へと潜入を開始した。

 苔むした石壁、腰までの水路、そして奇妙な蒸気の匂い。


「うげぇ……この匂い、ヤバい薬品のやつじゃない?♡」


「これ、昔のAI冷却用薬液の残り香ですの。微毒性あり」


「よし、対毒茶飲んでおきましょうか♡」


「いらん!! リイナ、それ飲んだら死ぬからやめろ!!」


 と、セリナの謎茶からリイナを引き剥がすハル。


「うるせぇ! 私は毒耐性高いんだよ、知らんけど!」


 そんな調子で進んでいく一行だが、次第に、リイナの様子が変わっていく。

 無言で、何度も壁を見返す。

 誰も気づかないような小さな印──昔の騎士団員しか知らない“目印”が、そこかしこに残っていた。


 そして──

 突き当たりの扉の前で、彼女は立ち止まった。


「ここだ。あいつらが……私を“変えようとした”場所」


「変えようと……?」


 その瞬間、リイナの瞳が細くなった。


「開けろ」


 その命令と同時に、リイナの“逆鱗”が光を帯びた。

 扉の錠前に、ふっと青白い光が走る。


「解析スキル、注入しますの」


 ミャウの呟きと同時に、機構がガチガチと自動的に動き出す。

 錠の隙間から煙が上がり、ロック解除の音が重く響いた。


 ギギギ……。


 鈍い音を立てて、扉が内側へと開く。

 先に立つリイナの背を、かすかな蒸気がなぞる。

 目の前に広がっていたのは、かつて兵舎だったと思しき広間。

 だが今は壁の一部が削られ、奇妙な球体の装置や、ケーブルの山が埋め込まれていた。


「やっぱり……あの時から変わってたんだな」


 リイナがぼそりと呟く。

 かつて、ここは“再構成リフォーマット実験室”と呼ばれていた。

 表向きは戦闘訓練室。しかし、裏では──AI適性のある騎士候補に、“調整”を施すための施設。彼女もまた、その対象の一人だった。


(ウチら的にも……嫌な空気♡)

(AIと戦士の“融合”って、成功例ほとんどゼロですの)

(そら失敗するっしょ☆ 魂Linkはお遊びじゃないんだわ〜♡)


 ハルたちが一歩踏み出すと、部屋の奥で、電子灯がぱちぱちと瞬いた。

 ──そして、その奥。


「……誰か、いる?」


 ガルドが斧を構えた、その瞬間──


「侵入者、確認」


 冷たい声が響く。

 無人だと思われた部屋の最奥から、重い足音が近づいてきた。

 スチールの扉が開き、装甲を纏った一体の人影が現れる。

 紋章──帝国騎士団の徽章、その中央にR・Pushある・ぷしゅの焼印。


 ──彼女の名は、ハイシー。

 帝国騎士団R・Push副団長。そして、リイナの“後任”。


「おいでなすったか、反逆のウサギちゃん」


 ハイシーは、どこか芝居がかった口調で笑った。


「リイナ=ヴァーミリオン──貴様には、まだ借りがあるはずだろう?」


 リイナは黙って両手剣を構える。


「借りは返す主義だ。ただし、金利は地獄までな」


「ふふ……そう来るか」


 次の瞬間、空気が震える。

 ハイシーの影が薄らいでゆく。


「ぬ、ぬう感知域が急上昇ですの!?」


「えぐっ!? このぬう、たぶん人工的に“かちあげ”てるわ〜!♡」


「AIチートジャマー、展開確認。パーティLink妨害領域、作動中──」


「まさか……AIに対抗する“対AI制御フィールド”……!?」


 Nマウの声が震える。


「おい……戦えんのか、俺たち……?」


 ハルの問いに──リイナが、両手剣を構え直した。


「上等だ。AIが使えねえなら──生身でブッ飛ばすだけだろ」


 乾いた足音とともに、扉の奥──人工光に満ちた薄暗い研究フロアに足を踏み入れる。警報がけたたましく鳴り響いた。

 そこにいたのは、帝国騎士団の兵たち。

 記録区画の研究警備にあたっていたらしく、見るからに軽装備だが──


「侵入者!? うそ、外殻から!?」


「タンクが一人だけ……? でも耳の形が……あいつ、まさか──!」


 リイナのうさ耳が揺れる。

 その名を知る者たちが、慌てて一歩、二歩と後退した。


「ひ、姫様ァ!? うそ、亡命したって話は……!」


「誰が“姫”だ! あたしはただの亡命“ぶん殴り娘”だッ!!」


 ズドォン!!


 リイナの両手剣が床を打ち、石畳が割れる。

 空気が震える一撃に、兵士たちの士気が崩壊するのは一瞬だった。


「バ、バケモンだ……っ!」


「退け! 撤退! やべえ、逆鱗きた!」


「ふん。あたしの名を覚えてるってことは、ひとり残らず“ぶっ飛ばされに来た”ってわけだな?」


 ガキィィン!! ガシュッ!!

