2話 引っ越し
『セロ、ちょっとよいか?』
『どうしたのじいちゃん?』
『もうすぐ15歳になるじゃろ、学校に行ってみる気はないかの?』
『学校?』
ボクが拾ってもらったのがだいたい10歳ぐらいだったらしいので、拾われてから約5年じいちゃんと一緒に暮らしていることになる。
『こんな場所に住んどるからお前さんには歳の近い友達を作ってやれんかったからの』
こんな場所とは、
ここは街から徒歩で5時間程度の距離にある森の奥。
その為、人が寄り付くことはなく基本は自給自足で生活をしている。
ついでに言うとボクは森の中から出たことがなく、じいちゃんにトルコさんとクロスさんの3人以外の人とも会った事がない。
そう考えると他の人に出会ったり街に行ってみるのもいい気がする。
『この前トルコ達が来たじゃろ?その時に今の話をされてな、そうなったら必要な手続きはしてくれると言うとってな』
この前というと帰ってすぐに来た時のことだろう。
『次来るのはもう少し後じゃろうから考えてみておくれ』
『わかったよ』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
トントントン
執務室の扉が軽くノックされた。
『入ってよいぞ』
『失礼致します』
執事の格好をした老齢の男性が入ってきた。
『どうした?』
『謁見があります』
『誰じゃ?』
『シルバ様です』
『そうか、となるとあの件か』
『おそらくは』
『ここに通せ』
『かしこまりました』
しばらくして執事に案内されてシルバが部屋に入ってきた。
『久しぶりじゃの』
『5年ぶりになるか?』
『要件はわかっておるの?』
『学校の件だろう?』
『分かっているなら話が早い、どういうつもりじゃ?』
場の空気が一転して緊張に包まれた。
『変わらんな、その様子じゃ正解だったと見える』
『なんじゃと?』
『お前あの子に常識教えてないだろう?』
『ほっ?』
さっきまでの緊張感が一気に霧散した。
『聞いたぞ‼︎ 14歳の子供が無詠唱で熊を仕留めるだと!ありえるか!そんなこと‼︎』
『出来るじゃろ‼︎』
『お前を基準にするな‼︎国が滅びるわ‼︎』
『教えたことはすぐに吸収しおるんじゃ!しょうがないじゃろ‼︎』
『限度があるだろうが‼︎』
さっきまでの雰囲気とは打って変わって今は子供の喧嘩のような状況に先程の執事が割って入った。
『御二方共、落ち着いて下さい』
『『すまん』』
2人同時に謝って、改めて仕切りなおした。
『そう言うわけで、世の中と同世代がどんなものかを学んでもらおうと思ったわけだ』
『まぁ、そういうことなら異論は無い』
そう言うとシルバは踵を返して、ドアに手をかけた。
『邪魔したの』
そう言い残して出て行った。
『変わりませんな〜』
『全くだ』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
約一月後。
『セロさん、学校はどうするか決まりましたか?』
『行ってみようと思います。ここから通うか街に行くかで迷ってますが…』
『セロさん、シルバ殿は家持ってますよ?』
『え?』
街に家を持ってるのに森の中での自給自足……振り返ってじいちゃんを見るが理由は教えてくれなかった。
特に準備も必要無いということだったので、入学試験の為、王都ルイセンにじいちゃんと一緒に引っ越すことになった。