魔術士官学園
春暖かな日に降りしきるレイノの木の花びらが、この通学路を歩く人々を祝福しているかの様な空気を作っていた。
レイノの木はこの季節、真っ赤な花を咲かせる。花言葉は祝福とまさにこの雰囲気にはピッタリだろう。
俺やスズランも、アルノワール魔術士官学園の通学路を歩いていた。
これから特待生として通うこの学園の規模といえば、かなりの敷地面積を誇る。
それと比例して数多くの生徒が通い、研鑽を積んでいくわけだ。
辺りを見渡せば、学園指定の制服がまだ着こなせていない者が多く、初々しさを感じる。
「うぅ・・・・・・ヨハネェ。かなりの視線を感じて嫌なんじゃが」
「目立ってるのはそれだけ魅力があるって事じゃないか。流石はスズランだ」
「多分、目立ってるのはお主じゃと妾思うんじゃよ。浮き過ぎじゃろ」
「仕方ないだろう?これが特待生の制服なんだから」
黒に白の刺繍が入ったブレザーに、黒のズボン。灰色のカッターシャツに黒のネクタイ、家から履いて来たくるぶし丈の厚底ブーツ。
確かにこれだとかなり目立つか。一応大丈夫だと思ってたんだけどなぁ。
特待生は見た目、黒基調なのだが一般の生徒は白基調である。
「制服もあるが顔もだと思うのじゃよ」
「顔はいつも通りだ」
「そういう意味じゃないのじゃ」
スズランの話を聞きながら歩くと落ち着くなと思いながら辺りを見渡せば、保護者同伴の生徒が多く、そんな人達からもチラチラと様子を伺われていた。
あのぅ〜なんて声を掛けられたりもしたが、フル無視でトコトコと歩く。
しょうがないじゃないか・・・・・・女性に興味がないんだもん。勿論、野郎にも興味は全くない。
これも全てスズランのせいではあるが、本人が可愛らしく美人な狐お姉さんなので、全力で俺はこの魔剣の代償を肯定するね。
そんなこんなで俺達は漸く学園の正門へと到着した。到着したは良いんだが──
「流石に人が多いな」
「うむ、順番待ちかのぅ?」
見たところ在校生や教官であろう人達が、汗を流しながら色々と受付をしていた。
入学するに向けて名前の確認と、入学金が事前に支払われているか、その場で払うか等のお仕事だろう。他にも新入生の制服の胸部分に可愛らしいリボンなんかも着けている人が見られる。
「そこの黒い制服の君〜。こっちこっち〜」
「お、呼ばれたな」
「特待生じゃから早いのかのぅ?」
「かもしれないな。取り敢えず行こうか」
低身長の女生徒に呼ばれた俺達は、そそくさと足を進める。
隣で順番待ちをしている一般生徒を横目に見ながら目指した。なんかこう、この時点で勝ち誇った気持ちが湧いてくるのなんだろう。
多分俺って屑だな。しかも器小さい系の奴だ。
なんて変な事を考えながら歩くと、目的の女生徒の前に到着。
「にゅ、入学っ!おめでとうございますっ!!」
「ありがとうございます。この学園の先輩にあたる方でしょうか?」
「は、はひっ!」
「そうですか。ではこれからよろしくお願いしますね、先輩」
「あっ、かっこいいぃ・・・・・・」
「こらっ!そこ、ちゃんと案内しなさいよっ!出来ないなら私がやるわ!貴女はこっち!」
「えぇ〜、いけず〜」
生徒同士の会話を聞いた俺とスズランは無言であった。一応に模範的として挨拶はしたものの、ちゃんと対応するつもりがなかったらしい。他の生徒に怒られるとか、俺だったら嫌なんですけど。
そして結局チェンジである。なんでこんな事で時間を掛けてるんだろう。
「申し訳ないわね。特待生くん、お名前は?」
「ヨハネ・クラウソラスと言います」
「はい、ちょっと待っててね。今、記入するわ」
鳶色の髪を二つのお団子ツインテールで纏めた女生徒は、紙に俺の名前をスラスラと書き始める。
女性に興味は無いが、そこそこモテそうな人であると確信。
瞳はぱっちりと開いて活発さを感じさせるし、顔のパーツは神様びっくりの黄金比。整い過ぎて、整形してる?なんて言われそう。
「えっ〜と特待生リストは〜、これねっ!うんうん・・・・・・入学金は免除っと。それじゃあ、特待生くん改めヨハネくん!私から特待生について簡単に説明するわね」
え、いきなりなんか始まったんですけど?
