17 妖精王の要求
「――ぶははははははっ!!」
楽しそうに口元をゆるめたと思ったら妖精王オベロンは急に笑い出した。身を折って実に楽しそうに悶える妖精王に皆の困惑の視線が集まる。
この突然の行動に王妃は眉を寄せ、玉座に座る妖精王オベロンを振り返った。
オベロンは身を捩りながら笑い続け、王妃と私を見据える。
「いや、面白い……。春色の眼を持つ王女が自らその立場を捨てて国を出て行くか……。これほど面白いこともあるまい? ましてや王妃……貴様の手のひら返しも見事なものよ。よくもそんな心にもないことを言えるものだ」
くつくつと笑いを堪えて玉座から立ち上がった妖精王オベロンは王妃に近づく。するとその金色の視線に気圧されたように王妃が一歩下がった。
「お前の考えは見え透いている。このまま妖精眼を持つ王女を国外に放って万が一妖精の加護が失われることを危惧したのだろう? 手放すくらいなら、国王の座にしばりつけておく方がマシという訳だ。誠に人間らしい傲慢な考えよ」
「……」
妖精王の言葉に、王妃殿下は言葉に詰まった様子を見せた。何も言い返さないところを見ると、どうやら図星らしい。
妖精王は静かに王妃から視線を逸らすと、今度は私の方を見てくる。先程の鋭さはない慈愛に満ちた優しい瞳。全てを包み込むようなその視線は妖精王の懐の深さを思わせる。
「しかし此度の件で主立ったティナダリヤの脅威は消え去り、我らと王家の旧き盟約は守られた。なにより妖精眼をもつ王女の願いでもある。安心するがいい王妃。私はこれまで通りこの国を見守り続けるつもりだ」
その言葉に、王妃殿下はほっとしたように息をつく。
しかし彼の言葉はこれでは終わらなかった。
「――だが宰相の件といい、今のことと言い、王妃にこの国を治める力があるとは思えない。よって私は新たな国王の選定を求める。お前とその娘では駄目だ。私はより国の頂点に相応しいものと新たな契約を結び、新たな礎とすることを望む」
「なっ……それはどういうことですか! まぁ……第二王女が拒否したことは良しとしましょう。けれどなぜ、第一王女のルルベルはだめなのですか!」
「お前の息がかかったものは王とは認めん。第一お前が信用できないからな」
「ですが、他に継承権を持つものなど……!」
「いるだろう。私が知らないとでも思っているのか? 亡くなった国王にはかつて一人の弟がいた。その者も継承権を持っているだろう」
「それは……!!」
王妃は今度こそ驚愕の表情を浮かべ、言葉を失った。
この国の王位継承権一位は確かに第一王女であるルルベル様だ。しかし、私と妖精王オベロンは知っている。
王族は何も王妃と私たち王女だけではない。宰相ルドガスの策略によりかつて国王の不興を買い、寂れた西の区画へと追いやられた王国最強の騎士がいた。
彼は国王の実弟であり、かつて国王の懐刀と呼ばれた第一の臣下だった。彼の王位継承権は第一王女ルルベル様よりも上。
その存在を疎んだ宰相ルドガスが汚い策略で陥れ、汚名を着せられた彼は、今も西の区画で朽ち果てるのを待つだけの余生を送っている。
私が宰相ルドガスの悪意に気づいたのは、この件があったからこそ。
私の師匠となってくれたあの方は、妖精と関わる力を持ち、妖精魔法にも精通していて、国の未来を憂う心を持っていた。あの人こそ王となる資質を十分に備えた方だった。だからこそ宰相ルドガスは彼の存在を邪魔と判断し、退けたのだから。
「ノイン――ノインゼクス・ロズヴァルト・ティナダリヤ。妖精王オベロンとして、かの存在を新たな国王に据えることを望む。これを拒否すれば、今後一切我らはティナダリヤに手を貸さないだろう。妖精女王のいない国に、もはや未練などないからな」
妖精王オベロンは青ざめる王妃を前に、なんの躊躇いもなくそう言い切った。
面白いと思ったら評価頂ければ幸いです




