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一「嫌ですけど」

舞台は世界でもトップレベルの技術、人口、貿易額etc...を誇り、武力の面から見ても多数の勇者を輩出しているだけあって、他国の追随を許さない、今一番勢いに乗っている国──ウィラード王国。


かの国と言えば、

【今一番住みたい国ランキング1位】(ウィラード調べ)、【綺麗な国と言えばランキング1位】(ウィラード調べ)、【治安がいい国1位】(ウィラード調べ)、

【尊敬すべき王様がいる国ランキング1位】(ウィラード調べ)

【今一番注目してる国ランキング1位】(ウィラード調べ) と、数々のランキングを欲しいままに総ナメしている、国民の充実度の向上が留まることを知らない国家として名を馳せている、名実ともに世界一位の大国だ。

そして今、歴史的瞬間──そう、王位の継承が行われていようとしていた。

ここ数年、王が公の場にあまり表に姿を見せなくなっていたことから前々から噂されており、他国が固唾を飲んで動向を伺っている最注目事項であったが、一向に関連情報が発表されないので、いまや関心が薄れてきてしまった頃の出来事である。


「入って良いぞ」

そう厳かな雰囲気を垂れ流しながら告げるのは、現国王のグラント・ウィラード。全盛期は国王ながらも戦線に加ったり、ウィラード国の根幹を成す法案などを定たりするなどと、文武両方に秀でた才能を持つ人物だったのだが、今はその面影は欠片も残っておらず、ベットで寝たきりの生活が続いていた。だが間違いなく、今の平和なウィラード王国があるのは彼の功績であろう。


「失礼します」

「失礼します」


王の部屋に足を踏み入れたるは右にべーレ・ウィラード、左にウィルソン・ウィラード。王家の長女と長男である。あと二人、次男と次女の、フリントとキャロルがいるのだが、如何せんまだ幼く、今回は招集されなかった。もっとも、べーレとウィルソンも今年でそれぞれ14、15と、成人として認められる年齢には達していない。


二人は王が横たわるベットの正面に立つ。

「私も先は長くない。お前達のどちらかに、王の座を譲る時が来たようじゃ。──どうだ。決めてきてくれたのか。」


「いえ、お父様。まだまだ粘れますよ。ここからって時じゃないですか。」


「ええ、そうですわお父様。あなたまだ50ちょいでしょ。何寝ぼけたこと言ってんですか。国家鍛冶師のカーライルさんは今年で92らしいですわよ。」


グラントは重々しい顔つきで、ため息をつく。そう、これは何も今に始まったことじゃないのだ。さっさと次期国王を決めて発表しようとしていたのに、先延ばしになっている原因がこの我が息子と娘。この2人、絶対に王の座につこうとしないのだ。

ウィルソン曰く、「だって書類とかにずっとハンコ押すの暇そうだし」と。ウィルソンの中で王のイメージはハンコ押す人で固定。

べーレ曰く、「いや、人前で喋るのとかまじ無理だし」と。赤ちゃんの頃から面倒見させて貰ってきたグラントに言わせてみれば、明らかに人見知りする性格ではないのだが。


あと、カーライルはドワーフだから比較対象に出されても困るし。情報を追加するとすれば、彼の口癖は、人間の一生って儚ぇ、なのだが。


「話し合って来いって前も言ったじゃないか」


ウィルソンが一歩踏み出す。

「いえ、お父様。僕自身まだまだ政治についての知識が浅く、この国を統率できるような器であるとは到底思えません。僕が王になったりでもしたら、長きに渡って繁栄してきたこの栄光ある国を一瞬にして、衰退の一途を爆走させる自信が有ります。あと、そんなこと急に言われても困るし、事務所とか通して欲しいし、面倒臭いし。」


後半は心の底からの本音である。


「いえ、お父様。兄はこう謙遜しておりますが、学校でのテストはいつも満点ですし、剣術も二級。先日の魔術大会では準優勝。漢検も準二級と、好成績を残しております。故に王になるのは兄が適しているかと。」

兄を敬う姿勢を見せる恭しい妹、べーレ。


「おい、俺がいつテストで満点とったんだよ。なんならお前の方が高いだろうがよ。」

そう、先程のべーレの発言。コチニール色素たっぷりの嘘であった。兄とは似ても似つかない架空の人物像である。


「お父様。いえ、ここはあえて呼び捨てにさせてください、グラント。」


「何でだよ。」


「こいつの口車に丸め込まれてはいけない。まあ、賢明なグラントはそんな愚か極まりない判断は下さないとは思いますが。なぜなら僕は!ここ最近学校へ!行っていないから!だから僕がそんな模範生みたいな行為はしていないんですよ。


あとコイツ、昨日お父様の大事な絵画、遊んでて壊してましたよ。」


「!?」


なぜだか誇らしげに前半のスピーチを終えたあと、もはや王に相応しいとか関係なしに相手の株を落としにかかったウィルソンは小賢しさの権化のような男だった。ちなみに一時期の学校でのあだ名はウィル損得勘定。


負けていられないとばかりにべーレが身を乗り出す。

「お兄ちゃんも。えーと、えーと、くそっ。部屋から一歩もでてないから何も悪いことしてないぞ、こいつ。」


悔しげに歯を食いしばるべーレ。

不登校をもはや悪いことと認識していない、勝ち誇った顔のウィルソン。

もう泣きそうなグラント。


三竦みの状況を打破したのはこの中の誰でもなく──

「ご提案があります。」


メイドのムニ・テリシャであった。


「なにゆえ緊急事態とお見受けしたもので、どうか扉を破壊した罪は不問にしてください。」

このメイド、他に負けて劣らずのインパクトを持つキャラ、ゴリラ並の力を保有したメイドである。容姿端麗でサラリと伸びた銀髪が印象的な、一見お淑やかに見えるムニだからこそ、尚更残念なステータスである。彼女はウィルソンと同い年かつ、幼なじみであり、彼女の祖母から代々、この城に仕えている家系でもあった。


