警察は役立たずなので俺達組員がストーカー被害者を守ります
序章
横浜の夜は、ネオンの光が濡れた舗道に滲む。神奈川県警の不手際がまたしても世間を騒がせていた。ストーカー事件の対応ミスが明るみに出て、市民の不満は頂点に。地元紙は警察を糾弾し、署前の抗議デモは毎夜続いた。「警察は当てにならない」との声が街に溢れ、暴力団の庇護を求める声が静かに、しかし確実に広がっていた。
そんな中、山口組の二次団体・松浦組は新たなシノギを始めた。ストーカー被害者からの依頼を受け、組の若い者を用心棒として派遣する。報酬はそこそこだが、警察への不信感が高まる今、依頼は途切れない。松浦組の若頭、黒田の指示は明確だった。「組の名前は出すな。暴力は禁止。だが、相手を黙らせろ。手段は任せる。」
第1章:種川翔、動く
種川翔は松浦組の若手中でも異彩を放つ男だった。身長190センチ、総合格闘技で鍛えた体は鋼のよう。黒のスーツに身を包み、依頼人のアパートへ向かう彼の足取りは静かだ。今回の依頼は、28歳のOL、佐藤美咲。半年前から元恋人によるストーカー行為に悩まされている。
美咲の部屋は、横浜の古いマンションの4階。インターホンを押すと、怯えた声が応える。「どちら様…?」「松浦組の種川。ご依頼の件で。」ドアがゆっくり開き、瘦せた体に大きめのセーターを着た美咲が現れた。目は赤く、頬には寝不足の影。「本当に…助けてくれるんですか? 警察は何も…。」彼女の声は震えていた。
種川はソファに腰を下ろし、淡々と告げる。「状況を話してください。全部。」美咲の話は典型的だった。別れた男、田中祐介。30歳、IT企業の中堅社員。別れを告げられた後も執拗に連絡を繰り返し、夜中に家の前で待ち伏せ。警察は「証拠不足」「危害がない限り動けない」と門前払い。種川はメモを取り、頷いた。
「分かりました。俺が田中に警告します。あなたは普段通りの生活を。」種川の声は低く、事務的だった。美咲は小さく頷いた。
第2章:対峙
翌日、種川は田中祐介の自宅を訪ねた。横浜市郊外の静かな住宅街、こぢんまりとした一軒家。インターホンを押すと、細身の男がドアを開けた。眼鏡をかけた、どこにでもいそうな顔。だが、目の奥には妙な執着が宿る。
「田中祐介さん。」種川は名乗らず、静かに言った。田中は一瞬怯んだが、すぐに不機嫌な表情に。「何だよ、急に。誰だ?」「佐藤美咲さんの代理です。彼女への接触をやめてください。」
田中は鼻で笑った。「は? 俺はただ、彼女と話したいだけだ。警察だって何も言ってねえ。」その言葉に、種川は一歩踏み出した。190センチの巨体が放つ圧は、空気を重くする。田中の笑顔が凍りついた。
「警察が動かないから、俺が来た。」種川の声は抑揚がない。「美咲さんは怯えてる。あなたが家の前をうろつくたび、彼女の平穏は奪われる。分かるか?」「お、お前、脅してるのか?」田中の声は裏返った。
種川は田中の目をじっと見つめ、言葉を続けた。「脅しじゃない。警告だ。次、彼女の近くで姿を見たら、俺がまた来る。その時は、こうやって話すだけで済まない。」静かな言葉の裏に潜む力が、田中の心を締め付けた。
「お前…何者だ…。」田中は後ずさり、ドア枠に背をぶつけた。種川は答えない。ゆっくり背を向け、歩き出した。「二度目はねえよ。覚えておけ。」
第3章:依頼完了
数日後、美咲から連絡が入った。「種川さん…田中が来なくなりました。ありがとう、本当に…。」声には安堵が滲んでいた。種川は短く答えた。「了解しました。今後何かあれば、また連絡を。」電話を切り、彼は次の依頼の資料に目を落とした。
松浦組の事務所に戻ると、若頭の黒田が葉巻をくゆらせながら待っていた。「種川、例の女の件はどうなった?」「片付きました。田中は大人しくなったようです。」種川は淡々と報告する。
黒田はニヤリと笑った。「さすがだな。次の依頼がもう来てる。警察が当てにならねえって声は増える一方だ。このシノギ、しばらくは安泰だぞ。」種川は無言で頷き、事務所を出た。
第4章:次の仕事
種川のバイクが横浜の夜を切り裂く。次の依頼は、30代のシングルマザー。ストーカー被害に悩み、警察に相談したが埒が明かず、松浦組に助けを求めてきた。種川は資料を頭に叩き込み、依頼人の住所へ向かった。
彼の心に葛藤はない。この仕事は、警察が失った信頼の隙間を埋めるものだ。暴力は使わず、圧だけで相手を黙らせる。それが種川のやり方であり、松浦組のシノギの掟だ。
横浜の夜空を見上げ、種川はアクセルを握った。「次だ。」