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魔剣と甘味

騎士団を出て駐車場に停めていたバイクに乗り、適当に車道を走っていた。しかも目的も決めずにだ。いかん。いかんよこれは。

なにか気を紛らわす事をしないと、さっきの件で余計にストレスになりそうだ。

スズランはバイクに乗る際に魔剣から出てきたが、会話という会話がないし。

あっ、そういえばスズランにスイーツを買ってあげようと思ってたんだ。

んーいっその事、スイーツバイキングにでも連れて行こうか。

俺も一緒に食べて忘れようそうしよう。

確か・・・・・・あぁ、この道であってるな。

俺は道路を走りながら道を思い出して、バイクを加速させる。

目的地に着き、お店にある駐車場へとバイクを止めてスズランの手を引いて歩き出す。


「あぅ。積極的じゃのぅ」


取り敢えず今は無視をキメる。現状、甘い物を食べないとやってられるか。

カランカランと扉を開けた際に、入店を知らせる音が鳴ると店員さんがこちらへやって来た。

あぁ〜良い匂いだぁ〜。

甘いスイーツの匂いに良い意味で酔いそうである。


「いらっしゃいませ。お二人で──」

「おわぁぁぁぁっ!なんじゃなんじゃぁ?!ここは天国かえぇ!?何処を見ても甘味だらけではないかぁ!ほぉわぁぁ、ヨハネ!」


隣で手を握っていたスズランは嬉しいのか思いっきりぴょんぴょんとジャンプした。

その度に可愛らしい獣耳とふわふわの尻尾が揺れる。

同じく大きな大きな二つの柔らかマシュマロであろう、たわわも上下にたわわ。

完全に店員さんも置いてきぼりで、今にも勝手に食らい尽くそうと涎を垂らす始末。


「すみません。俺とこの子で、フリーでお願いします」


フリーとは、フリータイムの略であり三時間食べ放題の意味でもある。

このお店に偶に一人で来ては、もぐもぐと食べて帰る俺であり、結構お世話になっております。主にストレス解消にだけど。


「え、えぇ畏まりました。一つお伺いさせてよろしいでしょうか?」

「いいですよ」

「お二人はカップルですか?そうであればカップル割させて貰いますが、如何でしょう?」

「えっーと・・・・・・」

「良い質問じゃ!妾とヨハネはもぉう、らっぶらぶのカップルじゃよ!世界で最も愛しておるのがヨハネじゃ!のぅ?」


今のスズランはカップル割で料金が安く済むから、こう言ってる訳じゃない。

単に俺達が切っても切れない関係だという事を自慢したいからだろう。

そんなスズランは俺の顔を覗き込むように、同意を求めて来た。ずるいなぁその顔。

幾ら魔剣たるスズランと契約の際に、他の女性に興味がなくなって彼女しか見れなくなる代償をこの身で受けてるとはいえ、それは可愛すぎるよ。そんなん速攻で頷くわ。


「カップル割でお願いします」


そう言うと店員さんは静かに頷いて、この場を離れて行った。

きっと俺が偶に来る常連だと分かったのか、あとはいつも通りお好きにどうぞという事だろう。さて、どのスイーツを頂こうか。

と歩み出そうとした所で袖をちょいちょいと引っ張られる。

そんな存在を確認すると、何を恥ずかしかをっているのかモジモジとする魔剣のスズラン。


「あ、あのぉ〜こういう所は初めてじゃから。じゃから何を食べて良いのか、妾は分からんでのぅ」

「好きなスイーツがあったら、それを皿に載せるだけだよ?取り敢えずパッと見てみようよ」

「よ、ヨハネのオススメが妾、良い!他は要らぬのじゃ。ヨハネが食べてるのを妾も食べたい」


・・・・・・スゥー、可愛すぎて尊いんですけど?

