九「side of b」
私──べーレ・ウィラードには、能力が既に発現している
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お兄ちゃんが黒に侵食されている。横になっているお兄ちゃんは尋常じゃない量の汗でシーツを濡らし、苦悶の表情を浮かべて常にうなされている。
お兄ちゃんと狩りにいったときから、最後の一匹を仕留めたお兄ちゃんが呪いに侵食され続けている。
見ていられない。
変わってあげられるなら変わってあげたい。
一日中、ムニとラトロと話し合って、前に問題になった注射を見つければいいんじゃないかってなったけど、どこにあるか分からないし。
隣の国に預言者が居るって言ってたけどそんな時間残されてないし。
私は何も出来ないのだろうか。お兄ちゃんを助けるすべはもうないのだろうか。
お兄ちゃんを助けたい。
──そして私の能力、過去を置き換える能力が発現した。「呪いにかからない」過去にはできないけど、「誰がかかったか」なら書き換えることができた。
迷わず私は書き換えた。
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呪いにうなされている間のことは記憶が曖昧模糊としているが──あれ、私死んでない。
なんでだろう。
あっ、お兄ちゃんが私の手を握ってくれている。お兄ちゃんが全部解決してくれたのかな?
あれ、これ、覚醒させる注射じゃ、
...お兄ちゃんこれ使ってどうやって私を
もしかして私の代わりに──
「どうした?」
お兄ちゃんは何事も無かったかのようにしてる。私が聞いてしまってもいいのだろうか。
私のした書き換えは、結果としてお兄ちゃんに辛い選択を押し付けてしまったの?結局判断を丸投げにしてしまったの?
苦しめてしまったの?
「──いや、なんでもないや」
「それならいいんだけど」
なら、私は知らないフリをしよう。
それがきっと一番いい。