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10話・新しい時代(終)

こちらでこの小説は完結とさせていただきます。


パチリと目が覚める。

久しぶりに、懐かしい夢を見た気がする。


そうか、はじめてこの世界の空を見た日に、大佐に出会ったんだったか…


恩はある。

しかし、それ以上に利益を返したつもりだ。

こんなセンチな気分になるのも、つい最近『結社』の連中と話したからかね。






『あんたは…魔術師を滅ぼすつもりなのか…?』




息も絶え絶えで、それでも話す余裕がある時点であいつもかなり優秀な魔術師だわ。

抑えたとはいえ、地脈の、いや、龍脈の奔流を身に受けたと言うのに、それに耐えきるとはな。



あの時の会話を思い出す。












見極めたい。


私の感情を言葉にするなら、それだった。


かつて、魔術がもたらす地獄を見た。

かつて、魔術がもたらす奇跡を見た。

魔術師の狂気を知り、そして魔術師の良心を知った。


そう。あの白き世界で泣いていたあの子もまた、魔術師であったのだから。



「あんたは…魔術師を滅ぼすつもりなのか…?」


掠れる声で、何とか絞り出した言葉。

確認せずには居られなかったんだろう。私の力を、純粋な破壊の記憶を、知る者として。





「いや別に」


「…は?」


「見極めるだけさ。滅ぼすなんて面倒臭いこと、しねぇよ」


最終的に、そう言う結末も有るかもしれないがよ。

それはお前達次第さ。


目の前の男のポカンって面が妙に笑いを誘った。

引き笑いみたいな感じで、ついつい声に出る。


「じゃあ…何でここに来たんっすか」


お、もう回復してきたのか。早いな。


「ここに来たのは単にあの男の幕を引いたのは私だったからな。だからまぁ、私くらいは、命を投げ出す覚悟の()()を、知っておいてやりたいと、思っただけだ」


「…そんな事のために?」


「私はな、」


言葉を選ぶ。

私は別にこいつらを導きたい訳ではない。

正しい道を進ませたい訳でもない。

自分を信じる道を、進んで欲しいのだ。


「お前ら程、『人』には期待していない」


「……」


「だが、お前らのように、理想を抱くその姿勢は否定しない。お前達の中の希望の原点はきっと、正しいものなのだと思う」


ドルクの眼を見て続ける。

この組織の未来にお前がどう関わり続けるのかは知らん。だが、何故憎しみを抱いたのか、何故是正したいと願ったのか、何故、体制に抗うと言う行動に突き動かされたのか。


その原点(オリジン)を忘れるな。


「だから魔術師達よ、見失うなよ、己の原点を。私は見ているぞ、お前達が作る未来をな。もし間違うようなら…」




私はニヤリと笑いながら、言い放った。




「私が幕を引いてやるさ。()()()、な」




ドルクはうつむき、少し考える様に目元を揉むと、顔を上げて私の眼を真っ直ぐと射貫いた。


良い眼をしている。


「それまでは…手出ししない、ってことですか?」


おお、本意は伝わってるみたいだな。

私自身、今の今まで魔力に悪意や害意は乗せてねぇからな。落ち着けば、気付くさな。


「おうよ。お前らのゴタゴタなんざ元々興味無かったんだがよ、人の覚悟ってやつに、少し当てられたのかもしれん」


「だったら、あのアホみたいな魔力波動ぶちかます必要有りました?」


「アホて…そりゃお前のお仲間に言え。私は基本的には穏やかだが、攻撃してきた奴を生かして帰してやる程お人好しじゃねぇんだゾ?」


「ぐぅ、その件は…すいません」


その後は2、3言葉を交わすと、私の目的は完了する。

最後に、あの男のバックボーンを調査して貰う依頼を出し、私は店を後にするのだった。



私の宣言を聞いて、尚も破壊のみを望むというならそれはそれで仕方がない事だ。





お前達魔術師の可能性を、最後まで見届けてやるさ。







せめてあの子が望んだ景色が見られれば良いんだがね…










































本日はオフの日。

と言っても、警備監査の仕事がある日は週に一から二度程度だからな。

実際は週休6日のホワイト企業だ。なんて最高。反自由主義バンザイ。


しかし、娯楽がないから暇で暇で仕方ないんだけどね…

ビリヤードみたいな室内娯楽もあるにはあるけど、場末のバーみたいなとこにあるんじゃなくて、高級サロンみたいなとこでワイン片手にドレスとか、タキシード来たお猿さんが遊ぶとこしか無いの…

何でお猿さんかって?


