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フォレストリアは旅に出た


 王女は父と殺し合っていた。


 大きな声は廊下の家来を壁際に引きつける。


『知ってます! そんなこと!』


『ではいいじゃないかね? その国の良さはもう分かった、違うかい?』


「違う」


 父は声色一つも変えずに声を重ねる。


「フォレストリア、上品に言いなさい」


「……ただ行ってみたいだけなのに」


「ここの方が数倍も素晴らしい。聞く価値こそあれど、行く価値はないのだ」



『それを決めるのはお父様じゃなくて、私』


 王女はフォレストリアとして父に言っている。



「とても疲れているのだろう」


 そう言って父はフォレストリアに袋を渡す。


 純白を白銀で塞いだ袋はチャリンと細い両手の上で鳴る。


『これで、ベルフルートを楽しんできなさい』



 我が国で我慢しろ。


 フォレストリアへの配慮は完膚なきまでの否定であった。



「ありがとう、ございますわ」


 王女はニッと笑って金袋を握りしめる。


「夜までには帰ってくるのだぞ」


 フォレストリアは何も言わずに城を出た。



 城下町に降りて深く息を吸う。


『腐った空気ね』



 フォレストリアは早歩きで町を練る、上品なドレスを揺らして歩く。


『ベル・フォレストリアさま!』


 どこからか、そんな声が聞こえるほど目立つ。


 バレずに国から出るには派手を捨てる必要がある。



 フォレストリアは周りを見る。視界に入る理髪や服屋。


 首を横に振って横を切っていく。


 せっかくのチャンスを簡単なことで失うつもりはない。



 タッと踏み込み、加速にドレスが風を吸う。



 今つまみ上げるには重すぎる衣類は膝を食う。



 一直線に町を駆け抜けると置かれたままの馬車に気づいた。


 その勢いのまま窓枠から後部席に入り込んで背中を預ける。



『はあ、はあ、はあ』


 開いた口からこもった空気を吸って胸が上下に揺れる。



 付き人が居ないことを逆手に取ったフォレストリアの判断。


 最速の逃走こそ最善だと。


「はあ、は……あっ」


 馬車の持ち主がちょうど戻ってきた。高そうな服は商人の証。


『全く、これ以上鉄を安くするなんてできてねえのに』



 フォレストリアは気づかれていないうちに先手を取って声をかける。


「ねえ、あなた商人でしょ?」



 声に振り返った商人が跳ねる。


「うわっ! 誰だお前!」


「ベル・フォレストリア、知ってる?」


「そ、そうでしたか! って思わんよ、お偉い王女がこんな所でなにしてんだ?」


「金あげるから馬車走らせてくれない?」


 それはできない相談だ。商人は軽く断る。


「どうして? 時間ないんだけど」


「王女を攫うようなもの、それに対して金が釣り合うわけねーだろ」


「え、いやあ、そんなーねえ? 王女デート良くない? あはは」


「兵士を呼んで礼でも貰うか」


 それだけはして欲しくないフォレストリアは待ったと声をかける。


「あなたは商人で、鉄の値段に困ってるんじゃない?」


「まあな」


「せっかくの鉄、高く売りたいでしょ?」


 パチンと王女の手が鳴る。


「私が直接、高くするように仕向けてあげる。馬車を走らせてくれたらね」


「プランを聞いてから決定したい」


 隣国を舞台に自国の鉄を高く買わせるのは至難の業。


 可能性はどこにもない。どこかで見つける必要がある。


「この袋の中には純金があるかもしれない」


 父から貰った金袋を鳴らすフォレストリア。


「それがどうした?」



『この事実に気づいたのは、あなただけじゃない』


 さらに続けて言う。


『時はかねなり、でしょう?』



 ゴーンとベルフルートの鐘が鳴り響く。



 ニヒルに笑うフォレストリアの歯は偏った暗所で輝く。



『乗ってやるよ、泥船に』



 商人は馬を繋いだ紐とムチを手に取る。



 ガタゴト進む事実をコクリと飲み込む。




 ベル・フォレストリアは旅に出た。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 超行動的な王女、サクサクと旅立ちましたね。 彼女の性格、好きです!
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