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すてい・ほーむ!!

 病が蔓延る街の中。

 屋外に集まる十人程の集団がいた。

 劇団WINGの面々だ。

 ひなやかえもそこに名を連ねていた。



「唐津ひな。おまえがヒロインで、会津かえが主役だ!!」



 ウィング先生のその言葉にひなは身が引き締まる思いを抱く。

 ウィング先生から背中をポンと叩かれ台本を渡される。

 ひながその台本に目を通していると。



「ねー、ねー、からひなっ★」



 かえがくっつくように横にすり寄ってきてひなを見上げていた。



「なんですか、先輩……」



 役作りを頭に叩き込みたいのになぁと思いながら返事をする。



「百合営業って知ってる?★」



 ブフッ。

 思いもよらない言葉に唾を吹きかけた。



「……な、何言ってんですか、先輩……」



 百合営業ってあれでしょ。

 私達はつきあってますよー的な感じで仲良しアピールするやつでしょ?

 知識として知ってはいるけど……それがどうしたのだというのだろうか。



「かえ、からひなと百合営業したいなぁって★」



 ブフっ!!

 今度は完全にむせた。



「大丈夫?からひな★」



 いやいや、誰のせいでむせたと思っているのさ。

 あなたのせいですよ、あなたの。



「……今、何て言いましたか?」



 聞き間違いかと思い、かえに問い返す。



「だから~、かえとからひなが百合営業★」


「……」



 何を馬鹿なことを言っているんだろうか?

 この猫かぶり先輩は。



「だってだって。かえが主役で、からひながヒロイン★百合営業にはもってこいだよっ★」


「はぁ……」



 ひなはその言葉に脱力してかえに返事をしようとしたその時だった。



「ステイ・ホーーーーームっっ!!!」



 そう叫びながら真っ赤な顔でマスクをしたおっちゃんが走ってきた。



「キミたちっ!! 何やってるのーーーっ!!!」


「やべ、逃げるぞ。解散、かいさーんっ!!」



 ウィング先生の言葉でひなとかえ以外の劇団員達は蜘蛛の子を散らすが如く散り散りに逃げ去って行った。



「は……?」


「へ……?」



 事態を理解できないひなとかえは呆然と立ち尽くすのみ。



「ほら、君達なにやってるのっ!!」


「え……演劇の練習ですけど……」


「演劇ぃ? それって今やらないといけない事? 違うでしょ? 不要不急な外出は控える。今は家にいないといけないの。アンダスタンド?」


 いやいやいやいやいや。

 それを言ったらその辺出歩いているあんたはいったいなんなのさ。

 何か言い返そうとひなが食い下がろうとした瞬間。



「やかましいよ、おっさん」



 そうかえは呟くと、鋭い表情を向け、素早くマスクのおっちゃんの膝に蹴りを入れる。



「痛い、痛いーーーーーっ!!」



 当たり所が悪かったのか、はたまた、かえの蹴りに余程威力があったのか。

 マスクのおっちゃんは崩れ落ち苦悶の表情でもだえ苦しむ。

 ひなはかえのその姿を見て、呆気にとられていた。



「いこっ★からひなっ★」



 鋭い表情のかえはどこえやら。

 柔和な笑みを浮かべたかえは呆然としたひなの手を取り駆け出した。

 そんなかえに引っ張られるようにひなも共に走り出す。

 ひなの手をとりにこにこと微笑みながら駆けるかえの横顔をぼんやりと見つめながら。


 チクリ……。

 ひなは心の奥底に淡い感情が芽生えるのを感じる。

 それが一体なんなのか。

 ひなはまだ、その正体を知らない……。



 ―――



「えー……今日もお便りを紹介します」



 演劇の稽古はなし崩し的に当面中止になった。

 とりあえずどこか皆で集まれる場所を借りてやろうという事になったのだ。

 現在、『なりあがりシスターズ』を絶賛配信中。



「リスナーネーム・佐々木さんからです。ありがとうございます」



 ひなは番組に送られてきたメールを淡々と読み上げる。



「こんにちは。つい先日、若い者たちが私の好きだった思い出の曲をカバーしていることを知りました」


『……良い話ぽい』



 なつが読み上げるメールに茶々を入れる。



「演歌のカバーをしてくれるなんて最近のアイドル達はサービス精神旺盛ですね」


『演歌のカバーなんてロックなアイドル達だね★』


「孫達に話してみたところソーシャルゲームとやらでも楽曲をプレイできるとの事……」



 そこまで読み上げてひなは改めて思う。

 何故そこでソシャゲを勧めてしまったんだ、孫達!!と。



「……まだプレイしていませんが、今度遊んでみたいと思っています。それでは」


『かえはアンインストールすることを強く勧めるぞっ★』


『……おじいちゃんぷろでゅーさー……じゅるり』



 かえとなつはメールに対して思ったことをバサバサと言い捨てる。



「えっとー……私もあまりソシャゲにハマり過ぎるのは良くないのでお財布と相談してプレイしてくださいね、佐々木さん」



 自分の課金状況を棚に上げてひなは無難なまとめをする。

 次のメールを読もうとメールの画面に視線を移そうとして。

 ふと、配信画面のかえに目が行ってしまった。

 まただ。

 駄目だ駄目だと思いながらも、ついつい見つめてしまう。

 ひなの視線の先にはいつも通りにニコニコと微笑むかえの姿があって。


 結局あの日。

 変なマスクのおっちゃんから逃げた後。

 かえとはすぐに駅で別れて。

 かえが言っていた『百合営業』とやらの返事もしていない。


 あの日以来ずっと気になってしまっていた。

 そしてシスターズのミーティング中や配信中に。

 ふとしたことで、かえの事を見つめている自分がいることに気付いてしまった。

 なんでこんなにかえの事が気になってしまうんだろうか?


 百合営業……か……。

 ぼんやりとその事を考えながらひなは番組を進めていく。

 淡々と。

 粛々と。

 進めていく。

 自分の答えを導き出す為に。


 チャンネル会員10万人まで、残り99969人。

読んでくださってありがとうございます!

百合コメ成分多めになりつつあるなりあがりシスターズ。

ブクマ感想等つけてもらえるとうれしいです。

もし、よろしければ評価をぽちっと押したりブクマしてくださると執筆速度も上がります(あ

ですので、今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

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