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あんだー・ざ・ぐらうんど!

 ふわりと髪をなびかせて、ひなの胸に小さな少女が抱きついてくる。

 甘く切ない香りがひなの鼻孔をくすぐる。

 ひなは高鳴る鼓動を必死で抑えながら、少女をゆっくりと抱きしめる。

 これは……。

 これは、断じて私の意志じゃない。

 これは舞台の。

 演劇の脚本の一ページに過ぎないのだと、心に言い聞かせながら……。


 ―――



『仕事とってきたわよっ!!』



 コロナの感染者数も収まり始めた頃。

『なりあがりシスターズ』の配信もだいぶ軌道にのってきていた。

 始めは母一人だったひなのファンも、一人、また一人と増えつつあった。

 そんな折だ。

 仕事の話をマネージャーOが持って来たのは。

 曰く、春にポシャッた朗読劇の脚本家から直々に舞台のオファーがあったのだという。

 それをまるで自分が仕事をとってきたというマネージャーOの図々しさは置いておくとして。

 朗読劇の脚本家というと誰だったかなと、ひなは顔を思い出す。

 確か、30代の脚本家の……。



「あー……ウィング先生か……」



 名前はWING桜美林。

 通称・ウィング先生。

 ひなの演技を誰よりもかってくれていた脚本家の人だ。

 そんな彼からのオファーを断ることなんてできるはずもない。

 ひなはマネージャーの話を二つ返事で快諾した。


 その演劇の内容をよく聞きもせずに。

 まさか、こんなことになろうとは。

 その時のひなは露ほどにも思ってもみなかった。


 ―――



『まず、この演劇は劇場で公演しません』


「は?」



 演劇の役者達、全員とのリモート会議。

 ウィング先生の第一声がこれだった。


 劇場で公演しない演劇ってなんぞや。

 どういう事か意味が分からない。

 それは演劇というのだろうか?

 ひなと同じく困惑した表情をし、リモート会議に集まった役者達はざわつく。



『しかーし、我々は劇場で演劇を行いますっ!!』


『今って緊急事態宣言中だから、劇場にお客は入れられないんじゃないかな★』



 今回の演劇に劇団員としてひなと同じく招かれたかえが的確なツッコミを入れる。



『いえ、お客さんも入れます。これは……。普通の演劇ではなーーーいっ!!!』



 画面いっぱいに顔を近づけ力説するウィング先生。



「はぁ……」



 ウィング先生の勢いとは逆に、嫌な予感に顔を引きつらせる劇団員たち。



『我々は地下で演劇を行います』



 地下……で演劇。

 地下で演劇とは何ぞ?

 っていうか、劇場が地下にあれば、全部それは『地下で演劇』なのではないだろうかと思いながらもウィング先生の次の言葉を待つ。



『お客さんは本当に信用できる人、数名を入れて劇場で演劇を行いますっ!!』



「はぁ……」



『これはコロナ禍で行われる希望の光。これはアングラの演劇。そう、これは地下演劇だっ!!!』



 すごく良いことを言ってやったぜと言う顔をしているウィング先生を尻目に劇団員たちの冷たい視線が画面に映っていた。

 ピロン。



『ウィングせんせーって手の施しようがない馬鹿だなー』



 そうかえから個別チャットが送られてくる。



『悪い人じゃないんだけどね……』



 ひなは個別チャットでかえに返信をする。


 突っ走り始めると止まらない男。

 いや、止まれない男。

 それがWING桜美林という男性だった。


 そうしてこの病が未だ蔓延るこの街の片隅で。

 地下で行う地下演劇の為に。

 劇団員たちは動き出した。

 小さな希望と、大きな不安を胸に抱えながら。

ブクマ感想ありがとうございますっ!

なりあがりシスターズ新章開始です!!!

少しずつでも毎日更新していきたいなと思っていますので、

今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

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