1、ワテの部下(ツレ)が頑張ってんねん。応援したってや!
『第三回この作品の作者はだーれだ企画』参加作品です。
僕の名前はエド。トワイライト領内、とある田舎の村で食堂を営んでいる者だ。亡き父親から継いだ食堂。昔からの常連客が今も食べに来てくれる。僕にとって大切な存在だ。
「ご馳走様。親父さんの味に近付いたね」
銅貨を机に置きながら、常連客が言った。
「まだまだですよ」と僕は謙遜する。
「ありがとうございます。また来てくださいね」
看板娘のリナの声が春風のように通る。
彼女は僕の幼なじみ。来年には妻になる予定だ。
まだプロポーズしてないけど。
「一旦店仕舞いね。今日の賄い、私が作るわ」
「僕に作らせてよ。
リナ、今日も頑張って料理を運んでくれたし」
「えー、だっていつも作ってくれてるしぃ」
こうやってリナと話すのが楽しい。
お互いのことを労い褒め合う時間だ。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いしちゃおっ。
外の看板を『準備中』に変えてくるわね」
リナは微笑みながら扉へ向かう。彼女がドアノブに手を伸ばそうとした時、ガチャリと乱暴にノブが動き扉が開いた。ベルがやかましく響く。
「客やぞー」
リナが「キャッ」と小声で言い、脇に避ける。
2人の男がのそのそと歩いて入ってきた。
見るからに怪しい。特に髪型が変なのだ。
1人は僕より小さい男で、派手なマスタード色のベストを着ている。前髪を油で後ろに撫で付け黒光りさせていた。
もう1人は細身で背が高い。緑色のベストの下は白色のズボンだ。髪型は蝋を使っているみたいで、金髪を前も後ろも全部真上に立てて固めている。その姿はまるでアスパラガスだ。
「お客様、お昼の営業はもう……」
リナが言うと、マスタード小男がギロリと睨みつけた。
「あぁんっ!? 何、フザけたことぬかしとんじゃ姉ちゃん! 『営業中』て書いてたやろがい!
ワイらを騙したんか?」
この国の言葉とは思えない言い回しに僕もリナも戸惑う。しかし看板を替えていなかったのは確かだ。僕は客の方へ向かう。
「お客様、失礼いたしました。
お席にご案内します」
「最初っから、そう言えや、ボケ!」
僕は木製丸テーブル席に2人を座らせ、メニューを渡す。そして、震えているリナに看板を替えるよう伝えた。
「おいっ姉ちゃん、はよ水持って来いや!」
マスタード小男が言った。
リナはビクッと立ち止まるが、僕が遮るように小男に話しかけ、リナを行かせた。
「飲み物でしたら、ぶどう酒はいかがでしょうか。
私から1杯サービスいたします」
「は?」
マスタード小男とアスパラガス男の表情が険しくなる。何故だ?
「こいつ金取る気やったんか?」
「客が来たら、すぐに水とおしぼりを出す!
ジョーシキやろが!」
「オ、オシボリ?」
聞いたことの無い言葉に、僕は困惑する。
対応を誤れば、相手はまた怒鳴るだろう。どうやって穏便に済ますか、僕は必死で考える。
「お待たせしました。
湯冷ましと絞った濡れ布巾です!」
リナが丸テーブルの上に、ガラスコップに入った水を2つ置いた。そして、絞った布巾を客の手の方へ差し出す。客はニンマリと笑いながらそれを受け取る。
「お、ちゃんと温くしとるやんけ。
ったく、もっと早よ持ってこんかい」
2人は満足そうに濡れた布巾で顔を拭いた。
僕はリナと一緒に連中が座っている席から離れる。
「ありがとう。
君は奴らの言ってたオシボリが分かったのか?」
「う、ううん。
あの2人、頭の油や蝋で凄く顔がベタベタしてたから、拭きたいのかなぁと思って」
リナは笑顔で言った。
僕の胸がキュンとする。人がいなければ、抱きしめてプロポーズしていただろう。
生前父は、病気を理由に僕に食堂を譲ってくれた。当時は常連客に色々迷惑をかけた。
そんな時リナは機転を効かせて、僕を手伝ってくれた。現在のメニューは彼女の案で、予め料理の組み合わせを決めた「セット」という形にしている。おかげで、早く料理を提供出来るようになったのだ。
「注文を取ってくるわね。
外の看板は『準備中』に変えているから」
リナッ! 何から何まで気が利いてる!
またまた惚れ直したよ!
「Aセット2つ、パン大盛りです!」
「分かりました!」
リナの隅々まで響き渡るソプラノボイスを聞き、僕は気持ちを切り替え、カウンター裏に向かい、料理の準備をする。
「あの兄ちゃんが店主か……」
「頼りなさそうやな……」
こちらに筒抜けの音量で男達は話していた。
***************
「Aセット2つお待たせしました!」
1人分の料理を乗せた四角い盆を、リナが客の前に置く。山羊肉シチューと丸いパンだ。
「しょっぼ!」
「これで1人前かよ?」
客2人は悪態をつきながら食べ始めた。
「マッズ」
「ゴミ喰わされとんのか」
他に客はいない。文句はいくらでも言って構わない。
僕はリナの隣で早く2人が帰ってくれることを願った。
「おいっ、姉ちゃんちょっと来いや!」
マスタード小男が叫んだ。慌てて彼女は向かう。
「どうしましたか?」
「料理に髪の毛が入ってたんや!