サロンってね、どこでも盛ってるの…


なーんか聞いたことあったんだけど、まさかこの世界でも一緒とは思わないじゃない。

しかも誰彼構わず誘うから、まぁ、たまに男同士とか、女同士も居るわけで…


私も行けばモテモテよ。いや受けないけどね。何しに来たのみたいな視線を貰うけど、ビリヤードしに来たんだよ!とも言えねぇし…あそこは駄目や…


ってなわけで、新市街と言われる、ここ20年で出来始めた新興街で酒を引っ掻けることに決めた。


他にも理由はあるがね。




軍の送迎サービスを使い、四番街と言われる歓楽街の端っこに降り立った。


今の私の格好は結構ラフな感じで決めてるんだけど、やっぱり気付いた人から離れていくね。

元軍人や現軍人は、一般の人と雰囲気が違うようですぐばれてしまう。

ばれないようにすることも出来なくないんだけど、多分それやるとまた別の面倒臭さが出てくる筈だ。

なんせこの体、めっさ美人の上スタイル抜群なんだもの。めっちゃじゃなくてめっさ、な。ここ重要。

古傷も今じゃ大体目立たないくらいに薄くなっちゃって、そら綺麗なもんよ…


避ける人並みを傍目に、目的の場所へ。

そこは開いてるのか閉まってるのか、一目には分からないお店だった。

おそらく…バー、かな?


開いてるのは分かっているので中へと入る。

客は疎らに居るようだ、と言う感想が出るだろうが、こいつら客じゃねぇしな。


カウンターに座り、()()()()()()()マスターにオススメを注文した。


僅かに震える手で出されたショットグラスの中身は、前回と同じもの。


そして背後から…初動が分かりにくい真後ろではなく、斜め後ろに回り込んでゆっくりと近付く気配が。


「んでそんな警戒してんだよ」


本日はちびちびと酒に口をつけながら、背後の人間に問いかけた。


「癖なんですよ」


音もなく隣へ座った男が、マスターに一杯注文をした。

マスターも私の正面ではなく、男の近く、無意識であろうが、男を盾に出来るような位置まで移動していた。

なんかビビられてる?


「あんたあれだけ散々魔力波動で脅したんだから、当たり前じゃないですか」


「おまエスパーかよ」


「だからそれどこの言語なんです?」


舌触りの良い蒸留酒を口の中で転がしながら、隣の男に気を配る。

先日会ったよりは…やせたか?


「今日はどうしたんだよ」


「来たのは隊長ですけどね」


「新市街にチョロチョロ足運んどいてか?普通に呼んでるんだと思ったぞ」


「やっぱりリアルタイムで俺の場所把握出来てたんすね…」


あれ?

こいつ私の能力知らなかったの?

割りと有名…と言うかみんな知ってると思ってたけど。


「隊長昔から自分の事は語らなかったでしょ」


「そうだっけ?」


隣で頷く気配。

そうか…ようみんな能力もあやふやな私に付いて来てたな。


「貴女の近くが一番安全でしたからね。結果論ですよ」


「…そうか」


そう言えば、そうだな。私に付いて来れなかった者から死んでいた気がする。

とは言え、辺り一帯の雪景色をガラス化させる炎使いとか、山脈でサンドイッチしようとしてくる土属性精霊使いとか。

結構ぶっ飛んでるやつ多かったと思うんだが…


ちなみに今言ったやつ全部敵だな。



「ところで本題なんすけど、良いですか?」


「ん?おう、なんだ」



表情を改め、ドルクは真っ直ぐ私の目をみて、言った。








「結局、何がしたかったんすか?」


「えっ」







ドルクは真面目な顔である。

ただ、少し怒ってる?


