おんすてーじ
「暇だ―……」
配信の準備をする時と、打ち合わせをする時以外は基本暇である。
ひなは持て余した時間を部屋中に積まれた漫画本を読むことに明け暮れ始めた。
ひなは漫画本を読むことが何よりの趣味だった。
少年漫画から少女漫画、BL漫画。
なんでもござれ。
どんな漫画でもその世界に浸ることを出来る事が何より幸せだった。
今日はどんな漫画の世界に浸ろうかな。
たまにはソシャゲの世界でも良いんだけどどうしようかな。
部屋いっぱいの漫画の山とスマホを見比べながらそんな事を考えている時だった。
♪~。
軽やかな着信音が部屋中に流れる。
着信音からするとシスターズの連絡通知なのだが、こんな時間に何の用だろうと訝し気にスマホを手に取る。
シスターズの連絡通知にはなつのアイコン付きで、でかでかとこう書かれていた。
『この後、十四時からライブやるよ~』
「……は?」
なに言ってんのあの天然妹様は。
今はコロナ禍でライブはおろか外出自粛だってのに。
ライブなんてできていれば演劇だって開催できるはずだ。
そう、ひなの主演予定だったあの朗読劇だって開催することができたはずなのだ。
なつの書き込みを見つめながら、ひなは大きくひとつため息をつく。
『……なつってバカなの?』
とりあえずそう打ち込んでやった。
『馬鹿ってひどいよ、ひなちゃんー』
即レス。
「いや……馬鹿は馬鹿でしょ……」
そう呟きながら、コメントを打ちこむ。
『この、コロナ禍で!ど、こ、で、ライブなんてできるのっ!!』
『配信だよ、配信~。これから私がライブ配信するから見てねってこと~……』
「なんだ……配信か……」
そういえば前のミーティングの際になつがなんかのチャットツールを使って歌の配信や料理配信をしてるって言ってたような気がする。
料理かー……。
……料理ね……。
よもや、なつの単独配信で変な料理を作ってリバース配信という放送事故な事態になっていやしないか一抹の不安を覚えるが……。
まぁ垢BAN食らってないところを見ると今のところは大丈夫なのだろう。
そう思い、なつが張り付けたURLを辿りアプリの配信ページを開くことにする。
『みんなー。今日も来てくれてありがとう~』
開いた瞬間、スマホに大きく表示されるなつの笑顔。
そして綺麗に着こなした衣装。
その姿にスマホのチャット欄には盛大な歓喜のコメントが並ぶ。
やれ、今日も可愛いよ、だの、美人さんです、だの。
そのコメントに応えるように、なつは普段とは違う満面の笑顔で歌を歌いだす。
「……なんだ、普通にアイドルできるんだ……」
聞き惚れるような歌を歌うなつの姿を見て、ひなはポツリと感想を漏らす。
普段の『なりあがりシスターズ』の配信では見た事がない、なつのアイドルの一面を見せつけられてひなは正直少し悔しかった。
普段ひなやかえを見つめながらイケナイ妄想をしているあのなつが。
こんなにキラキラと輝いた笑顔で配信している。
それに比べて自分は一体何をしているんだろうと、自問自答。
好きな漫画の世界に浸ったり、無為にガチャを回しているだけの日々。
漫画の世界に浸るのも大事だし、ソシャゲの世界に浸るのも大切だろう。
一応声優のお仕事にも繋がることだし。
でも。
でも、なんか違う気がする。
ひなはモフモフの枕に向かって顔を埋める。
なつは今、輝いているのだ。
ひなも、今、輝きたい。
輝いていたい。
例えコロナ禍の中でも輝き始める事を辞めたくない。
せっかく決まっていた主演の朗読劇が中止になった。
マネージャーOからアイドル声優姉妹ユニット『シスターズ』の企画を立案された。
自分はその敷かれたレールに乗っかっているだけ。
そのレールはどこに繋がっているのか分からない。
もしかしたらアイドル声優になれる道に繋がっているのかもしれない。
繋がっていないのかもしれない。
でも、これだけは言える。
このままじゃ、なつに……恐らく、かえにも置いて行かれると。
何故なら、ひなのファンは未だに自分の身内しかいないのだから。
身内(母)以外のファンを作らなければこの先やっていけやしない。
「このままじゃ、だめ、だよね……」
そう言葉に出し、スマホの画面を見つめる。
そこには満面の笑顔でライブ配信を終えたなつの姿があった。
読んでくださってありがとうございます!
ちょっとコメからはずれましたが、次回からまたコメディ成分多めのなりあがりシスターズ。
ブクマ感想等つけてもらえるとうれしいです。
もし、よろしければ評価をぽちっと押したりブクマしてくださると執筆速度も上がります(あ
ですので、今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m