1話 日常
ボクの名前はセロ、年齢はたぶん14歳。
昔の記憶は無い。
セロというのも当時ボクを拾ってくれたじいちゃんに教えてもらった名前だ。
身につけていたもので身元が分かりそうなものは、首から下げていたロケットだけだったみたい。
ロケットの中には女性の写真が入っており、裏側にセロという文字が刻まれていた。
名前はそこからで、写真の人は母親ではないかとじいちゃんは言っていた。
気にならないわけじゃないけど、記憶が無いから母親と言われてもいまいち実感が湧かない。
それにじいちゃんがとても可愛がってくれているので、今の状況に不満は無い。
『じいちゃん食料取りに行ってくるね〜』
『気をつけてな』
うすいクリーム色の髪、黄色の目に口髭を生やしたじいちゃんが部屋から見送りに来てくれた。
家を出て魔力を練る。
(身体強化)
全身に行き渡ったのを確認し、森を駆けた。
『ほほ、上手くなったもんじゃ』
それを見て満足そうに微笑んだ。
家から数キロ離れた森の中。
セロは身を潜めて辺りを探っていた。
(コック鳥発見!距離30、標的ロック、発射!)
標的に向かって2本の指を突き出し狙いを定める。
指先から水の玉が銃弾の様な速さで発射され、二対の羽根を貫通した。
『命中!』
標的はバランスを崩し墜落していった。
食料の確保は毎回こんな感じでやっている。
『じいちゃんただいま〜』
食料を持って家に帰るとお客さんがいた。
『セロさんお邪魔してますよ』
『よお、セロ』
円形帽子に黒髪黒目、ぽっちゃりした体型のおじさんでいかにも商人といった感じ。
商人のトルコさんだ。
それともう1人。
栗色の髪に青色の目、スラっとした体型でシンプルなシャツとズボンの上からローブを羽織っているチャラい感じのイケメンお兄さん。
護衛のクロスさんだ。
『トルコさん、クロスさん、こんにちは。ちょうど良かった、ウチでご飯食べて行きませんか?ちょっと取り過ぎちゃって』
『『??』』
疑問符を浮かべた2人を外に連れて今日の収穫を見せた。
『『っ⁉︎』』
そこにいたのは大人の3倍以上の大きさの熊だった。
『でかっ⁉︎』
『あ、あのシルバ殿これは⁉︎』
『熊じゃな、ちと食べきれんのう余った分は燻製かのう』
『いやいやいや!そこじゃないですよ⁉︎』
シルバはじいちゃんの名前だ。
『おい、セロ!これどうしたんだ⁉︎』
『最初はこっちのコック鳥だけだったけど、撃ち落とした先に偶然この熊がいて、一つで二度美味しい?みたいな?』
『この熊外傷がない、頭部に被弾の後が一つあるだけ…これ何したんだ?』
じいちゃんとトルコさんのやり取りには参加せずに熊を見ていたクロスさんが尋ねてきた。
『えっと、こんな感じ?』
言いながら近くの大木に向かって、指を突き出して魔力を練って水の玉を発射した。
『っ⁉︎ 無詠唱⁉︎、しかも貫通してやがる!』
『魔法の適正が高い上に教えたことは全部吸収しおってな』
『とはいえ、コレは…』
トルコさんは何か考え込むように呟いていた。
後からクロスさんに聞いたけど、一般には魔法の行使は詠唱が基本で、無詠唱は上位の魔導士ぐらいしか出来ないみたい。
じいちゃんから教わっていた時は 無詠唱は基本じゃ と言っていたような気がするけど?
それを聞いたクロスさんが呆れた顔をしていた。
その日は夕食を食べて翌日トルコさん達は街へ帰って行ったが、3日後にまた来ていた。