まぁ知っておいて損はないか。通い続ける訳だし、それに特待生だから知っておくべきだろう。
「特待生は学園内外で武装を強制装備が義務。一般生徒の模範的存在の為、特に風紀は守る事ね」
あぁ確かに風紀は大事ですねうん大事です。
ところでちょっと近くで「ねぇ〜かわいいね〜?俺と一緒にチョメチョメしない?」とナンパの声が聞こえてきますけど、風紀大事ですもんね。
今時チョメチョメという隠語を使う猛者チャラ男いるの面白すぎる。イタイぞチャラ男。
「学園内では魔術の使用は基本、禁止よ。でも例外はあって命に関わる事情があれば使用は可ね。とまぁ簡単にこんな感じかしらね」
「教えてくれてありがとうございます、先輩。また分からない事があれば、先輩に聞いた方が良さそうですね」
「え?え、えぇ!是非ともそうして欲しいわ!ところで隣にいる狐族の方は・・・・・・」
「んあ?妾はスズランじゃ。今回はヨハネの母親の代わりに来たんじゃよ」
今寝てた?寝てたよねスズラン?
完全に眠り眼で未だにウトウトしてる彼女、実は今日が楽しみで寝てないのだ。
確かに聖剣使いであるリィナが学園に来る事を良しとしないが、新しい場所に来ると考えたら寝れなかったらしい。
「そうなのね!えっと、私の名前はアリサよ。風紀委員長やらせてもらってるわ。それと保護者はここから別行動になるのよ。ヨハネくんは特待生の教室に、スズランさんは講堂に移動になるわね」
「すまぬ。講堂とやらは何処じゃ?案内して欲しいんじゃが」
「勿論、案内するわ。ヨハネくんは教室分かるかな?」
「分からなかったら周りの人に聞きます。先輩の手を煩わせなくはないので」
「べ、別に良いのよ!先輩なんだしっ!」
「スズランをよろしくお願いします。入学式までちゃんと待ってるんだよ?」
「うむっ!始まるまで寝てて良いのじゃろ?」
本当に眠たいらしい。
俺は頷き、ここでスズランとは一時的に別れた。
アリサ先輩がスズランを連れていく姿を見送ると、別の人に声を掛けられて新入生全員に着けているリボンを俺にも着けてくれた。
正門を抜けると綺麗に整備された学園が姿を見せる。
正面玄関前にある大きな噴水を囲む様に綺麗に舗装された道や、その脇にある花壇の花等は美しくも学園の風格を感じる。
アリサ先輩が言うには特待生の教室があるらしいが、まずは人に聞かないとな。
こういうのは教官や職員に聞いた方が確かだ。
だが探そうにも新入生ばかりである。
「そこの君、お困りかい?」
俺の前からひょっといきなり現れた、特待生の制服を着た生徒。ぴょんとしたアホ毛が特徴的な女子生徒だが少し警戒心を強める。
その理由しては普通に強いと感じた為だ。
戦場で戦い抜いたからこそ分かる、直感や勘というものが頭の中で働く。
先輩にあたる人だろうか、身長が百七十五センチの俺と同じぐらいだ。
制服の着方も風紀なんて関係なく、ブレザーを肩に掛けているんだが。
よく見ると、ブレザーには何やら紋章のような刺繍が施されていた。あぁ生徒会か。
モデル体型でスラッとしており、モテそう。特に同性にだけど。
それと受付の時から視線を感じていたんだが、あえてスルーしていた。
きっとそれは目の前の彼女の視線だと思う。
「一年の特待生教室に行きたくて」
「それならボクが案内してあげよう」
にこやかに笑顔を見せる女生徒に、こちらも笑顔を向けた。
「ありがとうございます。ところでどんな理由があって見てたんですか?受付の時からバレバレですよ」
背を向けて歩き出そうとした存在は、俺の言葉でピクリと体を震わせて足を止めた。
視線というものは日常的に感じる事が出来るし、誰にでも見てた?っていう状況はある。
戦い続ければ、もしくは鍛えればその感覚は自然と強化され日常に更に溶け込む。
「生徒会への勧誘、もしくは個人的に視察ってところですかね。流石は生徒会、忙しそうです」
