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2、ここが腕の見せ所や。ワテの仕事っぷり見たってや!

クセ強めな令嬢が好き放題しますが、コメディですので、安心してお読みくださいませ。

 トワイライト嬢は謎の言語で叫んだ後、再び羽扇子を広げ口元を隠した。


「失敬。

 大事な部下がいじめられていると聞くと、つい、ね」


「お嬢……!」

 マスタード小男とアスパラガス男が目をキラキラさせている。


「ですから、私達は何もしてません……」


「やーかぁしい! おーっとっと、ウフフ。

 やったやってないは、お天道様以外証明は出来ませんからね。この件は一旦水に流しましょう。

 私がこんな田舎の汚い食堂にワザワザ足を運んで差し上げたのは、別の用があってのことよ」


 トワイライト嬢は近くの椅子に座ろうとする。ササッとアスパラガス男が椅子を引いた。


「単刀直入に言いますわ。

 この食堂を明日取り壊します」


 予想外の発言に、僕は一歩前に出る。


「どど、どういう意味ですか?」


「この周辺一帯を売り、大規模な観光地を作りますの。

 トワイライト領民は、良く言えば穏やか。悪く言えばやる気無し。年々、取り立てる税も減り、このままでは領地の維持が出来ませんわ」


「確かにウチは儲けているとは言えませんが、ちゃんと売上に対して決まった割合の額を納めています」


「それでは足りないのですわ。もっと稼げる土地にしないと。

 観光客を国内外から呼び寄せますわ。

 大衆に人気の料理屋台。富裕層が満足する高級品店。そして殿方が喜ぶピチピチの踊り娘。素晴らしいと思いませんこと?」


「最高ですっ、お嬢!」

 マスタード小男はほとんど半泣きで言った。


「めちゃくちゃだ。

 ここは自然豊かで作物が良く育つ歴史ある地です。確かにここ何年かは、天候が悪く不作も続きましたが。そんな馬鹿げたこと、村の皆が許す訳ありません!」


 僕は必死で反論した。

 食堂や畑が無くなったら、僕達村民達はどうなるんだ?


「もう許可は得ていますのよ」


 トワイライト嬢がサッと黒い羽扇子を振ると、弦楽器を肩にかけた青色の服の男(次から青色の男とする)が、羊皮紙を広げて僕達に見せた。


「これは……?」


「食堂の解体工事許可証ですわ。

 貴方のお父様のサインがここにあるでしょう」


 トワイライト嬢が羊皮紙の右下を扇で指す。年配男性らしい筆跡で、父親の名前が書かれている。


「そんな……!

 父は病気になる前から、僕に食堂を譲ると言ってました!」


 あの言葉は嘘だったのか?

 父との会話が甦る。


「ちょっと待ってください。

 このサインの日付、去年の秋になっているわ」


 リナが羊皮紙を覗き込み言った。


「おかしいわ。去年の秋頃は、エドのお父さん、ずっと寝たきりで、ペンなんか持てる訳ないわよ。本当にエドのお父さんのサインなの? エドはお父さんの筆跡を覚えている?」


 リナに言われて僕はハッとした。

 もう一度羊皮紙を見る。しかし青色の男がスッと片付けてしまった。それでも日付は見えた。


「本当だ! 去年の秋だった。

 父はサインどころか、文字も読めない状態だった。その許可証は怪しいぞ!」


「フンッ、うるさいですわ。

 今の書面で納得いかないなら、こちらはどうかしら?」


 トワイライト嬢が再び扇を振ると、青色の男が別の羊皮紙を広げた。


「貴方のお父様とトワイライト家が交わした借用書ですわ」


「借用書……!

 父が領主様に借金をしていたのですか?」


「貴方のお父様が亡くなった以上、お金は息子の貴方に請求するしかないですわ。

 利子をつけて総額1000万ゴールゴ。今すぐ払って頂きますわよ」


「い、1000万ゴールゴなんて、すぐ払える訳ありません!」


「ならば、この食堂を渡すことで相殺して差し上げましょう。それでも足りないですが、そこは私も見逃してあげますわ。返答が遅れれば、更に利子がつきますから、お気をつけなさい」


「お嬢、優しすぎまっせ!」

 マスタード小男が鼻をすすりながら言った。


 僕の頭は急に熱を帯びてクラクラしてきた。


「どないするんや、兄ちゃん?」

 アスパラガス男の嗤い声が耳を掠めていく。


「待ってください! やっぱりオカシイです!」


 リナの透明な声が、僕の頭にはっきり届いた。


「何がオカシイのかしら?」

 令嬢の眉間に一本の皺が走る。


「利子の計算方法です。

 借用書に書かれている利子の額を当てはめても1000万ゴールゴにはなりませんよ。

 借りた金額と時期と利子の割合を計算すれば、合計約400万ゴールゴですよ」


「半分以下じゃないか。僕にはそんな細かい計算……。てか、リナは出来るんだ?」


「私はずっと食堂の売上と仕入を管理してきてるのよ。これくらい暗算出来るわ。信じられないなら、この場で計算しましょうか」


 リナぁ、君はどこまで素晴らしいんだ!


「あと、この借用書の日付は昨年夏よ。

 その頃はもうエドが食堂を引き継いでいて、お金の管理も全部任されていたでしょう。なのに、エドのお父さんが領主様に借金するなんて考えにくいわ」


 リナの言葉に合わせるように、青色の男は借用書をしまった。令嬢の眉間の皺が増えている。図星なのかもしれない。

 凄いっ、リナ、最高だ!