「はぁ…アンタ昔から言葉全然足りない人だったけどさ…今回は極めつけだぜ…」


あれ、むしろ呆れてる…?



「おー、お?」


「おじゃねぇよ…いきなりウチの拠点訪ねて来たと思ったら突然ブチキレるんすよ?」


「あー、あぁ、そう言う」


なるほど。

私が悪いか?


いや、自分の中で完結して説明してなかった、かも?


「あー、あれは宣言みたいなものでな?」


「後々考えたら、要は両陣営に所属しないってだけ言いに来たんすよね?」


「まぁ、そんな感じ」



こいつらがどんな組織を作って、どんな世の中を造るのか。

見たくなったんだよ。

意外と、この世界に対して興味が湧くんだなぁ、と我が事ながら感心したんだ。


そしたらなんか食って掛かって来そうだったから、威嚇ついでに宣言したんだが…

確かに改めて考えたら痛いな。

ただの一人相撲じゃねぇか。


「流れだけ見たら意味分かんないっすよ?」


「いやぁ、面目ねぇ」


騒がして悪いねー。


格好良く決めれたんで私は満足したけど。




「それとこれだけは言わせてください。…あの後すっげぇ大変だったんすよ!?」


「お?」


「隊長が帰ったあと、あの場に居た者は二極化しました。あんたを絶対殺す派と、二度と姿を見たくないって派に」


そりゃ…

イマココにこいつが居るってことは、後者が勝ったのか?


「勿論、『結社』には元魔術師団の人間もいるんで、隊長敵に回すのは幹部一同大反対だったんですけど…」


「ん?けど?」


「いえ、ただ隊長の暗殺推進派を説得したのは、ユーゼフ同志だったので…」


「ユーゼフ…?」


誰だ、聞いたことあるような気がするが…

マスターが眼を見開いて『伝えて良いのか』みたいなツラしてるが、大丈夫なのか?


「これはユーゼフ同志からの言伝てもありましたから。本人の希望です」


「お、おう…」


本当に誰だっけ?

魔術師団にそんな名前のやつは居なかったと思うし、別の部隊でも心当たりがない。

ましてや敵だったら、相対した敵で()()()()()()()()()からな…。


「『雪狼』って覚えてますか?」


「雪狼…雪狼、なんかすっげえイライラしてきたぞ」


聞き覚えがあるので相対した敵か…

と、頭の億から広がる様に思い出す。

あぁ、5年くらい前までたまにやりあってた部隊の指揮官がそんな名前、渾名か、してたな。


ったく、このボディ、ハイスペックなんだが、必要無さそうな知識をすぐ忘れちまうレスポンスの高さは考えモンだぜ…


「あれだな。プチプチうっぜぇゲリラ戦部隊」


「ユーゼフ老結構高評価っすか?」


基本的に『ウザイ』なんて評価はしないからな。

生存性が高かったり、練度が高い部隊であったり、指揮官が有能な部隊は味方としては良いんだが、敵だと非常に面倒臭い。


雪狼は三つとも当てはまった。


「そりゃな…あんまりにもウザすぎて山峰ごと消し飛ばして、進軍ルート組み直す羽目になったからな…ん?だがあん時確かに消滅させたはずだぞ…?」


私の探査は普通の魔術じゃねぇ、地脈の流れも使うから、普通じゃ探索逃れなんて出来無い筈だが…


いや。出来るやつらが居るな…



「そこはユーゼフ同志のスキルですから」


「精霊使いか」


ちょっと渋い顔になったドルクを見るに、そこまで秘密って訳でも無さそうだな。

まぁ、普通に隠したいんなら、私に知らせるのがそもそも悪手だしな。


「そんなユーゼフ同志から一言ですが。『次は酒で勝負をしたい』だそうです」


「なる、程な。酒か」


北方の、クラスカの話にあったな。


隣村に幼馴染みがいる男が、村同志が争うことになった為に友人と矛を交える話だ。

なんやかんやあって、幼馴染み同志が村長になってから、じゃあ酒で勝負を決めよう、みたいな場で自分達の息子と娘がくっついちまう、って終わりだったか。


歌もあったから覚えてるぜ。


「『悪くない』そう伝えてくれ」


「了解しました」


表情を崩す様を見ていると、『結社』とやらもただの反政府組織と言うよりは、互助会に近いモノなのかもな…


「あぁ、そうだ、隊長には伝えておきます」


「ん?」


「我々『結社』は、オルレアンからしばらく撤退します」


「そうか」


安定化していないこの国から出るってことは私のせいか?

