少年の朝
その日、異世界間戦争の英雄、不知火一樹博士の孫である不知火友樹は通っている高校への登校時間が迫っているにも関わらず、惰眠をむさぼっていた。
アラームが鳴り、枕元に量子ディスプレイが現れてスヌーズかストップかの選択を迫るが、友樹は薄めを開けて宙に浮いた選択肢からストップを選ぶと再び目を閉じた。
「ちょっと姉さん待って! ドアはそっと開けないと駄目だってマスターが言ってたじゃない!」
「大丈夫大丈夫! 任せて!」
「待って姉さん! 待って!」
友樹の耳に女の子同士のそんなやり取りが聞こえてきたと思った瞬間、友樹の部屋の木製のドアが開いた。
蝶番いごと。
「マスター! 朝だよ起きてえ!」
「ああ、やったよこの姉、壊しちゃ駄目だってマスターに言われたじゃない!?」
ここまで騒がしくされても起きない人間は起きなかったりするが、友樹は目を覚ました。
眠い目をこすると頭をガシガシ掻き、眉間に皺を寄せていく、明らかに不機嫌である。
「あのさあ、昔から言ってるよなあ桜。
力を加減しろ力を、リミッター壊れてんのかお前は」
友樹は桜と呼んだ桃色の髪の自分より幼く見える少女と、その少女、桜が破壊したドアを交互に見るとため息を1つ吐いて言った。
「えー? ……自己診断プログラムだと正常だよ?」
「ならその診断プログラムも壊れてんじゃねえのか? ……ったく、また椿にドア修理してもらわないと」
「その椿ちゃんがご飯出来たから降りて来いだってえ」
「分かったよ、着替えるから出てけ」
「なんで?」
「……楓、桜をつまみ出せ」
「了解マスター、ほら行くわよ姉さん!」
「えー、なんでえ?」
青い髪をツインテールに結った桜と同い年位の楓が桜の手を引きながら廊下に出ていったのを見て、友樹は座っていたベッドから降りると、クローゼットに向かった。
自動で開いたクローゼットの扉から、そのクローゼットの中でクリーニングされた高校の制服に着替えていく。
代わりに寝間着をハンガーに掛け、クローゼットから一歩離れ扉が閉まるとそこに量子ディスプレイが現れたので、友樹は除菌洗浄を選択してクローゼットに背を向けた。
「あれ? ベルトは何処に置いたかな」
「はいこれ」
「うお! ビックリした、居たのか薺。ベルトありがとう」
「私はマスターの警護も兼任している、ずっとベッドの下に居た」
「ええ怖あ」
薺からベルトを受け取り、それを巻くと友樹は桜に壊されたドアを踏んで廊下に出た。
その後ろを通学鞄を持った薺が着いてくる。
そして廊下を進み、ダイニングのドアを開けた友樹は「おはよう」と短い挨拶を交わして朝食の用意がされているテーブルについた。
「おはようございますマスター。
楓姉さんから聞きました、また桜姉さんがドアを破壊したそうで」
「ああ、ごめんな椿。また修理頼むよ」
「了解致しました」
「今日の天気は?」
「本日は晴れ時々曇、降水確率は0%です、マスター」
「ありがとう。良かった今日も良い天気になるんだな」
これが不知火友樹という少年の朝。
いつもと変わらない彼の日常だった。