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なりあがりシスターズ!~流行病の蔓延る街でゆるふわ声優達が頂点を目指す!~  作者: 牛
第二章 それでも、舞台の幕は上がっていく。
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なりあがる。

「いってきまーす」



 姉のそんな声を布団の中で聞きながら、さえはスマートフォンを操作する。

 毎朝恒例のソーシャルゲームのログインボーナス巡りだ。

 ひきこもニートの彼女にとってログインボーナス&デイリーミッションは欠かすことのできない日課だ。

 デイリーミッションを全てこなした後。

 布団からもそもそと這い出し、部屋の鍵を開け廊下に置いてある朝食に手を付ける。

 うん……おいしい。


 自分が引きこもりのニートになってからというもの。

 両親は朝は毎日、廊下に朝食を置いて出かけていく。

 いい加減部屋から出て顔を見せてだの、社会復帰しろだの言ってくることはなかった。

 そんな環境にさえはすっかり甘えきってすらいた。

 自分の好きなように生きて、好きなように時間を使える。

 何て素晴らしい人生なんだろうとすら思っていた。

 だから芸能活動に縛られている双子の姉のかえに後ろめたさもあった。


 朝食を食べた後、テレビをつけてビデオのドラマを見る。

 姉が主演のドラマだ。

 ぼんやりとテレビの中の姉を見つめながら、画面の中の姉の真似をする。

 何度も何度も同じシーンを真似をする。

 役を演じる。

 その事で、自分が役者だったという事を忘れずにいられる、そんな気がしていた。


 昼になり、お腹が空いたら、階段を下りて台所へ。

 そこで手早く料理を行い、食事をとる。

 食事をとった後はきちんと後片付けをした後、着替えを取りに自室へ。

 その後、お風呂に入ってのんびりと時間を過ごす。


 お風呂から上がった後、ボサボサに伸びた髪をとかしながら自室へと戻る。

 自室に戻った後は、夕方までボイストレーニング。

 両親やかえが帰ってきたら、再びさえは布団に籠り、スマホとにらめっこをする。

 そして夜になり深夜両親が眠りについた後部屋を抜け出し、眠りにつく準備をする。

 そんな日々がずっと続いていくと思っていた。

 こんな毎日が永遠に続くと思っていた。


 そんな事はあるはずもないのに。

 会津さえは、その日が目の前に迫っていることを気づかなかった。

 気づけずにいた。


 ―――


 その日は突然訪れた。

 緊急事態宣言が発出され、人々の生活様式が変容を求めれる中。

 会津家の生活様式も変容を求められていた。

 両親はほぼ常時家にいる事が多くなったし、姉のかえも部屋で何やらごそごそしている。

 だから、さえは何処か居辛さを感じていた。

 ぼんやりとテレビを見ると、今日の感染者数だの、有名人が命を絶っただのそんなニュースで一色だった。

 そんなある日のことだった。


 ポタリ、ポタリと。

 血が滴っていた。

 自分の目の前で起こっていることが何なのか、訳が分からなかった。


 お風呂場で汚れた体を洗おうといつもの様に家族の誰もいない時間帯を見計らって部屋から出て洗面所に向かう。

 洗面所に入った所で、お風呂場の扉が湯気で曇っているのを訝し気に思い、お風呂場を覗いてみると。

 そこには……。



「か……え……?」



 問いかけられた少女は口を開かない。

 少女は手首を浴槽につけて横たわっている。

 浴槽は真っ赤に染まっていた。



「かえっ!!!」



 真っ赤に染まった光景を見て、さえはみるみる青ざめていく。



「かえっ!!!かえっ!!!」



 横たわる少女に駆け寄り抱き上げる。

 手首には生々しい切り傷の後。

 傷口からはみるみる血が滲み出てくる。

 医学の知識がないさえにでもわかる傷口の深さ。

 さえはお風呂場にかかってあったタオルで傷口を縛る。

 そして携帯で救急車を呼び、外出中の両親に連絡をとる。

 その間にもかえの顔からは血の気が引いていく。

 さえはその姿をただ見ていることしかできなかった。


 しばらくして救急車がやって来て、救急隊員の人がかえに応急処置をした。

 さえも付き添いとして救急車に乗り病院まで同伴した。

 病院に着くと、かえは救急治療室へと運ばれていった。

 その後の事はよく覚えていない。


 病院で久しぶりに会った両親は、なんだかやつれている様にみえて。

 それが、緊急事態宣言によるものなのか。

 それとも、さえがひきこもニートになったことによるものなのか分からなかった。

 さえは居場所もなく、一人おぼつかない足取りで暗くなった空の下、自分の家に帰ってきた。

 誰もいない家の階段を上り、自分の部屋に入ろうとドアノブに手をかけたところで、かえの部屋から灯りが漏れているのに気付いた。

 その灯りに引き寄せられるようにさえは、かえの部屋へと入っていく。


 かえの部屋の灯り。

 その灯りの下に。

 一枚の手紙が置いてあった。

 それはさえに宛てた手紙。

 この世界から去り行くかえが、妹に残した最後の言葉だった。

 そこには一言、こうつづられていた。



『かえはもう十分生きたから、さえも自分の好きなように生きなよ……』


「……」



 何がもう十分生きただ。

 まだ、十八年かそこらしか生きてないくせに。

 いつの日か誰よりも有名な役者になるって言ってたじゃないか。

 声優になるって言ってたじゃないか。

 さえだって……。

 さえだって、いつか有名な役者になりたかったのに……。

 こんなの……。

 こんなの、かえの勝ち逃げじゃないか。


 ポタリ。

 手紙の文字が滲んでいく。

 一つ、また一つと、姉の文字が滲んでいく。

 さえは手紙を握りしめたまま。

 ただただ子供の様に泣きじゃくるしかなかった。


 ―――


 その日から一週間程経ち。

 かえの容体はひとまずは安定していた。

 しかし、一向に目を覚ます兆しはなかった。

 対外的には、会津かえは体調を崩したので、静養のため入院中という事になっている。

 そんな中、一人の女性がさえに会いたいと言って自宅へとやって来た。

 そして開口一番、この言葉が飛び出した。



「会津さえさん。あなた、会津かえにならない?」



 女性の言葉に、さえは言葉が出てこなかった。

 同じく女性の言葉を聞いていた両親は娘達を何だと思っているんだと怒って女性を追い出してしまった。

 けれど、さえの頭の中に女性のその言葉がこびりついて離れなかった。


 ―――


 バサリ、バサリと。

 さえの髪の毛が切られていく。

 美容室の鏡に映された少女の姿は。

 会津かえ、瓜二つの姿。


 ゆっくりと。

 ゆっくりと会津さえは歩を進める。

 これから私はかえとして生きていく。

 ひきこもニートの会津さえはもういない。


 ……。

 ……これから、さえが『会津かえ』だ。

読んでいただきありがとうございます。

色々新展開のなりあがりシスターズ。

楽しんでいただければ幸いです。

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