ぎゅっと握る手が次第に強くなって、自分が言った言葉が照れるのか顔も真っ赤。

でも思ってる事を伝えた気持ち良さも、顔から見られる。

それに俺のオススメを食べたいと言うのであれば、願ったり叶ったりだ。

スズランの手を引いて歩き出し、ショーケースに入ったスイーツを選んでは皿に載せの繰り返し。

あれよこれよと選んでる内に、スズランは待ちきれない様子で瞳をキラキラと輝かせていた。

本当に甘い物が好きなんだろうな。

選んで載せる度にぴょこぴょこと反応する獣耳触りたい。でも確か獣人って耳は敏感なんだっけ?家に帰ったら聞いてみよ。


「おぉ・・・・・・ん?えへへっ」


甘い物に視覚から幸せを得ているスズランの事を見ていたのがバレたのだが、可愛らしく笑顔を見せてくれる。自然と手が彼女の頭に行くのを止める事は出来なかった。

下手くそなりによしよしと撫でてしまう。

皿に沢山の俺のオススメなスイーツを載せ、スズランを連れて席に着く。


「た、食べて良いのじゃ?!」

「遠慮なんてしないで。好きな物を好きな量、許す限り食べて良いんだから」

「うむ!いただきますなのじゃ──はむっ・・・・・・ん〜!!美味しぃ!!」


天真爛漫の笑顔で、チーズケーキを頬張る姿は本当に可愛らしい。

ぱくぱくと次々に食べていく光景を見てると気持ちがいいなと思った。

可愛らしい彼女を眺めていると、見られているのが気になったのか食べるのを止めてしまう。


「ヨハネは食べぬのか?妾一人で食べるなんて・・・・・・さびしいのじゃ」

「ご、ごめん。スズランの食べる姿が余りにも可愛いというか」

「それはそれとして・・・・・・ほ、ほれ!あ〜んっ」


顔を真っ赤にしながらお気に入りのチョコケーキを俺に食べさせようと、あ〜んしてきた。

出ました誰もが憧れる行為──あ〜ん。

恋人に憧れる人なら間違いなくやってもらいたい事の一つだろう。

俺もドキドキしながらスズランの好意を受け取る。


「あっ〜ん。うん、美味しい。やっぱりお気に入りなだけあって食べ飽きない味だよね」

「これもどうじゃ?!き、きっと美味しい思うのじゃ!ほれ、あ〜んっ」


またしても口元にケーキが運ばれてくる。

あぁ、もしかして食べさせるのが癖になったとかだろうか。

こう見えてスズランは料理が上手だし、いいお嫁さんになりそうだ。

結局、俺はこのスイーツバイキングの時間、自分で食べる事が叶わなかった。

兎に角ずっと永遠にあ〜んされ続けていた。

自分で食べようとすると──


「だ、ダメじゃ!妾が食べさせるっ!」


そう言ってヤケになる始末。

しかも来た時は対面して座っていたのに、いつの間にか隣に座って肩を寄せ合い、イチャイチャしてましたすみません。

でも断る事を俺はしなかったんだ。

だって嬉しいし可愛いし、自分で食べるより美味しいし。何より心地良い雰囲気が良かった。


「お客様、フリータイム終了時間の五分前です」

「もうそんな時間なのか。意外と早いな」

「素敵な時間は直ぐに過ぎ去っていくのが、人生というものですよ」

「ええ、そうですね。スズラン、お腹いっぱいになった?満足して貰えたかな?」

「うむ!妾はお腹も心も満足じゃ!ところで──」


スズランは知らせに来たメイドさんをじっくりと見ていた。

何か気になる事でもあったのだろうか。

俺もメイドさんの事をじっくりと見るが・・・・・・あぁ、普通のメイドじゃないのね。

メイドさんは武装してる訳でもないし、何か特別おかしい所もない。

でも戦場を経験してる俺や、魔剣として戦いで使われるスズランからしたら気づいて当然。


「そこまで強くて何故、給仕をしておるのじゃ?それに聖剣臭いのじゃ。ヨハネ、はよう出るとするのじゃよ。耐えられん」

「先に外に行っててもらえるかい?会計を済ますからさ」


スズランは頷いて、ぱたぱたと小走りでお店から出た。余程にこのメイドが嫌だったのだろう。確か、聖剣臭いとか言ってたな。

・・・・・・となると聖剣使いか?

