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出会い

「ごめんなさい、私好きな人がいるから」


無慈悲な声が耳を伝って脳に届けられる、その言葉を正しく理解した瞬間初恋は儚く散ったのだと悟った。


湧き上がる熱い涙を決して溢さぬように必死で下を向くと、彼女は少しこちらを見つめてから早足で去っていった。


慌てたような足音を聞きながら、謝らせてしまったことと告白を聞いてくれた感謝ができていないことに申し訳なさが胸にじわじわと広がってまた目頭が熱くなった。



「どーしたんだよ、」


軽やかな声が上から降ってくる。


その声に応える気になれる筈もなく、ただ自分に与えられた机に齧り付いて只管に項垂れた。


「あ、もしかして、振られた?」


「…」


「…そっか、そっかー、」


「…好きな人が、いるって」


どうせ構われるのなら話を聞いて貰おうと口を開くと友人はおっと言うような顔でこちらと目線を合わせてくれた。


「まあ、有名な話だよな」


「え、」


「あれだろ?隣のクラスの変人」


開いた口が塞がらないとはこのことだ。見開いたままの眼で彼を見上げると、相手は首を傾げてこちらを見返した。


「ほら、長い黒髪の不思議なことばっか言うやつ」


「知らない…」


「まじか」


「有名って、彼女が告白したってことか?」


今度こそ呆れたという風を隠さない彼に少し不満げに問いかける。


すると、そういうわけじゃなくて、と否定が返って来た。


「その変人くんよく怪我してくるんだよ、でも理由は何にも言わないから周りが気味悪がっててさ」


「怪我?」


「そう、でお前の愛しの彼女はそいつがえらく心配らしくて、何度も話しかけたり手当したりしてるそうで」


なるほど、そういうことか。と腑に落ちるが、彼女が大切に想う人がいるのなら悪い事をしたかも、と罪悪感が脳裏をよぎった。


「てっきり知ってるのかと」


「…知らなかったよ」


「そっかー、悪い事したな」


と申し訳なさそうに笑う友人を見返して、ほんの少しだけ元気が出た。


「いい奴だよな、おまえ」


「はは、褒めても何もでないけど」


失恋祝いにこれをやろう、とポケットからチョコレートを出してくれた彼は本当にいい奴だなと思いながら有難くそれを受け取った。



彼女を好きになったのは、同じ委員会で真面目に働く姿を見たのがきっかけだった。

決して流暢に仕事が熟せていた訳ではないが、誠実に向き合っているその横顔が好きだと思った。


それから気づけば彼女の姿を追う自分に気づいて、ついに告白しようと思い至ったのだが、まさか想い人がいたなんて。


長い黒髪の不思議な事ばっかり言う変人、彼女はその変人の何処を好きになったのだろう、と考えても仕方のない事が浮かんでは消えずに胸に燻っている。


ちらりと目線を前を向けると、綺麗な黒髪に赤が滲んでいた。


「は、」


信じられない光景だが、学生服を着た黒髪の人物が何もないところに浮いていた。しかも額からだらだらと赤い血が流れている。


何もない、確かに何も見えないが、まるで誰かに首を締め上げられているように不自然に首元にシャツの皺が寄っていた。


苦しそうに顔を顰めるその人物が声にもならなかった咳をすると、不意にパリンとなにかが割れる音がして、何かは幻のように消えた。


「はっ、はー、ぁ、」


支えを失った体は地面に叩き付けられて、足りていなかった酸素を何度も吸い込もうと肺が上下している。どうやら生きているようだ。


どうしたらいいんだ、そんなことわかる筈もなく、ただただ目の前の光景に立ち尽くすばかりだった。締め上げられていた人物はこちらに気づいたようで、ひどく驚いた顔をした。


「…、だいじょうぶ?」


そう問いかける相手に、それは自分が聞くべきことなのではないかと思ったが、そこで呪いが解けたように体が動いて喉から言葉出た。


「だい、じょうぶ」


「そう、よかった」


と安心したように息を漏らすその人物に、変な既視感を覚えた。


長い黒髪、彼女と同じクラスのバッジ、怪我、不思議なもの、もしかして、


「彼女の好きな人…」


意味がわからないと首を傾げた相手はそのまま、体も傾けて地面に倒れ込んだ。


「えっ、」


「はっ、ぁ、」


息が浅くて顔色も悪い、加えてその首元には歪な手形がくっきりと残っている。触れていいか戸惑っていると、目の前の人物が、


「い、え、」


と息も絶え絶えに言葉を落とした。


「家…おまえの家まで連れていけばいいの?」


慌てて問いかけると今にも気絶しそうな顔で小さく頷いたので、今度は迷わず相手を背中に負ぶさった。


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