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放課後エアフォース〜人造天使は空を飛ぶ〜  作者: 篠乃丸@綾香
第1ソーティ:死神の厄介払い
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第六話

第六話です!

午後

三沢基地 ブリーフィングルーム


 午後になり、リリィとアロンは、ハンドラーに言われた通りブリーフィングルームに集合していた。


 リリィとアロンは、階段状に設けられた座席の前の方に座り、ハンドラーの説明を待っている。彼は予定時刻の五分前に部屋に入ると、パソコンを繋いで二人に語りかけた。


「よし、全員集合したな?ではこれより、ブリーフィングを開始する」


 ハンドラーの言葉を受け、アロンは背筋を正した。


「君たち二人には、一ヶ月後、ある作戦に加わってもらいたい。今回はその説明になる」

「作戦……」


 作戦、と言う言葉を聞いて身が引き締まる。配属早々、何処かでエネローに対しての作戦が行われるらしい。


 アロンの配属は、その作戦への参加を見越してのことだったのだろうか。そんなことを考えていると、ハンドラーは徐にこう言った。


「ではまず、作戦の説明にあたってそこの席を空けておきたいんだ。二人とも、こっちに来い」

「え?」


 アロンはその言葉に疑問を浮かべるが、リリィは「はーい」と元気よく返事をすると、そそくさと立ち上がってハンドラーの下へと駆け出した。


 アロンは少し出遅れたが、リリィに続いて席を立ち、荷物を持って彼女について行った。


「空将に敬礼!」

「えっ!?」


 そうして彼の元へ移動したその他に、突然放たれたハンドラーの言葉によって、アロンは驚愕し固まった。


 ハンドラーが敬礼していたのは、ブリーフィングルームに入って来た多数の人物達だ。ハンドラーは姿勢を正して敬礼を送る。リリィも敬礼を送っているのを見て、アロンもあわててそれに追従した。


「失礼……アークエンジェルスの諸君、集まってくれて何よりだ」


 入って来たのは数人の制服姿の男たち。彼らはほとんどが中年から壮年で、国籍もバラバラだった。


 しかも──


「(うそっ、高級将校がこんなに?)」


 集まったのは全員が高級クラスの将校たちだった。


 それも一佐から空将までのクラスがほとんどで、その補佐官は居れど、この集まりが只者ではないことが察せられた。


「(全員幹部だ……僕たちじゃなかなかお目にかかれない、キラキラの階級章がたくさん……)」


 敬礼を決めながら、アロンはなぜこのような高級将校たちが集まっているのか疑問に思った。


 まだQ-PIDが二人しかいないような小規模部隊に、なぜ各国空軍の幹部たちがこんなに集まっているのか。そしてどんな作戦が行われるのか、想像もできなかった。


 集まった空将クラスの大人達は、静かに着席していく。


 真ん中の席に大柄な黒人のアメリカ空軍大将が座ると、その右隣に航空自衛隊の眼鏡をかけた若い幹部が座った。左側にも次々とお偉いさんが座っていく。


 彼らが着席し終わるのを見計らい、プレゼンが始まった。まず初めに、ハンドラーによる開始の挨拶が行われる。


「フランクリン空軍大将、並びにその他の皆様も。本日は三沢までご足労いただき、ありがとうございます」

「こちらこそ。さてハンドラー。ブリーフィングを開始する前に、そちらの子を紹介してくれるかな?」

「はい。ご紹介します、欧州から我々に転属となりました、TACネーム"アロン"です」


 ハンドラーがアロンのことをそう紹介する。アロンは緊張した面持ちで敬礼を返した。


 すると真ん中の席に座っていた黒人の空軍大将──おそらく彼がフランクリン大将──は、アロンを爪先から頭のてっぺんまで見回すと、苦笑いを交えてこう言った。


「ふむ。話は聞いている。どんな作戦でも、絶対に生き残ってくる凄腕のQ-PIDだとな」

「っ…………」


 フランクリン大将にそう言われ、アロンはプレッシャーで固まった。同時に、欧州などで散々言われていた事を思い出して俯いた。


 そんなアロンの様子を見てか、ハンドラーがすかさずフォローを行う。


「揶揄うのはあまりよしてやってください。ただ、まぐれだとか運がいいとかいう話ではないかと思います。彼には実力があります」

「そうか……手綱は握れるかね?」

「もちろんです。ご安心ください」


 ハンドラーは自信を持ってそう言うのを聞き、フランクリン空将は納得したのか「わかった」とだけ言った。


 そして手元の資料を一ページめくり、話を続けるよう催促する。


「では、作戦のブリーフィングを開始しよう。ハンドラー、我々をここに呼んだということは、君に任せていた例の作戦はすでに草案ができていると言うことだね?」

「はい。こちらをご覧ください」


 ハンドラーがそう言うと、彼は手元のリモコンをポチポチと操作し、アロンの後ろに設置されていた液晶モニターを起動した。


 アロンは液晶画面の邪魔にならないよう、右手にいたリリィの方へ移動する。


 モニターが起動し、国連軍のマークが映し出された後、ハンドラーは手元の端末を操作し、プレゼン資料のようなものをクリックした。資料が開かれ、画面全体に衛星写真が映る。