学校でのクラスも同じであるがウィルソンが登校しない日は、別に命令されている訳ではなくとも、彼女も不登校を敢行するので出席日数は両者ともに致命的なまでに足りず、そこは国家権力の方をちょちょいと行使させてもらっている。


「この国では建国以来数え切れないほどのいざこざが発生してきました。そんな争いを穏便に解決してきた古からの決闘方法、そう、ジャンケンで、決着をつけるというのはいかがでしょうか。」

淡々と述べる彼女の瞳には、少しの真剣さと、いい加減に覚悟を決めろという少しの圧と、余りある好奇の色に染められていた。


「やっぱそれしかないのか。」と首肯する素振りを見せるウィル。「結局そうなるのかしら」と渋々ながら受け入れるべーレ。そして──


「いや、止めろし。」

危うく蚊帳の外に追いやられるところだった、割とちょっと泣き出してるグラント、必死の一言。断っておくが、この国での重要事項はちゃんと議会を通してから、王が許可を下す、という流れなので、そこにジャンケンが入る余地は一ミクロンすらない。


「そうですね、お父様。いささかお戯れが過ぎたかもしれません。ジャンケンではありきたりすぎて風情がありませんね。

ジャンケンなど子供が鬼ごっこで鬼を決める時にやる単なるお遊び。ここはひとつ、指スマと洒落こみましょう。」


違う。そうじゃないと声を大にして叫び出したい気持ちに駆られたグラントだったが、彼は言葉を発することは無かった。彼の瞳が捉えるのは虚空か、はたまたこの国の希望なき将来か。


「誰からにするの、お兄ちゃん。」


「そうだな、じゃあここはジャンケンで順番を......はっ。」


そして二人は知る。日常生活における恐るべきジャンケンの普及性を。


「...結局、全ての森羅万象は、突き詰めるとさっき俺が馬鹿にしたジャンケンへと帰結するのか。はっ、切り捨てたものの重要性に今更気付かされるとは──はっ皮肉なもんだぜ。」


「今日、それを知れただけでも、あなたはきっと昨日のあなたよりも成長したあなたに成れたのよ。きっと。」


べーレは兄の肩にそっと手を添える。心做しかいつもより小さく思えるその背中に。そして支え合う兄妹は、ゆっくりと、ゆっくりと王の部屋の出口へと歩みを進める。彼らはきっと、これから先も互いに助け合いながら、この過酷な世の中を生きていくのだろう。ムニは徐々に光の方へと消えゆくふたつの影を、目の端から一筋の雫をつたわせて、見守ることしか出来ないのだった。


「おい、何どさくさに紛れて退出しようとしてんだよ。騙されないぞ。」

ちっ、と舌打ちが聞こえたのは多分グラントの、年による幻聴だろう。腐っても元国王ってわけかい、と聞こえたのもここ最近悪化してきている幻聴だろう。

二人は笑顔でこちらを振り向き、ウィルソンが、あたかもこれが二人の総意だと言わんばかりに、

「焦りすぎるのもなんですし、また次の機会ということでどうでしょうか。」

と、もはや常套句と化した台詞を使い回すのだった。


「ちょっと待て。」

ここで退いてしまうのは、グラントにとっても簡単だ。だが、それでは数ヶ月前から続くこのループから抜け出すことは叶わない。いつまでも、永遠に己の子供に弄ばれ、終わりのない時の鳥籠に囚われたままに一生を終えるのか。

グラントは自問する。

己を鼓舞する。

そう、この作品はグラントが主人公の、ループものなのだ。いや、まあ違うのだけれど。

深呼吸をひとつ。脳に酸素を送り込んで冷静な思考を促す。グラントは落ち着きたいときに円周率を数える癖があった。


3.........ふう。


そして彼の世代はゆとり教育が試験的に取り入れられていた世代でもあった。

ともかく、正常に機能するようになった頭をフルスロットルで回転させ、状況を打ち破れるなんかこういい感じの構想を練り上げた。

そして、かつての賢王としての矜恃を取り戻した神妙な面持ちで宣した。

「国民に投票で決めてもらおう。そして投票数で、今度こそ、文句なしに決定だ。」


グラントの並々ならぬ雰囲気を察知したのかウィルソンとべーレは立ち住まいを改め、グラントに向き直ってこう問いた。


「「負けた方が国王ってことですか?」」


******

掲示板

大事なお知らせ

次の国王を決めるのでみんな投票して下さい。

明日城の前でやります。

P.S.最近若者の投票率が下がってるので直そうね。


僕が王になった暁にはこの国をとりあえずウィルソン帝国にすることを約束します。 byウィルソン


私はそんなことしません。 byべーレ


↑こいつはろくな事しない。

前に他国の姫とポーカーやってたときに「よっしゃこの国の治外法権をかけるぜ」って言ってました byウィルソン


それはその前にお兄ちゃんが相手国に領事裁判権を賭けて負けてたから、取り返すためにやりました byべーレ


べーレに入れたヤツは深爪する呪いをかけました byウィルソン ...... ────

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