「君って読心術でも持っているのかい?どうしてこうも心の中を言い当てられるのだろう」
そんな事知らんって静かに思った。
でもまぁ、相手が悪いとしか言えない気がする。この生徒会に所属している生徒、多分だが他にも生徒をチラチラと見ていたのだろう。
どんな子がいるのか、強そうな子はいないか、あわよくば生徒会に所属するような生徒はいないかと。
他と一緒にされても困るんですよこっちは。
「あれって生徒会長じゃない?」「うわ、ほんとだ!」「生徒会長って学園内で最強なんだろ?」
「かっこいい、濡れてきたわ」「隣にいるイケメン誰なの?」「かっこいい濡れてきたわ」「なんか雰囲気悪くないか?」「かっこいい濡れてきたわ」
他の新入生が俺達の事に気づき始め、ガヤガヤとより一層辺りが煩くなってきた。
つか濡れている奴が多過ぎだろうよ。もうちょい股の管理しっかりしてくれ。
そして喧しい声達の中に、生徒会長って言ってる者がいたな。
「生徒会長がわざわざ俺になんの用で?」
「バレたかぁ。ならしょうがないかな。実はね・・・・・・生徒会に入っ──」
「──嫌です。面倒臭いですし、自分の時間減りますし、より良い学園を作るのには俺は不適切です。もっと適任がいると思いますよ。あと今後、本当に面倒臭そうなんで話しかけないでくれると助かります」
「え、えぇ・・・・・・酷くないかい?!話ぐらいいいだろう?」
「目立つんですって、最強の生徒会長さんなんでしょう?注目浴びますよ」
「ボクは構わないっ。君と話して、君と仲良くして、君の事が知りたい!好きな事、趣味、普段はどんな事をしてるのかとか・・・・・・」
う、うわぁ・・・・・・ダメだ。寄ってくる女性がいるのは嬉しいんだけど、嬉しいんだけど魔剣のせいで気持ち悪くなってきた。
もしかして口説かれたり、女性が好意を寄せる行動を俺にするとデバフ発生なんてありえないよね。ありえないよね?スズランさん?
「だ、大丈夫かい?顔色が優れないようだけど」
「吐き気がします」
「そんなにボクの事が嫌なのかい?!ひ、酷すぎるよぉ!」
生徒会長さんは余程に俺と仲良くしたかったのか、上手く立ち回れず涙目である。
すまない・・・・・・俺も上手く立ち回れない、この状況が厳しい。
「う、うぅ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁんん!!」
「あっ、気持ち悪いの治った」
生徒会長さんは叫びながら、校舎へと入って行った。涙を流しながら、可愛らしい女の子走りで。なんか俺が告白を振ったみたいな雰囲気で嫌なんですけど。
しかも特待生の教室の場所が分からないし、あー上手く行かないイライラしてきた。
取り敢えず、歩こうと決意。じゃないと事が進まない気がする。いや、ただ歩いても進まないんだよね。進むのは歩いた分だけの歩数だけ。
生徒よりも職員や教官を探すべきだろう。
校舎に入った俺は職員室へ目指そうかと思った時、腕の袖を誰かに軽く引っ張られた。
「そっち違う。こっち」
誰だろうと思い、後ろを振り向くと美少女がポツンと表情を変えずに立っていた。
銀髪ショートヘアーで、くせ毛なのかぴょこぴょこと跳ねている姿はお子様っぽいが落ち着いている印象のせいか餓鬼っぽくない。
寧ろ知的に感じてしまう。
俺を見て離さないミントグリーン色の煌びやかな瞳は眠たげな瞼で少し隠れてしまっていた。
ジト目と言われるやつだろう。
身長も小さく、百五十センチあるかないかぐらいだと推定。
そして一番目に入るのが、俺と同じく黒の制服──特待生である。
灰色のカッターシャツの上から水色の中央にチャックがあるパーカーを着ていて、その上からブレザーを着ていた。
ブレザーの袖からパーカーが出て、萌え袖なってんのね。又も風紀ボロボロだな。
それとも制服の着こなしは風紀には入らないのだろうか?
