9 リリィの服飾店
お待たせ致しました
第二の都と言われるマクスター領は王都に荷を運ぶための中継地点となり、王都へと続く船が定期的に港から出入りしている。そのため人の出入りとともに物資の流通も発達した。
人が集まれば自ずと生活の場が築かれる。
南北に伸びるように形成された大通りは、人の増大と共にさらなる発展を遂げ、いつしかその大通りをセインブルクの建国の象徴となった偉大なる竜の体躯となぞらえて『竜の背通り』と呼ばれるようになったらしい。
『竜の尾通り』から西に進み、その区画へと足を踏み入れた私は、行き交う人の多さに圧倒され、思わず足を止めた。
「これが都会……!」
『何その田舎者丸出しのセリフ』
「だって人がすごいんだもの」
区画によって北を『竜の頭』西を『竜の背』南を『竜の尾』と呼称された大通りは区画によって取り扱う商品が異なる。
そしてここ――『竜の背通り』では工芸品や日用品といったものを扱うお店が集中しているのだ。
「さて、洋服を売っているお店はどこかしら?」
露店が建ち並び全体的に雑然とした雰囲気だった『竜の尾通り』と違い、ここは一軒一軒がきちんとした店舗を構えた古き良き商店街といった印象。
しかし店の前に立つ看板は統一されており、看板に取り扱う商品の絵が描かれていることで、どこがなんの店であるかが分かりやすくなっている。
敷き詰められた赤レンガの道をしばらく歩いて、洋服が描かれた看板を発見した。
「あった! えっと『リリィの服飾店』……?」
そこに見えたのは随分と可愛らしい様子の店構えをしたお店だった。
歩道に使われているものとは少し材質が違う茶色のレンガの壁面に可憐な装飾が施された白枠の窓。
木の板で作られた扉の金色の取っ手部分には『営業中』の札がかかっていて、窓から店員らしき人物が働いている様子が見える。
「営業中ってことは入ってもいいのよね?」
『大丈夫でしょ』
「そうよね」
恐る恐る扉を開けてお店に入ると、扉の上部分に備え付けられた金のベルがしゃらんと鳴り、中から店員らしき人物が振り向いた。
「いらっしゃいませぇ~~。ようこそ『リリィの服飾店』へ!」
「お邪魔します……」
ニッコリ笑いかけてくる店員になんと答えていいのか分からず、ボソリと呟いて店内へ。
内装は全体的に白で統一されているものの、中に置いてある家具や調度品は華奢で淡い色のものが使われていて可愛らしい雰囲気だった。
そして何よりも、綺麗に並んだ服に目を取られる。
「うわぁー可愛い!」
色とりどりの鮮やかな服が、私を出迎えた。
レースやリボンがふんだんにあしらわれた、濃い色や淡い色のドレスやスカートに、手に持つと軽く、歩きやすそうな皮の靴に、夏の国らしいレースだけでつくられたものなど。
様々な生地や色を使った服が、見栄えよく飾られていた。
どうやらここは若い女性だけをターゲットにしたお店のようだ。どれもこれも可愛らしい服ばかり。目移りしそうになりながら、夢中で店内を散策する。
そうして服に夢中になっていた私は見事に後ろへの注意が疎かになっていた。
「何かお探しですかぁ?」
ぬっ、と後ろから差し込んだ人影。
営業用に少し高めに紡がれた声音に、なんの疑問も抱かなかった。
「あ、はい可愛くて動きやすい服を――……」
ふとかけられた声に反射的に後ろを振り向いた私は、次の瞬間目に飛び込んできた光景に驚いて悲鳴をあげた。
なんと振り返った私の目に飛び込んできたのは筋肉隆々のマッチョな体型をした、男性だったのだ。
面白いと思ったら評価頂けると幸いです