不安定な情勢の方が潜みやすいし、非正規品を手に入れやすいと思うんだが…


「この国より都合の良い国があった、とだけ。これ以上は流石に」


「いや構わん。干渉しないと言ったしな。頑張れよ」


私が軽くとはいえ肯定的な言葉を出したのが意外だったか、ドルクの表情に僅かだが驚きの色みを与えていた。


「やっぱり、デモ襲撃の件がありましたから」


「あれはあれだ。それに、やると決めたのは本人だろう?お前らを責めようとは思わんさ」


「…」


黙ってこちらに視線を向けるドルク。

なにか言いたそう、って言うか悩んでる?

いや実際、こいつらが(そそのか)したのだとしても、行動したのはあの男だ。

罪になるのかもしれんが、私には関係の無いことだしな。


顎をしゃくって話を促す私に、軽く頷いて彼は口を開いた。


「こちらで分かった話です。彼、たしかダズリーと言う兵士でしたが、確かに前線組だったそうです」


「こちらの報告でもそれは聞いた。それ以上詳しい話はなかったかな」


「いえ、こちらも経歴としてはそんなに。ただ、半年前に帰還した後、誰かを探していた、と言う話は良く出てきました。どうやら戦死した友人の忘れ形見を探していたそうです」


「あの銃、じゃねぇな?」


「はい。亡き戦友の妻と、幼い息子だそうで」


お。

話が見えてきたぞ…

なるほど。そうか。そりゃぶちギレるわな…


「…生きてるのか?」


「いえ。男に銃と真実を伝えたのは、当時世話をしたことがあったウチの情報員の一人ですね。金銭的な理由で旧市街に流れ着いた後、体を壊して二人とも、と言う流れのようで」


「遺族年金は…」


「亡くなった旦那の口座すら取られた様ですね。旧市街で食うために体を売って、病気になって…って。息子の方は早くから旧市街の空気が合わなかったみたいです」


ガキの病気を治すために無理をしたのか、無理をしたからガキが弱ったのか。

もう、今となっちゃ過去の話だな。


「まぁ…良くありそうな話だ」


「そう、ですね」


その情報員がどの様な伝え方をしたのかは知らない。煽ったのかもしれないし、諭して駄目だったのかもしれない。

だが、結局乱射事件を起こしたってことは、止めはしたのかもな。

あの男のレベルなら、構成員として欲しい筈だしな…


この事で国が悪い、と言うのは簡単だ。

事実国が悪いしな。


だが、それを私達が言う資格はない。

『手間だから』そんな理由で民間人を避難させずに巻き込んだこともある。

隣の男も、それが分かるからなんも言わんのだろう。


ただひたすらに自分が正しいと思ってるやつらが、一番醜いのだ。

自分の醜さを理解して尚進める人間は強い。


だからこいつらは強い眼をしているんだろうな。


「もう行くわ。話、ありがとよ」


「いえ、また、機会があれば」


「おう」


長居するもんでもないしな。

河岸を変えて、甘い酒でも飲んでみるか。


私が店から出ようとした時、ドルクは最後に、と言う形で言葉を続けた。





「隊長、『レイラード教』ってやつには注意した方が良いですよ」





あいよ。






ったく、不吉なアドバイスだぜ。


この話でこちらは終了致します。

プロットを組まず思い付きで書き始めたため、かなり設定が歪になってしまいました。読みにくかったと思います。


現在プロットを組み直し、読みやすさとキャッチーをテーマに再構築していきたいと思いますので、もし見かけましたらブックマークなどしていただけると幸いです。


それではまたの機会に。

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