3話 噂のお家
トルコさんが手配してくれた馬車で揺られること約2時間。
横一杯に広がる壁が見えて来た。
『じいちゃん!あれが王都⁉︎』
『そうじゃよ』
馬車が壁に近づくにつれて徐々に人の数が増えてきた。
その中の一部に列が出来ていた。
『人が多いね』
『入国審査待ちの列じゃ』
行列の先には門があり、そこで審査をしてるみたい。
『失礼します。身分証の提示をお願いします』
『ほれ』
守衛の人が声をかけてきて、じいちゃんがカードを手渡した。
守衛の人がカードを確認すると、目を見開いてじいちゃんを見た。
じいちゃんは人差し指で口を押さえて片目でウインクした。
『っ‼︎』
守衛の人はなんとか声を堪えてコクコクと頷くだけだった。
『行ってもよいかの?』
『はい‼︎もちろんです‼︎』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『さっきより人が一杯!それにいい匂い!』
街行く人々の喧騒や屋台から漂う複数の匂いは初めてで新鮮だった。
街は王城を中心に貴族、平民と円状に区画分けされていて、じいちゃんの家はちょうど貴族と平民区画の間ぐらいの位置らしい。
『そう言えばじいちゃん、街に入る時に守衛の人驚いてなかった?』
『そうかの?』
そこにはあまり触れて欲しくないのか、惚けた反応が返ってきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ねぇじいちゃん』
『なんじゃ?』
『家、前よりおっきくない?』
『そうじゃのう』
森にある家は木造で、リビングにボクとじいちゃんの部屋、あとはじいちゃんの書斎と物置部屋があるだけだったが、これはどう見ても森にある家の5倍以上はでかい。
『『『 お帰りなさいませ‼︎ 』』』
『っ⁉︎』
家の扉を開けた瞬間中から一斉に声がかけられた。
『えっ⁉︎、何これ⁉︎』
『執事長のセバスと申します』
『メイド長のマリアでございます』
『料理長のディッシュです』
『え?どういうこと?』
『これからシルバ様とセロ様のお世話をさせて頂きますので、なんなりとお申し付けください』
執事長と名乗ったセバスさんが丁寧に一礼した。
『トルコのやつが手を回してくれたらしい』
『じいちゃん、これって普通…なの?』
『この家はシルバ様が過去に街を災害から救った時に、国王様から頂いたものですよ』
『⁉︎』
じいちゃんの代わりにセバスさんが答えてくれた。
『特に欲しいものも無かったんでな、向こうから一方的に与えられたもんじゃ』
じいちゃんからはそんな言葉が返ってきた。
『シルバ様はこの街の英雄ですよ』
『昔の話じゃ』
じいちゃんはそんなこと言ってるけど、英雄って…じいちゃんってもしかしてすごい人?
その後、メイドさん達からじいちゃんの話を聞かされた。
未開ダンジョン踏破、Sランク魔物討伐、王都スタンピート防衛、等々。
正直なところへ〜としか言いようがなかったけど、メイドさん達のはしゃぎっぷりを見るとなんとなく凄いことだけは理解出来た。
メイドさん達の話は夜まで続いたが、メイド長のマリアさんに叱られて解散することになった。