胴から下を見れば、女子は可愛らしいデザインの黒のスカート。それに加えてニーハイソックス。おっふ・・・・・・スカートとニーソの間、真白色の太ももがグッドです。
ニーソが太ももを押し上げて、少しぷにゅっとなってるのポイント高過ぎてマジ仏です。
ニーソな仏様です。
「名前、ティファニー・ベオウルフ」
「ベオウルフ?四大公爵家のベオウルフ家か。これまた懐かしいな。フォルテさんは元気?」
この国はアルカディアス王家の下に四大公爵家という強大な力と権力を持った四つの貴族が存在する。
その内の一つであるベオウルフ公爵家とは、そこそこ仲が良かった。
今でも現役であろう当主フォルテさんは表向きは優男だが、いざとなれば酷く残虐性さえも見せつける。
そして相手の感情をコントロール、掌握するのに長けていて会話が少し嫌いではあった。
それでも優しく、毎日でもご飯を食べに来なさいと言ってくれた時は嬉しかったな。
でも目の前にいるティファニーと名乗った美少女に不信感を抱いてしまう。
確かに記憶は魔剣スズランのおかげで全てが元通りとなった。
ベオウルフ家との関わりも全て、頭の中では存在している。なのに何故、この少女の記憶がないのだろうか。
きっとフォルテさんなら俺に自己紹介なんかして、遊ばせようとする筈だ。
仲間外れには絶対にしないと思うんだが?頭が痛くなってくるな。
「パパは元気。貴方の名前はヨハネ・クラウソラスだよね?」
「そうだよ。よろしくね、ティファニーさん」
互いに挨拶をしたところで、どうして俺の名前を知っているのか?何処かで出会ったか等の質問をすると、答えはすんなり返ってきた。
「実は小さい頃、病気で遊べなかった。私は寝たっきりで、窓からいつも見てたよ。ヨハネの可愛い表情とか」
「それは照れるね・・・・・・病気は治ったのかい?」
「うん、完治した。もう大丈夫」
病気とは一体どんなものだろうと気になった。
完治したとはいえ、元気にはしゃぐ子供が寝たきりになる程に辛い事から察するに重症だったのだろう。
まぁ他人事とはいえ、治って元気なら良しと。
「そうか・・・・・・。こうやってまた出会えたんだ。なら小さい頃に遊べなかった分、沢山思い出作ろう」
「うん、よろしく。それと呼び捨てで良いから。それと早く教室に行った方が良いかも」
ティファニーに促され、案内してもらいながら教室へ足を運ぶ事にした。
どうやら俺がいた場所は学園内の正門なのは間違いない。
しかし学年毎に区分が存在しており、ここには学生の教室はないらしい。
俺が通う一年生の区分にも正門があり、そこを通らなければダメだったらしいがアリサ先輩が気を使ってくれたのだろうと予測。
ありがとうアリサ先輩、今度何か奢ろう。
いや他にも新入生はいたから皆、間違えるのだろうが、そこからここまでは来ていないって事は歩いて一年生の正門へと向かったのだろう。
通りで新入生の姿が見えず、がらんと人気がないわけだ。
そこそこの距離を二人で歩いていると、ガヤガヤと喧騒が耳に聞こえてきた。
「もう着く。周りが雑音だらけ。無視」
「元々そのつもりだよ。やっぱり特待生は目立つな。そういえば他にもいるんだろう?」
「うん。あと二人いるけど、その内一人が聖剣使い」
「あぁ、リィナか」
俺がそう応えると、前を歩いていたティファニーの歩みが急にストップする。
何かあったのかと前を見ても何もないし、どうしたのかと思えば振り向いてジトっと見つめてくる。なんかその目、呆れられてる感じして嫌よ嫌よ。
「知ってるの?」
「一昨日知り合ってね。顔に縫った跡のある子で、低音の声が印象に残ってる」
