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8話・『少女』と『願い』(上)

白い空間で、少女か泣いている


それ以外は何もない


俺の手も体も、なにもかも


ただ少女が泣き続けているのを、聞き続けるしかない







白い空間で少女が泣いている


可哀想とも思うが、こうまで続くと煩わしさが勝る


何とかして泣き止ませられないだろうか


慰めるのがベストか








白い空間で少女が泣いている


お母さんに会いたいようだ


ごめんよ俺は君の母親を知らない


だから君の母親の話を聞かせてくれないか







白い空間で少女が泣いている


俺が怖いんだと


ふざけるなよ、こんなチャーミングなイケメン捕まえて


よく話してお互いを知ろうぜ








白い空間で少女はもう泣いていない


はにかんだ笑顔が可愛らしい


きっとこの子は将来美人になる


その時俺はジジイかな









白い空間で少女が泣いている


外で痛い思いをしたらしい


こんなかわいい子を痛め付けるなんて何て奴だ


え、やつらなの?…なんてやつらだ!











白い空間で少女が泣いている


いつまで経ってもお母さんに会えないと


外にいる人に頼んでも会わせてくれないと


そうか、そりゃ寂しいなぁ…















なんとかしてやりたいさ


『ほんとに?』


ああ。もっと頼って良いんだぜ?











少女が泣いている。

狂ったように、といっても良い。そりゃそうだ、まだ10になったばかりの少女には、この苦しみは辛すぎる。


背骨に焼いた針をえぐり込む様な。

全身の骨の髄をドリルで削ってる様な。

内蔵をバーナーで炙られている様な。

眼球が十倍に膨らんでいく様な。


全身が痛い、いたい、イタイ。

熱い、あつい、アツイ。


思考が濁り、より痛みが尖鋭化する。

魂で理解する。これは肉体の痛みではないと。




少女が泣いている。

出来る限り俺が受けてあげたとしても。

肉体も、魂も。全ては少女自身のものだから。


それでも彼女は微かな希望を胸に、今日も耐え抜いていく。

彼女が望むのは何てことの無い風景。

母親と笑って囲んだ食卓。

暖かい母のスープ。


彼女は今日も耐える。

理由の分からない痛みをその身に受けながら。







少女が泣いている


理由の分からない痛みを与えてくる者達のなかで。

心の中で哭いている者が居るから。


自分を想ってくれる人が居るのだと、純粋な心で泣いていた。

彼女の涙の理由を、俺は伝えることが出来なかった。







少女は安らかに眠っている。


俺が出来る範囲でやろうとした結果だ。

この子に害はない。


ただ少し、この子と共に居れる時間が短くなるだけだ。

それを伝える気はないが。


俺はどうやら死んでいるらしい。


だがそれはこの子には関係の無いことだ。


俺はこの子の妖精さん。

お母さんと会うまでの繋ぎで良いんだ。













「No.7、貴女は…どうして」


「どうしてとはお言葉じゃねぇか、フィールドマン女史ぃ?この子が強い、それだけさ」


「っ、男性人格の方ね、あの子は無事なの?」


銀髪の。いかにもインテリ然とした女が顔を歪める。

まるで心配したような面をするな。てめぇもこの子を甚振る連中の一人じゃねぇか。


「無事、無事ね。消耗して気を失っているのを無事と言うなら、無事さ!」


「っ!し、仕方ないじゃない!貴女達に埋め込まれた二型魔力炉は、安定化させるための調整が必要なのよ!!」


「だからって拷問じみた真似をするのかテメェ!いっぺん体験してみろクソアマ!!」


「む、無茶言わないで…普通の人間に魔力炉なんて、成功するわけ無いじゃない、まして二型なんて…」


「テメェらそんなんをこの子に埋め込んだのか!?」


「知らなかったのよ!!国がこんなことしてるなんて!!」


「糞が…どうにかして取れねぇのか…」


「魔力炉は外科的な手術では無理なの…しかも何で成功したか、分かってないのよ…」


女は哭きながらこんな筈じゃなかったと、まるで許しを乞うように。

良心を持ったまま地獄に加担する事の末路を、目の前で体現していた。


「でも、設定条件はわかっているのだから…」


「それ以上言うんじゃねぇ!!」


俺の声量、先程までの非難する声色から変わった悲鳴のような制止に。

彼女は可能性に気づく。


「うそ…あの子は…」


「知る分けねぇだろうが……っ」


それは、破綻の足音。








幾度目かの調整か。


悔しいことに、確かに少しずつ。少しずつ、安定していっている。


安定すれば自ずと、少女の意識が前に出る時間も長くなる。

俺の懸念が、いずれ。













「素晴らしい…他の実験体はどれも100日を持たなかったと言うのに…」


「しかし、成功条件が不明確です。精神にも異常が見られますが…」


「そこは実験体の個体差、振れ値のようなものでしょう」


「その振れ値が成功条件に当てはまるのではないかと言っているのだよ」


「あの、じ、実験体の前で精神に影響を与えるような会話は…」


「君は黙っておきたまえ。それで、他に該当しそうな条件は…あぁ、そうだ」


「なんでしょう」


「No.7の二型魔力炉はたしか…」


「はい、彼女の親族、と言うより()()をベースとしています」


「やはり相性か…」


「いや、No.2からNo.5まで、同じように兄弟や親をーーー」

















『え』

















白い空間で少女が泣いている


もはや俺の声は、届かない


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