魔剣と聖剣は密接な関係にあり、これらを創った存在は神と言われている。

魔剣は人に代償を与えると同時に、強大な力をその身にもたらしてくれる。

因みにこれは魔族だと代償が無になるのだ。

元々、魔剣は魔族の物であった。

適正者が現れなければ使えぬ剣で、現れた時代では猛威を奮ったという。

しかし数千年前に絶滅してからは人の手に渡るようになる。

代償はなんのために存在するのか──それは魔族が使用する上で人間に使わせない為。

一方で聖剣は人の事を愛していると言われており、人なら誰でも使えてしまう。

勿論適正はあるのだが、それは最大限に力を引き出せるかどうかであり、使えない訳ではないのだ。

そんな聖剣を目の前のメイドさんが持っている。きっと俺が魔剣を所持しているから近づいてきたのか。

一般の人間は武装を身に付けていると、その時点で銃刀法違反として罰せられる。

勿論俺も立派な違反者である事は間違いない。

では何故不審に思われないかは服装が騎士見習いの正装だからだろう。

士官学園生徒の中でも許された存在や騎士や騎士見習い、軍に所属している人間は許される。


「魔剣使い、ですよね?」

「あぁ、そう言う貴女は聖剣使いですね」

「リィナと申します。実を言うとアルバイトをしておりまして、明後日から士官学園の特待生として通う生徒です」


少し低い声だが、嫌な感じはせず寧ろいい声で淡々と自己紹介をした。

ぺこりと綺麗にお辞儀するメイドさんは、俺と同い歳らしい。しかも同じく特待生ときた。

外見的にも男が黙ってなさそうな感じではある。いや魔剣の影響で女に興味が無い俺からしたら、よく分からないの方が正解。

灰色の髪に透明感のある蒼い瞳が印象的で、見たら忘れないだろう。

それと最も目立つのが顔や首、腕なんかに手術で縫ったような跡がある。

顔に至っては髪で隠れて見えないが、上から瞳を挟んで頬下まで縫われていた。


「俺も明後日から士官学園の特待生ですよ」

「なら敬語は不要です。是非とも呼び捨てで呼んでください。・・・・・・そろそろ行かないと、待たせてますよね」

「あぁ、そうだね。会計をよろしく頼むよ」


当の本人が敬語は不要で呼び捨てでと言うから、切り替えて対応した。

学園に通う前に知り合いが出来たのは、結構にデカいと言える。

案内されて会計を済ませ外に出ようとした時、リィナに呼び止められた。


「お名前をお聞きしても良いですか?」

「ヨハネだ。入学式の時はよろしく頼むよ」

「はい・・・・・・ヨハネ君」


自分の名前をそういえば名乗ってなかったな。

でも聞いてくれて助かったよ。

入学式当日に名前が分からないとか気まずいからな。

店を出て駐車場に向かうとスズランがしゃがんで猫と戯れていた。

狐のお姉さんが猫を愛でるって絵、幾らで売れるだろうか。馬鹿な事を考えてるな俺。


「おっ!やっと来おったかぁ〜。支払いにしては時間が掛かっておったが、何かあったかえ?」

「どうやら彼女は士官学園の特待生らしくてね。俺と同じで明後日に入学式を控えている」


そう伝えると露骨に嫌な顔を見せるスズラン。

そんなに嫌なのかよ。でもリィナの事を聖剣臭いってハッキリ言うぐらいだしな。

スズランに抱えられた猫も嫌な顔をしているのは何故だろうか。


「あの女が近づけば逃げるだけじゃ。それよりもこの子猫を飼っても良いか?」

「にゃん」

「よろしく頼みますぜ、兄貴──と申しておる」

「マジかよ」


スズランが猫の気持ちを分かるとか聞いてないんですけど。

でも見た感じ珍しい毛並みをした猫である。

ちょっと俺に似ているのが面白いな。

全体的に黒だが、耳の先や瞳が紫色の毛並みであった。


「ちゃんと面倒は見れるの?飼うって言っても命なんだから」

「すまぬ。餌の金は出してくれると助かるのじゃが」

「にゃ〜ん」

「二人で愛して欲しいですぜ、兄貴──と申しておる」

「確かに俺の住んでる部屋はペット同伴は許可貰ってるけど、学園に行くから昼間はいないよ?スズランも魔剣だからついてくると思うし」


スズランは困惑した表情を浮かべた。

あれ、なんか俺変な事を言ったかな?

あ〜もしかしてだけど学園に行きたくないのか。だって聖剣臭い奴いるもんな。

どんだけ引き摺ってるんだよその臭い奴。


「う〜ん、そうだなぁ」


俺は暫く考えた。結果的に答えは出たものの、それが正しいのか分からない。

でも出来るだけスズランの意見も尊重してあげたいところだ。


「スズラン。家の事、任せてもいい?掃除や洗濯、料理や猫の世話。それ等をやれるなら学園に行かなくとも家でゆっくりしてて良いよ」

「ふっ、余裕じゃ!因みに妾が魔剣に戻っていなくとも壊帰月蝕は使えるのじゃよ。戦闘にも支障はないのぅ!いや〜良かった良かったのじゃ!新鮮な空気を感じられるのじゃなぁ!」


やっぱりリィナの聖剣が嫌だったか。

取り敢えず明後日の入学式だけスズランには来て貰って、終わったら帰そう。

話が纏まったし俺は家に帰る事を決意した。

城へと向かおうとしたが、如何せん面倒臭いが先に立つ。

それに猫用に餌やトイレなんかも買わないと。

あと野良猫だから注射も打ってもらう。

こればっかりは絶対に譲れないと確信を持って言えるね。

スズランにバイクに乗るように指示を出し、いざペットショップへ。


「にゃん!」

「乗り物、初めてですぜ兄貴──と申しておる」

「毎回それいる?」

「あっ、冷蔵庫に食材がないのじゃ!スーパーに寄ってくれると助かるのぅ!」

「へい、分かりやしたぁ」


追加で行く所が増えたが、ちゃんと真面目にやるつもりらしく問題はないだろうと心配はしていない。

バイクを走らせお店に入り、用事が済めば又もバイクを走らせて病院に行きと忙しかった。

因みに動物病院では拾い猫が注射に怯えながら叫ぶという迷惑極まりない行動をしてしまう。


「にゃぁぁぁぁぁぁぁおおおおおおんん!!!」

「だ、ダメだ!もう終わりなんだ!人生ならぬニャン生の終わりだぁ!怖いっ、怖ぁぁぁぁい──と申しておる」

「我慢してくれ。明日を元気良く迎えたいならな」

「うむ、どんまいじゃ」


結局俺とスズラン、病院の先生に抑えられてブスッと注射を打たれていた。

その後はなんともなくピンピンして元気だ。

そして最後にはスーパーで買い物である。

こちらはスズランの要領が良くて、早く終わった為、既に帰宅中。

明日は一日暇だし、帰ったらゆっくりしよう。


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