 先頭の一人が短槍で突っ込むが──リイナは受け流すでも、避けるでもなく、真正面から両手剣をぶつけた。ガンッ!! 鉄を噛むような音とともに、相手の武器が真っ二つ。


「ぎゃっ!? な、なんで剣のほうが勝って──!?」


「逆鱗は、防具も壊す。──知らなかったとは言わせねえぞ」


 リイナの剣が横薙ぎに一閃。

 寸止めで床に食い込む剣先を見て、兵たちは完全に戦意を喪失していた。

 そこに──異質な足音が響く。


「……ふうん。噂どおり、暴れてくれてるね。やっぱ“君”はそうでなきゃつまんない」


 乾いた拍手とともに、研究員らしからぬ気配が現れる。


「誰だ……?」


 兵たちが道を空けた先に、ひとりの少女が立っていた。

 白銀の軍服。異様なまでに整ったボブカット。瞳は灰色、背筋はまっすぐ──

 だが、どこか“演技めいた狂気”が混じるその立ち姿。


「彼女の名は……ハイシー。“R・Push”副団長──私の後任だ」


 リイナの顔が、わずかに険しくなる。


「やあ、先代。久しぶりだね。てっきり記録区画まで来るとは思ってなかったよ。


 “逆鱗の再起動”、データ通りなら、次は“第二段階”かな?」


「ほざけ、AI狂いが……」


「AIは裏切らない。使い方さえ間違わなければね。君の“旧世代的な信念”には、もう用はない」


 ハイシーが、指をすっと振った。

 直後──兵たちの背後に、小さな人型の“影”がぽっ、と浮かび上がる。

 それは──彼女自身の分身。




「“ダース・ペーター”に倣って、私も開発してみたの。12体まで影分身できる──


 《シャドウ・ハイシーMk.12》! 略して“ダース・シーちゃん”!」


「な、なにそのネーミング!? ダサッ♡」


「ってか、影に挨拶したら怒られそうな気配あるんすけど……」


「正解。影に敬礼したら──お・し・お・き☆」


 ハルが耳を塞ぎながら叫んだ。


「くっそぉ……変なの来たぁぁッ!!」


 ハルが耳を塞ぎながら叫ぶ中、空間の震えとともに、ハイシーの姿が宙へと躍る。


「貴様らの“魂Link”など、所詮は欠陥技術──AIの本質は制御。悦など幻想に過ぎん」


 その言葉と共に、ハイシーの手元に展開される六角型の魔導構式陣。


「やっべ、なんか“ヤベェやつ”詠唱してない!?」


「“ちょー悦”封じられてる中でこれはマズくないですの!?」


「待って!? こっち今、ギャグリソース制限中だってばぁぁ♡」


「くそっ……リイナ、避けろ!!」


「無理、もう溜まってる。──斬るしかねえ!」


 ハイシーが構えを取り、放たれるはAI精鋭部隊流の斬撃魔術。

 それをリイナが正面から──両手剣で受け止めた。


「──ぐっ……!」


「やるじゃないか、元・副団長。けれど……“元”だ」


「借りは返す主義だ。ただし、金利は地獄までな! 大事なことだから2回いう!」


 力を込めて剣を押し返すリイナ。

 その隙に、ミャウが静かに演算加速。


「解析完了ですの。対“ジャマー干渉波”、上書きパッチ準備──」


「Nマウ、“いっちゃって”よ♡」


「ぬう周波数、再構成──“覇悦はえつチャンネル・B”へ切り替えますの」


「えっ、そんな裏チャンネルあったの!?」


「“うる星リンク”って名前で仮登録されてたらしいよ♡」


 空気が一変する。

 ジャマーの波が、一瞬だけ揺らぎ──その隙を突いて、


「食らえやゴラァァ!!」


 リイナの逆鱗が閃光を帯びた。

 ──爆発。ではない、反撃の衝撃音。


「ふふ……おもしろい。では、次は“最深部”で遊んであげる」


 そう言い残すと、ハイシーは煙のように姿を消した。

 がらんとした空間に残ったのは、微かな残響と焼け焦げた壁の痕だけ。

 ハルは肩で息をつきながら、地面に手をついた。


「……なんなんだよ、ほんとに。敵までAIチートかよ……」


「油断すると、逆に“ぬうられる”側になっちゃうんだね♡」


「データは取れました。次回以降、“ノリと勢い”で対処可能ですの」


「いや、それ科学でも戦術でもねぇから!!」


 それでも──

 リイナは剣を肩に担ぎ、ふっと微笑んだ。


「これで、道は開けたな。あとは突っ込むだけだ」


 彼女の視線の先、黒鉄の扉が重たく鎮座していた。

 ──帝国記録区画・最深部。

 ハルたちは、その向こうにいるケトルんを目指して、再び前を向いた。

 ──次回、帝国の闇に、もう一歩踏み込む。


   つづく




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