「そう。ヨハネ、貴方は私だけを見ていれば良い」
ティファニーは振り向いて歩き出した。
俺はといえば、好意の言葉だったのか魔剣のせいで吐き気デバフ付与されました。
大変気持ち悪ぅございます。
新入生がごった返す中、俺達はトコトコと歩き階段へと登る。
どうやら一般生徒は一階と二階と三階に教室があり、俺達は四階にあるらしい。
うむ・・・・・・目の前の光景に喜んだら良いのか、注意したらいいのか分からない。
階段を登る足が膝を曲げる度に、スカートがふわりと踊り黄金伝説が垣間見える。
ほう・・・・・・黒か。意外と大人チックで小悪魔感を感じてる。
ティファニーってもしかして、外見とは違って中身は肉食系かもしれないと勝手に推測。
チラチラとスカートの中の芸術を見ていると、本人が気づいたのか、手を後ろにやって隠した。
「・・・・・・見た?」
「大人の魅力もあるんだなって」
「えっち」
──おえ"ぇえ"っ!!
心の中で嘔吐してしまった。本当にダメだこの魔剣の代償とやら、意外と困った状況になるんですけど。
どうしてこうも好意を寄せられているのに吐き気が込み上げるのかと疑問でならない。
脳中思考ゲロまみれになった俺と、可愛らしい天使ちゃんは漸く階段を登り終えて、教室の前にやって来た。あぁ、やっと着いたのか。
教室のスライド式扉をノックして開けると、見知った人物がちょこんと座り本を読んでいた。
一昨日、スイーツバイキング店にてアルバイトをしていたリィナという名の女子。
初対面の時はメイド服であったが、今は俺達と同じく特待生式制服である。
「一昨日ぶりですね。おはようございます、ヨハネ君。制服もとても似合ってて、周りの女の子が目を離さないでしょう?」
扉を開けた音で本を読むのをやめ、軽く手を振りながらニコッと笑顔を見せる。
同時に俺の横にいる小柄な貴族の娘からは舌打ちが聞こえてきた。
うん、仲が良くて結構ですね。
ティファニーは何も言わず歩いて適当な席に座り、俺はリィナの元へ歩み寄った。
「おはよう、リィナ。そっちこそ良く似合ってる。それと入学おめでとう。これからお互い頑張ろう」
そう声をかけると更に笑顔が増した。
リィナは制服を着崩してはおらず、普通に着用していた。
唯一違うならタイツを履いている事だけ。
リィナに挨拶をすると、もう一人この教室にいる存在が声を上げた。
「けっ、朝からよくもまぁイチャイチャしてるよな。見せつけんなっての」
オレンジ色の髪を小さなポニーテールで纏め、不機嫌そうな顔を覗かせる。
均等の取れた顔立ち、キリッとした瞳からは少しだけ距離を置きたくなる存在感を感じさせる。
服装も大胆に着崩しており、ブレザーは着ずに腰に巻いていた。カッターシャツの裾を巻いて腕まくりにしたりと見るからに不良感が凄い。
何よりティファニーやリィナと違うのはスカートではなくショートパンツ。太腿には所謂、太腿ベルトなる物を身につけていた。
二人と違って生脚をさらけ出しており、わんぱくさも感じられる。
「つかさ、特待生ってのはハーレムなわけ?男一人だけって有り得んのか」
「事前情報だとそうですね」
「ふぅん・・・・・・あっそ。よく見ればカッコよくてうぜぇな」
何故か俺の評価が低い。なんでカッコよくてウザいとなるのか不思議である。
俺も適当に席を選んで座った。あえて女子組からは離れ、窓際を選択。偉い、偉いぞ俺。
しかしまぁ特待生とはいえ、美少女がこうも揃うと緊張してしまう。
「なぁ、あんた名前は?」
