崩壊する日常
友樹が学校に行っている間。
桜達は各々自分のルーティンで行動している。
桜と楓はパトロールと称して街を散歩し、椿は家事に勤しみ、薺は姿を変えて友樹と共に学校に通っている。
「薺は良いなあ、マスターと一緒にいれて」
「私達は形状変化出来ないから仕方ないわよ。
見た目は中学生が関の山、下手したら発育の良い小学生にも色々負けるわ」
「身長とか胸とかねえ」
「言わないで。悲しくなるから」
「なんで博士は私達を女の子にしたんだろうねえ? 後発の機体には男の子の姿をしてる子もいるのにね」
「ん~、博士の趣味だったのかしら」
朝の街を桜と楓は普段からこうして喋りながらウロウロ歩き回っている。
しかし、見た目が楓が言ったように幼いためたまに警察の方に呼び止められたりもする。
それ程に2人を含めた姉妹4人は人間にしか見えないのだ。
「ちょっと、そこのお嬢ちゃん達! 学校はどうしたんだい? ああ、君達か。
今日もパトロールかな? ご苦労様です、私達も頑張らないといけませんなあ」
「警察官さんおはようございます!
警察官さんもパトロールですか?」
2人を車道の警察車両から呼び止めた警察官は2人の事を知っていたので敬礼してにこやかに話してくれるが、運転席にいた若い警察官は怪訝な面持ちだった。
「先輩、なんなんですこの子達」
「ああ、丁度良い、顔を覚えておけ。
まあ俺も先輩に教えられるまで信じられなかったが、彼女達は昔あった異世界間戦争の英雄なんだ」
「ああ確かに、教科書に載ってた顔と一緒っすねえ。
え? 同型機とかじゃないんすか?」
「私達に同型機はいません」
「え、じゃあ本当に英雄機なんだ! スゲェ!」
「ははは! まあそういう事だ、だからちゃんと覚えておけよ?
昔の俺みたいに補導したりしないようにな。
――ではお2人共今日も1日頑張りましょう。では私達はこれで」
平和な日常は彼女達に守られいつまでも続く。
本来ならそうなる筈だった。
しかしその平和は薄氷を踏む様にヒビ割れ崩れ去る事になる。
太陽が真上から地球を照らす頃。
それは突然現れた。
日本の、それも友樹が住む街の外れに黒い球体の様な物が現れたのだ。
その黒い球体の存在をいち早く察知したのはもちろん桜達だった。
「…………ゲートの反応だ」
「嘘でしょ。なんでこんな場所にゲートが。
あれは発生装置は私達が壊したのに」
普段さわがしい桜がゲートの発生した方角を静かに睨む。
その横で楓はゲート発生を警察関係者や自衛隊に連絡。避難誘導してくれるように対応を仰ぐ。
「おい、なんだよアレ」
一方で友樹の通う高校、友樹の在席している教室にて、窓の外を見ていた友樹のクラスメイトが声を上げた。
黒い球体の発生は友樹の学校からも見えたのだ。
いや、一番近くにあった施設が友樹の通う学校だったと言える。
「マスター、避難をお願いしますアレはゲートです」
「おい、冗談だろ。なんでゲートが日本に」
「理由は分かりませんがアレは間違いなくゲートです。
今すぐ此処から避難してください、ここは……戦場になります」
友樹の教室に入ってきた薺が珍しく饒舌に言った。
薺が冗談を言ったところを友樹は見たことがない。
それが異世界への扉が数十年ぶりに開かれたのを友樹に実感させた。
「薺、皆を守れるか?」
「規模によります、幸い以前のゲートよりは遥かに小さいのでどうにかなるかも知れませんが」
「そうか……頼む、皆を守ってくれ」
「最優先はマスターです。
ですが、了解しました全力を尽くします」