お前、ワイらに何食わしとんのや!」
「お客様、その髪の毛は……」
男達が髪の毛を摘んて、リナに見せている。
アスパラガス男は両手を使っている。
「黒い直毛に、長い金髪。
お客様の御髪が偶然落ちたのではないでしょうか?」
僕はブラウンのくせ毛短髪。リナは赤毛の長い髪を後ろで束ねている。全然違うじゃないか。
「あぁんっ!
オメェ、ワイらのせいにするつもりなんか!?」
「こういう時はフツー、作り直して飯代タダにするのがジョーシキやろがい!」
アスパラガス男の言葉に、僕は震える。
もう一度作って、代金無料だって?
父の代から「格安で美味い」を売りにしていた為、経営は常に赤字だ。仕入先の農家のご厚意で続けることが出来ている。
こちらに否があれば、出来る限りのことはするが、今回は違う。連中の言った通りにすれば、大赤字で更に農家への支払いが遅れてしまう。
「我々に落ち度はありませんから、出来ません」
僕は胸を張って言った。
きっとリナは僕のことをカッコいいと思ってくれているに違いない。
「はぁーっ? ヒドい店やなぁ」
マスタード小男が溜息をつく。
「まっ、所詮は田舎のクソ店やってことやな」
とアスパラガス男が嘲笑う。
「ほんまやな。店はボロいし汚いし」
「料理は不味いし、サービスは最低」
「まだマシなんは、その姉ちゃんやな」
マスタード小男が立ち上がる。
「姉ちゃんの乳揉ましてくれたら、許したるわ」
リナが咄嗟に僕にしがみつく。
リナの、む、胸だって!?
僕だってまだ触ったことないのに!
「駄目に決まってます!」僕は毅然と断った。
「ンアァ!? ナメとんのかワレェ!」
マスタード小男は近くの椅子を蹴り飛ばした。
誰もいない方向に椅子はガタンと倒れた。
リナの手が小刻みに震えている。
このままではマズい。
「止めてください。
大きな声を出すなら、領主様に報告いたします」
僕はリナに「裏口から出て、警護団に助けを求めて」と小声で伝えた。リナは頷いた。
「ハハッ。領主様やって!
ワイらの頭が誰か分かってへんのか!」
「仕方ないわ。間抜けそうな兄ちゃんやしな」
アスパラガス男も立ち、2人は肩肘張って並んだ。
「こんなクソ店、無い方がマシやわ。
頭を呼ぼうや」
「せやな、頭ー!」
アスパラガス男がドアを開け、外に向かって大声で誰かを呼んだ。
***************
ズーン……ズーン……
店の外から重低音が響いてきた。
その音と共に、2人の人物が入ってきた。
「お嬢、お疲れ様です!」
マスタード小男とアスパラガス男は道を開けるように移動し、足を横に開いて、膝を曲げ腰を落とした状態で頭を下げていた。見たことのない敬礼だ。
お嬢と呼ばれた人物。
腰から下が丸く広がり、フリルとリボンがたっぷり付いた真紅のドレス。輝く金髪を縦に巻いた華やかな髪。黒い羽扇子を口元に添え、長い睫毛の奥の金色の瞳がこちらを見据えている。
とても美しい令嬢だった。
こんな田舎に現れるということは……?
「兄ちゃんらに特別に教えたるわ。
トワイライト領主令嬢、クリスティーヌ・アンジェリカ・ルルルルン・トワイライト様や!」
マスタード小男のキーの高い声が店内に響く。
やはり領主様の娘なのか。
何故こんな変な連中を連れているんだ?
後ろの弦楽器を持った男は、全身青色だった。
「ご機嫌よう。
どうやらこの子達に失礼なことをしたみたいね」
頭を下げたままマスタード小男がヒソヒソ話すのを聞いた令嬢は言った。
普通の話し方だ。良かった。
って、そうじゃない。誤解されているぞ。
「違います!
ご自身の髪の毛が料理に落ちたことに対して、我々に文句を言っているのです!」
領主の令嬢が来てくれたなら、報告しに行かなくて良いだろう。僕はリナに留まるよう伝えた。
「何ですって……?」
パタンっと、トワイライト嬢は羽扇子を閉じた。
それに合わせて、後ろの青い服の男がジャンッと音を奏でた。
「おんどりゃー!
ワテの部下にナメた真似しといて、何ホザいとんねん!」
トワイライト嬢が物凄い剣幕で睨んだ。
てか、令嬢もその喋り方なのかー?!