「まず改めておさらいします。場所はここ。ロシア領、旧チュグエフカ空軍基地周辺に確認されたエネローの巣。衛星で内部を解析したところ……こちらが見つかりました」


 衛星写真は、旧ロシア領東部地域のとある山岳地帯を撮影しているものだった。ハンドラーが画像の詳細をクリックすると、衛星写真はこの場所を3D分析したものに切り替わった。


 すると、その全容が明らかになる。巨大な山岳に囲まれたわずかな窪地に、巨大な塔のような物体が、まるで禍々しい槍のように鎮座していた。


「巨大な光学兵器。調査部門がこのオブジェクトの熱源から、そう分析したものです」


 アロンはその装置の巨大さに目を見開いた。


 オブジェクトの高さは、3D分析によると300m以上はあるらしい。それほど巨大な物体が、山頂付近に鎮座している。


 しかもそれが、先端からレーザー砲を打ち出す兵器だと言う。あれほどの高さと巨大な設備、その射程は計り知れないだろう。


 下っ端の自分たちの知らないところで、エネローがこんな巨大な兵器を建造していることに対し、アロンは生唾を飲んだ。


「これが日本海を挟んだ向かい側に配備されれば、周辺の空域はレーザー兵器の射程圏内となり、太平洋最後の砦とされている日本列島にとって、大きな脅威となります」


 ハンドラーは資料を操作し、予想されるレーザー兵器の射程距離を円形の範囲で示した。


 それによると、日本列島を含めた人類側の多くの範囲が、この兵器の射程圏内である。


「よって、我々の任務は、これを破壊する事です」

「えっ」


 アロンが話のスケールの大きさに戸惑い、固まっていたところに、ハンドラーはものすごい爆弾を放り込んできた。


「作戦に際し、我々は峡谷飛行を提案します。武装は先導担当機と爆撃担当機に分かれ、先導担当機にはJDAMを搭載し、爆撃担当機はBGU-24で出撃。日本海を渡り、山岳地帯からここ、峡谷の間を伝って侵入します」

「う、嘘でしょ……」


 アロンはまさかの作戦に戸惑う。


 資料ではシミュレーション上の映像が流れており、映し出された二機はとても無茶な飛行で峡谷を突破し、目標へと近づいている。


 まさか自分たちがこの無茶な飛行を行い、あの巨大なオブジェクトを破壊するのかと。アロンに不安が生まれる。その後も資料の映像は進んでいく。


「峡谷の間を低空飛行し、敵の防空網を掻い潜ったのち、敵山岳基地の手前で上昇、そのまま180度ロールして一気に降下、急降下爆撃の要領で根元に二発の誘導爆弾を投下、オブジェクトを破壊する……作戦は以上です。なお敵の迎撃体制を考慮し、これらの飛行は、突入から破壊まで23分以内で行う必要があります」


 説明が終わった後、アロンは事の重大さと自分たちに課せられた任務の難易度に、戦慄するしかなかった。


「何か質問はございますか?」

「は、はい!」

「アロンか、どうぞ」

「問題大アリですよ!この作戦、無茶苦茶です!まず峡谷飛行の時点でだいぶ無茶です!こんな作戦、成功できるわけがありません!」


 アロンは流石に無茶が過ぎると、作戦自体に問題があるとして、パイロットとしての立場から修正を求めた。


 しかし、周りの反応は硬いまま、しばらく沈黙が流れた。フランクリン空将はアロンの拒否感を理解しているようで、スキンヘッドの頭を撫でた後、こう切り出した。


「ふむ、ではアロンくん、君はこの作戦をできないと言うのかね?」

「え?」


 アロンはそう言われ、言葉に詰まった。


 いや、できないも何も、そもそも不可能な任務なのだから、言っていることは間違っていない筈と思いたい。


 そんなアロンの心情を理解してか、フランクリン空将は続ける。


「私達は、あのハンドラーが選んだQ-PIDだという事で一応信頼している。君もその一人。ならばどれだけ難しい任務でも、完遂できると思っているが?」

「空将……その、えっと……」


 流石に一介のQ-PIDでは、空将クラスに反論する勇気はない。アロンはしどろもどろになる。


 それに対して、画面の前で苦笑いをしていたハンドラーは、アロンをフォローするように補足をする。


「難しさは承知しているつもりです。なので今回の作戦には、十分な訓練期間を設けてあります。峡谷をシミュレーションした訓練をこなし、準備を万端に整えます」


 そんな短い期間で果たして成功まで導けるのか。アロンは疑問と不安を抱えていたが、ふとリリィの方を見れば、彼女の目はまっすぐであり、不思議と自信に満ち溢れているように見えた。


「というわけで、リリィとアロンの二名には早速訓練に移ってもらいたい」

「え?」


 最後にハンドラーはそう言って、サングラス越しにアロン達へ向け、熱い視線を送った。


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