巻貝の潮騒
明るい日差しの中、鬼は何処にいるのかな。
庭では、鴉がぎゃあぎゃあ鳴いている。
水差しの水に太陽を載せて、此れが、神様、と言ってみる遊び。
小指の紐を手繰り寄せると、海まで続いているという。
潮騒は何処までも。
庭にたどり着いた浦島太郎と玉手箱を開けると、小さな鳥の死骸が入っていた。
学校の裏で夜、肝試しをしたら、校長先生が人体模型と、社交ダンスをしていたんだ。
ほんとだよ。
あの星空を捕まえて、虫籠に閉じ込めたのに、次の朝には、もう死んでいた。
黒ずんだ星を川に流していたら、日本人形が何体も上流から流れてきた。
銀河鉄道が屋上に来るから、今宵は眠れない。
空は青くて、勉強なんてやってられない。
つま先立ちで、火葬場の火の粉を眺めているいけない行い。
グレちゃったのね。
カキ氷屋さんの美人おかみが嗤いながら、抹茶練乳のかかった氷を差し出してきた。
お面を被って、全員授業していたら、大鬼がやってきて拍手をしてきた。
今日は授業参観じゃないのに。
この遊び知ってる?
こっくりさんっていうんだよ?
やけに細面の少年が、嗤いながら、文字の描いた紙を寄越してきた。
教室を出たら、何故か宵祭りのお祭りの神社へ続いていた。
内緒だよ。蜉蝣を虫籠に一杯集めたら、山神神社へ行こう。
お菓子の景品と、取り換えてくれる。
嗚呼、午前二時に、狐の訪問。
マントを羽織った少年が、バットを振り回し、黄金バットの真似をしている。
すごろくは、上がらないまま、終わりました。
過去は、巻貝から聞こえてくる潮騒のように、耳から離れません。
テスト勉強を放り出して、校庭で独りぼっちで遊具で遊ぶ。
あの時に、トイレの花子さんは話しかけてくれなかった。
風に吹かれて。腹話術を操る青年たちが、異形を演じて、座敷牢の中、ぶつぶつと呟く。
怨念を演じる。
十把一絡げ。
人も、妖異も、纏めて箒でさっささっさ。
火の用心、お風呂上り。
牛乳を飲んで、通りの風を浴びて、私はマントを羽織り、闇となる。
低い嗤い声が通りに響くころ、紙芝居屋も闇となる。
端午の節句。大きな兜と武者鎧の綺麗な人形を玄関に飾る甥っ子の家。
縁とは異なもの、味なもの。
幽かにしゃんという音が、また近づいてきたので、連れて行かないで、と念じておいた。
稀地に建つ私の家。
神様の悪戯で、たまに妙な事が。
狐の嫁入りが、年に何度も起こる。
寝て居ると、狐が跨ぐ。
不思議。
彼岸花の季節は終わったと云うのに、部屋の中が彼岸花で埋め尽くされている。
赤に呪われた世代の僕らは、通りゃんせを唄う彼岸花を突き放すことが出来ない。
彼岸花は、耳元でくすくすと嗤う。
窓から入り込んだ黒揚羽が、蜜を啜ってひらひら舞っている。
此処は、曼殊沙華極楽湯。
秘密基地に、ようこそ。
夕べ、夢に見ましてね。
あそこの虫籠窓から、真っ赤な炎に包まれた大鬼が、娘を攫って行くのを。
祭りの夜だからか、そんな夢を見る。
娘さんは、大丈夫?ええ?孕んでいる?
山の鬼に、やられたのか。
戯言。
娘の二枚舌は、貝殻のように美しく。
誑かして、狐の様に、嗤う。
母を亡くしてから、狂った娘。
確かに、今、銀色に光る蝉が、布団の中に入ってきたんです。
嗚呼、其処はいけない、入道雲が隠れているから。
明日こっそり、空に放ってやるのだ。
入道雲は恥ずかしがり屋で、秋になっても、布団の中に隠れ住んでいる。
やあ、彼岸花さんも、お布団が恋しい季節になって、やって参りましたな。
曲がりくねった路を歩いていくと、見知らぬ道へ出る。
其処から先は、海だったりする。
待てば海路の日和あり。
他人任せすぎですか、神様。
いや、神も仏もない世の中で独り、唇を噛んでどこか遠くへ行きたくなる、風に吹かれながら。
今、女の嗤い声が何処からともなく。
笛の音、鈴の音も。波止場は遠い。
静かに、灰が積もっていく部屋。
裏庭の野焼きで、黒い煤が呼んでいた本を汚す午後五時の黄昏時。
そーっと髑髏が窓から覗いている。
先ほどから、かりかりと足の脛を指先で引っ掻く小鬼。
ひそひそと、お家騒動の顛末を囁いて、血みどろだねと微笑む日本人形が棚の上から五月蠅い。
不死の妙法。