搾取
「いいですか〜?自分がされて嫌なことは人にしないようにしましょうね。」
「ハーイ」
いつの世でも、人は平気でウソをつく。
小学生の頃からスレていたのか?
ところが社会に出るまでの間、こんなにもインチキクサイ本を目にするとは思ってもみなかった。
ときは流れ、大学生になった俺は、駅前の本屋さんがつまらなくて仕方がない。
『人は話し方で決まる』
『相手の手の動きでセールスしろ!』
『絶対に受かる〇〇』
そんなわけがない。
大人になって尚こんなにも簡単に騙される大人が多いものかと思った。
そんな中、一つだけ目に飛び込んできた本があった。
『現代道徳ギャグの時間』
帯にはこう書いてあった。
「皆んな仲良く出来たら苦労しない。令和の時代に背を向けたある意味での問題作。累計100万部突破!」
久しぶりに財布からお金を出し、本を購入した。
【はじめに】
世の中、男尊女卑ならぬ女尊男卑化が進んでいる。そこで我に返った人は、ぜひ手に取って読んで欲しい。現代の矛盾をアイロニーたっぷりに書いた、現代道徳ギャグ図鑑の幕開けなり。
①自分がされて嫌なことは人にはしない。
「塗装工事しませんか?」
「家は結構です。」
「今キャンペーン中でして…」
②男女平等
「参加料:女性1800円、男性4800円」
③好きなことを仕事にしよう
街頭インタビュー:「私はプロジェクトの立役者だったのに、搾取されました。」
④頑張れば報われる
試験に全員は受からない。
⑤皆んな仲良く
〇〇さんのTwitterが炎上。イジメに発展。
始めはよく書けている本だなぁと思ったが、結局新しい知識は得られなかった。しかし見れば見るほど、俺の卒論と妙に一致している。恐る恐る本の著者を確認すると、ズバリ俺の指導教官だった。思い返せば、最初から最後まで自分の論文だった。
俺は自画自賛を恥じると共に、教授に搾取されて唖然とした。成績は最高評価のSをくれたが、納得がいかない。
すぐさま俺は教授室に怒鳴り込んだ。
「どういうことだ!」
すると教授はこう言った。
「君、Sはただ一人なんだよ。よく頑張って報われたじゃないか。まあ、皆んな仲良くしようや。」
俺もまた、多くの騙された大人の一人だった。
いつの世でも、人は平気でウソをつく。