8話 ルークの悩み
『セローっ‼︎』
『わっ⁉︎何ルーク?』
教室でルークが後ろから抱きついてきた。
顔は少し泣顔になってる。
『今日の授業見ただろ〜、俺を導いてくれよ〜』
今日の授業というと…。
『みんな英雄からのアドバイスで日々魔力制御を行ってきたが、ここで試験の時に使った的で無詠唱魔法を実感してもらおうと思う。失敗しても構わんから全力で行うように』
『では、私から行こう』
アルがそう言って進み出た。
両手を前に突き出し魔力を練る。
ボッ!
両手の中心に赤い炎が燃え上がった。
『っ‼︎』
ゴォッ!
一呼吸した直後、的に向かって炎が尾を引いて放たれた。
的は上半分が焼失していた。
『これは⁉︎』
『お見事です殿下』
『あ、ああ』
『殿下!凄いじゃないですか!なのにどうしてそんな顔してるんですか?』
『そうですよ!無詠唱でしかも的を破壊したんですよ!』
セリナさんとユーテス君が口々に賞賛してる。
『自信はあったんだが、まさかこれほどとは思っていなくてな』
その後も続いた結果に一同が騒いでいた。
『じゃあ、次はルーク』
『おう!』
ルークが的に向かって右手をかざした。
すると右の掌から水が放出された。
チョロチョロ〜。
静寂が訪れた。
『ル、ルーク、まぁ落ち込むな』
バレット先生がルークの肩を叩きながらフォローしている。
『そうだぜ!気にするなよ?』
『調子が悪かっただけよ?』
などと、みんな口々に慰めている。
『ぐっ!言葉の数々が俺を抉ってくる!』
なんだかまだ余裕ありそうだな。
『アンタあれでどうやって試験通ったのよ?』
マリーさんが斬り込んできた。
『ぐっ!しょうがねぇだろ!放出系が苦手なんだよ!それに試験はコイツ使ったんだだよ』
コイツと言いながら自分の赤いマフラーを指した。
それを見てマリーさんが目を細めて疑いの眼差しを向けている。
『あ!お前信じてねぇな!見てろよ! センセー!コイツ使ってもう一回やっていいですか!』
『ん?、あ〜ソレか。いいぞ』
『よし!行くぜ〜!』
叫びながら的に向かって走り出した。
残り半分の距離辺りでマフラーが重力を無視して持ち上がり、先の部分が人の頭大ぐらいの拳の形に変わった。
『らぁっ!』
ボガァン!
マフラーの拳が的を殴りつけると同時に爆発が起こった。
殴った部分が抉られた的が残っていた。
ルークがドヤ顔で振り返った。
『あ〜、試験を通ったのはわかったけど、アンタ魔法使いっぽくないわね』
『ぐっ!人が気にしてる事を!』
『それに殴りつけるって、脳筋っぽいわね〜』
『ぐぁっ!』
『かと言って体術に精通してるわけでもないし、中途半端な立ち位置だよね〜』
『うっ!』
マリーさん、セリナさん、カイト君が口々に発した言葉にダメージを受けている。
『私としては最初の水魔法の方が良かっただ。花壇の水やりにピッタリだべ』
『グハァッ‼︎』
『はわわ⁉︎ルークさん大丈夫だべか⁉︎』
『悪意が無いって時には非情よね』
『リリィ、残酷な子』
『ルーク、ボクらは君を忘れないよ』
『死んでねーよっ‼︎』
とまぁ、こんなやり取りがあったような。
『ふむ。そのことだが、別に今のままで構わんのではないか?』
『水やりが⁉︎』
『そんなわけないだろう。付与の方だ』
『殿下のおっしゃる通り、俺もそう思うぞ』
アルの言葉にバレット先生が乗っかってきた。
『使い方次第だな。確かに魔法使いと言えば遠距離から狙撃するのが普通だが、近接タイプも必要だろう?』
『うむ。それに形を変えたり属性付与が出来るのなら盾を作って盾役をすることも可能だろうしな』
ルークの前に次々に道が示されていく。
『殿下!先生!俺やります‼︎』
『アイツ単純よね〜』
『納得してるんだからいいんじゃない?』
『彼らしいよ』
ボク必要無かったな。
『セロ!後で付き合えよ!』
…そうでもなかった。