***************



 トワイライト嬢は黒い羽扇子で口元を隠したまま、僕とリナを睨んでいる。負けるもんかと僕も必死で目を逸らさないように踏ん張る。


「全く、面倒な従業員を雇われていますのね」

 と、令嬢が扇子の隙間から声を洩らす。


「令嬢こそ、先程から怪しい書類ばかり出してきて。

 領主のお嬢様が、変な連中とつるんで、民を騙すようなことをしても良いと思っているのですか?」


 僕は思い切って言い返してみた。

 言えたぞ、と思ったが、リナが焦った様子で僕の腕を掴む。


「なんやて?」


 トワイライト嬢の声色と口調が変わった。


「ナメとんのか、ワレェ?

 ワテの部下(ツレ)をおちょくるんは、いくらワテでも許さへんで」


 トワイライト嬢は立ち上がり、座っていた椅子を蹴飛ばした。先程のマスタード小男の時よりも遠く勢いよく椅子は飛んで行った。


「素直に従わん上に、ワテの部下までコケにしよってからに。自分、タダで済むと思うなよ!」


 僕の背筋は震え上がった。目の前に立つ赤色ドレスの少女は、僕より背が低くて華奢だ。にも関わらず、僕は熊と対面したかのように凍りついてしまった。


「おい」

 トワイライト嬢が連中に声をかける。青色の男がまた別の羊皮紙を取り出した。


「食器屋は2軒隣の小屋で、南に行った先にジャガイモ農家と牛舎があります」


「ほんなら今から順番に回って、金を取り立てんで。コイツに金が無いなら、コイツが先に支払ったところから回収するしかないもんな」


「なっ!

 仕入先の店や農家は関係ないでしょう!

 それに皆親切で、支払いを待ってくれているところばかりなんですよ!」


 僕は思わず身を乗り出し、令嬢の傍にある丸テーブルに両手を置いた。


「なら、ええやないか。

 お前が払わんでもいけるくらい、向こうには金があるんやろ?

 おい、お前ら先に行っとけ」


 「へい」と言って、マスタード小男とアスパラガス男がドアの方へ向かう。

 僕は慌てて走り、2人を止めようとした。


「止めてください!」


「うっさい、邪魔や!」


 アスパラガス男のひょろ長い腕で、俺は押し戻される。意外と力が強い。バランスを崩しかけたが、リナが駆け寄って支えてくれた。


「お願いです。

 借金は少しずつお返ししますから」

 リナが令嬢達に向かって言った。


「何言っとんねん。

 すぐに満額返されへんから、食堂を解体して売るんやろうが。あんたらがちんたら支払っても意味ないんや。

 文句があるなら、墓に言えや」


 トワイライト嬢は視線をリナの方に移す。他の男達もリナに注目している。舐めるような眼差しを浴びて、リナはビクンと震えた。


「まぁ、ワテもそこまで悪魔やない。

 金も食堂も取り上げて、未来ある兄ちゃんを丸裸で放り出すんは、ちと心苦しいわ。

 どや? ワテがここから少し離れた村で、適当な空き家を見繕うたるわ。そこで食堂をやり直したらええ。どうせこの辺一帯の農家も立退くんや。新しい地で、心機一転頑張ったらええわ」


 令嬢の眼差しが優しくなる。本来の美しさもあり、聖母のように見えてくる。


「それなら少し考えさせてもらっても……」


 今の赤字の原因は、値段を上げられないことだ。仕入先の農家は常連客でもある。食材仕入の値段は上がっても、料理に転嫁できない。金額を上げたら文句を言われるし、量を減らして提供すれば、すぐに気づかれて嫌味を言われる。僕もリナも、正直ウンザリしていた。

 ならば、今までの付き合いを全て無くして、新たに食堂を始めて、ちゃんと利益のことを考えた値段の料理を出すようにした方が良いんじゃないか。リナと一緒なら、きっと上手くいく。


 僕は黙ったまま、横にいるリナの肩に手を添えた。彼女は払うことはせず、僕の手を乗せたままにしてくれた。


「本当に、この食堂をお渡ししたら、借金をナシにして、僕達に新しい店を用意してくれるんですね?」


「もちろんや。約束や。

 せやけどな、店の用意にも金がいる。その金はどこから持ってくるかやねん」


 トワイライト嬢はニヤリと笑い、閉じた扇子の先をリナに向けた。すると、マスタード小男がリナの腕を掴み、僕から引き離した。


「リナ!?」


「エド!?」


「この赤毛の別嬪さんを、踊り娘として使わせてもらうわ。

 しっかり練習させて、昼は大衆客の為に、夜は金持ちオヤジの為に、乳とケツをフリフリしてもらうわ」


 トワイライト嬢は高笑いした。


 リナの顔が青ざめている。


「そんなこと、させてたまるか!」


 僕はマスタード小男に向かって拳を伸ばす。しかし、小男は素早く躱し、僕の胸ぐらをつかんで、左頬に力強く拳を返した。


「クゥッ」


 目がチカチカしながら、僕は尻もちをついた。


「往生際が悪いで、兄ちゃん」

 トワイライト嬢の声が降り注ぐ。

大丈夫です。コメディです。次話へどうぞ!

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