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7 地味姫の企み

日間総合一位、日間異世界恋愛一位になることができました。

これも読者様のおかげです。

ありがとうございます。

 ニーネが困惑顔のまま温室を出て二十分後。

 温室の扉が開き、ニーネと黒髪の女性が入ってきた。妖精たちと一緒に花を『祝福』していた私はそれに気づくと、顔を綻ばせる。


「トルーネ。よく来てくれたわね」

「お呼びと伺って参りましたが、どうかしたのですか?」


 黒髪の女性――トルーネはニーネに瓜二つの容貌をしている。この二人は双子で、あまりにも似すぎていて、ニーネが眼鏡をかけていなければ、誰にも見分けがつかない。


 (はしばみ)色の瞳をキラキラと輝かせながら興味深げに薔薇を見つめるトルーネの仕草は、さすが研究者(ニーネ)の姉妹なだけあって、こんな所まで似ている。


「さっき咲いたばかりの〝ティータニア・ローズ〟よ。やっと完成したの」

「まぁ、おめでとうございます!」

「ありがとう。それであなたの用件なのだけど、(かいこ)の様子はどうかしら?」


 この言葉に、トルーネは豹変した。目をくわっと見開き、頬を紅潮させて突然語り出した彼女に、言葉選びを間違えたと後悔するも、時すでに遅し。

 しまった。迂闊すぎた。彼女の虫大好き魂に火をつけてしまった。


「それなんですけど、聞いてくださいシャルル様! 今年は特に気候がよくて、ウェアーズ地方から極上の桑の葉が沢山仕入れられたんですよ! お陰様で()()()()()()()もすくすく成長しまして、今年はより上質なシルクに仕上がってますよ!!」


 トルーネの饒舌(じょうぜつ)ぶりに気圧され、何度も頷く。調子づいたトルーネはその後もたっぷりと蚕の成長ぶりについて語った。


 彼女は昆虫学者。虫については誰よりも詳しく、『自分の子』と呼ぶまでに魅了されているらしい。それゆえに一度語り出すと止まらないのだ。

 小一時間ほど過ぎ、ひとしきり語り終えたらしいトルーネは満足した様子で一息着いた。


「――それで、わざわざそれを聞くということはもしかして蚕に用事ですか? シャルル様も虫の魅力に目覚めました?」

「……いいえ、生憎そうではないの。その上質なシルクが欲しいのよ」

「シルクですか? もちろん差し上げますけど、何に使うんです?」


 疑問符を頭に浮かべるトルーネに、ようやく本題を切り出す。


「ドレスを仕立てたいのよね。上質なシルクを使った白いドレスを。私が王国を出る前に」

「ドレスですか。ニーネからシャルル様が国を出るというのは聞きましたけど確か一週間後でしたよね……?」


 私の言葉に戸惑うトルーネ。ニーネもますます訳が分からないと顔を顰めた。


 ドレス一着を仕立てるには通常何ヶ月もかかる。

 生地とデザインを選ぶところから始まり採寸、仮縫い、そして実際に試着して本縫い。様々な工程を経て、ようやく一着完成するという実に手間のかかる代物だ。

 一週間でドレスを作るなど普通は不可能。


 ――()()()()、ね。


 時間は限られている。しかし私の計画する悪巧みにドレスは必要不可欠。ならばどうするか。

 こうするのである。


 私は春色の眼で薔薇に群がる妖精たちを見渡すと、盛大に声を張り上げた。


「みんな。楽しい悪戯の時間よ! 一週間後に大きな悪戯(イベント)があるの。とびきりのでっかいイベントよ。協力してくれたらあなた達も参加できるわ。手伝ってくれるかしら?」


 途端に溢れんばかりの光が私に集まる。

 あまりにも群がりすぎて、私を中心に薄らと光が見えるくらいに可視化してしまっている。


「うわ、これ全部妖精ですか? すっご……」

「さすがシャルル様。規格外」


 ブツブツと呟く双子を横目に、私はニヤリとほくそ笑む。


 協力者は確保した。

 見てなさい。一週間後。

 アルバート、覚悟なさい。絶対見返してやるんだから。


 光の中心で、第二王女(わたし)はひたすら黒い笑みを浮かべていた。



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