Nice Boat……
その週の配信はグダグダだった。
ひなが慣れないキャラを作ろうとして発言した言葉一つ一つに、かえとなつは反応できなかった。
つまり見事に放送事故を起こしてしまったのだ。
事故りまくっているのを見るに見かねて、マネージャーOはヨーロッパの風景に帆をなびかせるボートの画像を流した。
『うはwwwwナイスボートw』
『こんなところでボート様に出会えるとはww』
なんてコメントが流れ続けて、ひなが盛り上げようとしていた時よりも明らかにこのボート画像の方が盛り上がっていた。
そして配信はボートが夕日に向かっていく所で終了し。
「はいはいー、反省会っー!!!」
そのままマネージャーOを交えた反省会の流れとなり。
ひなはマネージャーOからコッテリと絞られることになった。
―――
ボフンと音がするくらいに勢いよくひなは枕に飛び込む。
「はー……なつみたいにアイドルぽく振舞ってみたつもりだったんだけどな……」
枕に顔を埋めながらポツリとそう一人ごちる。
♪~。
その言葉に呼応するようにスマホの着信音が鳴る。
はー……やだな。
今日はもう誰とも話したくない。
話したくないのに。
♪~。
スマホからは着信メロディが流れ続ける。
しょうがなくスマホの画面を見るとそこにはかえの名前が表示されていた。
「……はい」
とらないといつまでもなり続けそうだったのでスマホの通話をオンにする。
『はー……やっとでやがったか、この不良娘』
口調から言ったらあなたの方がよっぽど不良娘ぽいんですけどね、と思いながらひなはかえの言葉を聞き流す。
「……何の御用ですか、先輩?」
『先輩って言うなって言ってるだろ、このからひなっ!』
先輩という言葉にテンプレの様に勢いよく反論が返ってくる。
『まぁいいや。今日、明らかにお前なんかおかしかっただろ?なんかあったのか言ってみ?』
「……」
言えるわけない。
言えるはずがない。
なつのアイドル姿に触発されて自分も頑張ろうと思って事故ったなんて。
『んー……まぁいいけど。とりあえず今日みたいな変なキャラ作りはやめろ。お前の為にならんから』
「先輩は作ってるじゃないですか……」
思わず反論が口から零れ落ちる。
『そりゃまぁ……かえはずっとあのキャラでやって来たからな。キャラ変なんてできるわけないだろ?』
「……じゃあなつ先輩はどうなんですか!」
ひなはかえに涙交じりに言葉を投げかける。
『あー……あいつはなぁ……。なつって天然じゃん?だからあれはあれで良いんだよ』
「じゃあ、私は……。……私はどうすれば良いんですか?」
『お前はお前で良いんだよ。変なキャラ作るとバランスが崩れる』
「……バランス……ですか……」
『そうバランス。新人のからひなが長女で、キャラ作ってるかえやなつが妹の理由を考えてみ』
「……私が長女の理由……」
『それが言いたかっただけだ。じゃーなー』
その言葉と共にスマホの通話がブツリと切れる。
「バランス……。私が長女の理由……」
呟きながらぼんやりと立ち上がりカーテンを開け月を見上げる。
見上げた夜空の月は、見事な位の満月で。
その月に向かってひなは自分の成すべきことを問い続けた。
その夜。
ひなは自分が今何を成すべきなのか。
『シスターズ』の長女として何を成すべきなのかを一生懸命に考えた。
かえにはファンたちを引き付けるあざとさがある。
なつには普段からは想像できないアイドル的に光るものがある。
そして、ひなは……。
自分には何があるのだろうと考える。
自分には、幼い頃から培ってきた演劇の経験しかない。
それがプロの世界でも通用するのか?
それはわからないけれど。
自分はそれを表現していかなければならない。
何も無い新人のひなだから表現できること。
それは『シスターズ』の長女という役目を自然体で演じきるということ。
それがひなにできる唯一の事なのだと。
―――
『それでー……? かえ達はこれからどうすればいいん?』
「かえさんとなつさんはいつも通り好きなように喋ってください」
『ふーん……まぁ良いけど』
『いつも通りに話したらまたこの前みたいに放送事故じゃないかな……じゅるり』
「……そ、そこは私が何とかしますから」
本当にブレないなこの天然百合脳妹様はと思いながらもそう言葉を繋げる。
「それで今回の企画なんですけど、粘土細工の作成できました?」
『アー……あれなー……何となくで動物を粘土で作るってやつかー……」
『私は上手く出来たよ~……。ほらカピバラさん』
なつの手に乗っているのは茶色く細長い謎の物体に顔が付いた何か。
……カピバラ?
『なつ……それ、●こじゃん……』
『違うよ、カピバラさんだよ~。ここに手と足があるもん……』
『いやいやいや……それどう見ても●こにしか見えないって』
『つーん。じゃあかえちゃんは何作ったか見せてよ?」
『いいよ、ほら』
かえがもっているモノはかなりデフォルメされたライオンの粘土細工。
『自信作だからね。えへへへ』
そう言いながらかえは無い胸を強調するようにはる。
『……ア、アホ可愛い』
そんなかえの姿を見つめながら、なつはタラリと鼻血を垂らしながら呟く。
ほんとブレ無いなこの人!!
生配信中だったら放送事故ものだよ、まったく。
まぁ実際に事故ったのは自分なんですけどね、と心の中でひなは呟く。
『で、からひなは何作ったんだ?」
「あ、私はですね。これです」
ひなはピンクの豚の形をした粘土細工を取り出す。
『『おおおー……』』
ひなは二人の感嘆の声にちょっと嬉しくなった。
芸歴も年も上の二人に自慢でじきることがあって少し嬉しかったのだ。
「それじゃ、始めますよ」
『オーケー!』
『いつでもいいよー……』
「「「なりあがりシスターズ、オンエアーっ!!!」」」
チャンネル会員10万人まで、残り99975人。
読んでくださってありがとうございます!
今回もちょっとコメからはずれましたが、次回からもっとコメディ成分多めのなりあがりシスターズ。
ボートの元ネタは言わずと知れた某スクイズなアニメです。
ブクマ感想等つけてもらえるとうれしいです。
もし、よろしければ評価をぽちっと押したりブクマしてくださると執筆速度も上がります(あ
ですので、今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m