入学式まで何をするのか分からず、ボッーと窓の外を眺めていると声を掛けられた。先程のヤンキー娘である。
他の二人はというとリィナはまたも読書、ティファニーは机に突っ伏して充電中という名の睡眠。
何も行動を起こしてないヤンキー娘は暇だったのか、俺の隣に来て座った。
ふわりと女の子特有の甘い香りが漂ってくるが、気にしないし気にならない。魔剣め畜生俺だって男の子なんだぞっ。
「ヨハネだ。そっちは?」
「あーしはヤガミって名前」
「ヤマト大陸出身か?」
「あーしはこっちだ。先祖様がヤマト出身なだけって感じ」
ヤマト大陸とは大海を挟んで反対側にある東大陸である。
ヤマト大陸は文化が異なる点が多く存在するのが特徴で、独特の進化を遂げていて名前もちょっと変わったのが多い。
一方でこちらの魔術都市国家アルカディアスは西大陸で一番の大国であり、六百年前の西大陸統一戦争にて勝利した。
周りには小国しか存在せず、西大陸の殆どを牛耳っている。
最近では北大陸一の大国であるプラティオ王国とも、海を渡って貿易をしており友好関係は良好。親善大使であるルゥ・ガ・エンドロールなんかは有名人だ。
「入学式まで暇じゃん?一問一答ゲームしよう。なっ?ヨハネ」
・・・・・・なんかダセェなそのゲームの名前。
一問一答ゲームってのは初めてだが、多分どちらかが質問して答えるのを順番にやるんだろう?一応ルール聞いとくか。
「ルールは?」
「質問された事は絶対答える事。やましい過去があっても恥ずかしい事でも」
「分かった。なんでも答えるよ」
「よっし!んじゃあ、そっちからでいいからさ」
ほぉう?俺に先攻を譲るなんて、ヤガミってば優しいねぇ〜。
しかし俺は聞きたい事が沢山あるのだよ。
相手もそうなのか、ウキウキとした様子が見られた。
「ヤガミの得意な戦──」
『特待生一年一同。講堂にて入学式を執り行います。各自、武器を置いた上でお越し下さい』
「ちぇ、なんだよ〜!これからが楽しみだってのによっ」
俺が質問しようとすると、教室内に配備されているスピーカーからアナウンスが流れてきた。
どうやら講堂にて入学式が始まるらしい。
でも武器をここに置いていかないといけない理由なんてあるのだろうか。
アナウンスで起きたのか、ティファニーは目を擦りながら教室へと出ていく。
リィナは腰に携帯してきた聖剣を、机の上に置いて俺達を見ていた。
俺も魔剣と魔剣銃を置きながら、ヤガミに質問した。
「武器をここに置く理由ってなんだと思う?」
「バッカ、素直に置いていくなって。あれはあーし達を試してんだよ。この教室見たら分かるだろ?監視の魔術仕込まれてんの」
言われた通りに教室を見渡すと、天井の角なんかに魔術陣が存在した。
確かに幾らアナウンスとは言え、アリサ先輩から聞いた話では武器の携帯が義務だった筈。
成程・・・・・・これはかなり重要な事に気づいた。
いや気付かされたってのが正解だし、これからの学園生活は気を引き締めないと痛い目を見そうだな。
そしてヤガミについては評価を改めよう。
俺達の話を聞いていたのか、リィナも聖剣を腰のベルトへと戻し、こちらへと歩いて来た。
「ヤガミさん。貴女とは是非とも協力関係でありたいです。広い視野を持つ人は頼りになります」
「あーしはただ目が良いだけだ。それでも良いんだったら・・・・・・と、友達とか」
「えぇ、私達は友達です。改めてリィナです。ヨハネ君も友達ですよね?」
「勿論だ。同じ特待生として仲良くしてくれると嬉しい。さぁ、ティファニーを追い掛けよう。あの子も友達だ」
俺達は顔を合わせ頷き、教室を出て講堂へと向かった。