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11 リリック・ベルー

連続更新しています。

読み飛ばしにご注意ください。


「えっと、あの、どういうことでしょうか……?」


 全く状況が掴めない。

 困惑して問いかけると、マッチョ男は「そういえば名乗ってなかったわね」と手をポンと打ってからその正体を明かしてくれた。


「ワタシはリリック・ベルーというの。このお店『リリィの服飾店』のオーナー兼デザイナーよ。ここの服は全てワタシがデザインして作っているの」


 そう言って彼――リリックさんはニコリと笑った。

 私は呆然としてお店の周囲にある洋服たちを見やる。

 ここにあるものはどれも可憐で繊細なデザインをした洋服だ。


「この服を、あなたが?」

「そうよ」


 自信たっぷりに頷くリリックさん。


 落ち着いてリリックさんをよく見てみると、ヤケに筋肉質な体型でスカートをはいている以外は特におかしな点はなかった。

 というか、化粧をした顔はどちらかと言うと中性的な顔立ちで、結い上げた髪は良く似合っている。


 身につけた服も所々にレースをあしらった可愛らしくも洗練されたデザインの白いブラウスに赤いスカーフを合わせ、下は紺のスカートという上品な出で立ち。


 長いスリットが入ったスカートから覗く足はスラリと伸びており、体型こそマッチョではあるが、不思議と女性的な服装が似合っている、中性的な美人さんだった。


「……そうだったんですね。ごめんなさい、てっきり変態かと……」

「いや、ワタシもこんな格好してるからよくびっくりされるのよ。いきなり声をかけて申し訳なかったわね。あまりにも理想的な容姿だったものだから逃がすまいと必死だったのよ」

「モデル、でしたっけ」

「そう、それよ!」


 リリックさんはずびしっ! と人差し指をこちらに向ける。私は思わずビクリと震えた。


「〝シンプルだけど少女らしさを損なわない、動きやすい服〟をコンセプトに新しい服を作ったんだけど、なかなかこれが売れなくてね? でもワタシ的には絶対イケると思ってるのよ。だから誰かモデルになって宣伝してくれないかなー、と思っていたところにアンタを見つけたの! ワタシの理想ぴったりな容姿なのよ、アンタ。どうかしら、ワタシの新作のモデルになってくれないかしら?」


 そう一息にまくし立てられ、がっしりと両手を掴まれる。リリックさんの両目は爛々と燃えていて、簡単に離してくれそうな雰囲気ではない。


 モデルと言われても、私にはすべきことが他にある。グスタフの依頼のこともあるし、魔物(モンスター)についても調べなければならないのだ。

 心苦しくはあるが、ここはお断りしよう。

 そう結論を出して、私はリリックさんに向き直る。



「えっと、その、申し訳ないんですが……」

「勿論、宣伝してもらうんだから服は無料(タダ)であげるわ」

「――やります」


 前言撤回。


「本当に!?」

「ええ、リリックさんのデザインされた洋服、どれも素敵でした。是非ご協力させてください!」


 離そうとしていたリリックさんの手をガッチリと握り返し、固い握手を交わす。

 今この瞬間、私とリリックさんの間に、固い絆が生まれた。


『なんて分かりやすい手のひら返し……』


 横で呆れたとばかりに首を振る猫妖精(ケット・シー)は見えない振りをした。


 お黙りなさい。

 この世でタダより安いものはないのよ、ルツ。


 ♪♪


「どこか痛いところはない? 動きにくいところとか」


 店の裏手に通され、試着室と書かれた札がたてかけられた部屋の扉越しに、リリックさんの声が聞こえる。

 私はリリックさんが用意した服に袖を通しながら、声をかけた。


「いえ、全然ないです。それよりもこの服、凄いですね! 補正もしてないのにピッタリです」

「ああ、この服の布には収縮魔法がかけられていてね。着る人に合わせて自動的にサイズが合うようになってるのよ」

「なんですかその凄い機能」


 リリックさん曰く、この布は魔法が馴染みやすい特殊な植物を織り込んであるらしく、防御魔法などを仕込めば鎧代わりにもなるのだそうだ。

 なんという便利な布なのだろう。


「その服に込められているのは収縮、耐熱、劣化防止、だったかしら。耐熱だから外の熱気も防げるはずよ」

「それはいいことを聞きました」


 セインブルクは常夏(とこなつ)の国。

 風が心地よく陽射しが穏やかな常春(とこはる)の気候のティナダリヤで育った私には暑すぎるくらいで、少々困っていたところだ。


 リリックさんと扉越しに会話しつつ、ボタンを一番下まで止めて、襟部分のスカーフを蝶結びにくくる。

 編上げのブーツから用意されたレースのショートブーツに履き替えて、着替え完了。


「終わりました~」

「よし、入るわね」


 ガチャリと扉が開き、リリックさんが中に入ってくる。

 私はリリックさんが見やすいようにゆるりとその場で一回転した。


 私の動きに合わせて、ヒダのついたスカートがふわりと舞い、背中まで伸びるセーラーの襟が翻る。

 白と黒というシンプルな色ながら、蝶結びに結ったレースのリボンは可愛らしいし、袖が膨らんだパフスリーブの半袖は、女性ならではの可愛らしさを演出している。


 マリンスタイル、と言うらしいセインブルクの港を警護する騎士の服装から着想を得たというセーラースタイルの洋服は、軽くて動きやすい上に可愛さを備えた、完璧なものだった。


「うん、思った通り。やっぱり似合ってるわ」


 その服を着た私を見て、リリックさんは心底満足気に頷いた。

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