れこーでぃんぐ!
照りつける真夏の日差し。
CDの収録スタジオの外はそんな環境。
三密を避けるために換気をよくしないといけないので、窓は開けっぱなしでクーラー全開だ。
しかし。
「暑い……。何でこんなに暑いの……」
「このスタジオのクーラー壊れてるんじゃないか……」
かえの言葉通りこの収録スタジオのクーラーは壊れかけていた。
壊れかけのクーラーをだましだまし使っているに過ぎない。
「このスタジオも古いからねぇ~……。空調がガタが来てるのかも~……」
とはいえ、ひな達に他に伝手などないのでスタジオを変えるという選択肢は存在しないのだけれども。
「それじゃまずは私がとってくるね~」
そう言ってなつが真っ先にレコーディングスタジオ内に入っていく。
そこでふとひなは疑問に思う。
こういう時、真っ先にかえが収録しそうなものなのに。
「かえ先輩が一番じゃないのは珍しいですね」
疑問をかえにぶつけてみる。
「あー……こういうの初めてでなー……」
「子役時代に歌の収録とか無かったんですか?」
「あ……。んー……まぁな……」
何だかいつもに比べて歯切れが悪いような。
そんな気がした。
けれどその疑問をぶつける前に。
「一発おっけーだったよ~」
「お、おう。それじゃ次はかえだな」
スタジオからさっさと出てきたなつと入れ替わるように逃げるようにかえはスタジオに入っていってしまった。
「むー……」
「どうしたの? ひなちゃん? もしかして二人でお楽しみの所、邪魔しちゃいましたか~……うへへぇ……」
とりあえずこの百合脳の妹先輩様は放置プレイしておくとして。
釈然としない気持ちを引きづりながらもひなはレコーディングに集中することにする。
けれど、先程のかえの様子が気になって仕方がない。
その理由をなつに問いかけるけれど。
「何でだろうね?」
と逆に疑問を投げかけられてしまう。
そんな感じだったので、ひなは歌詞を見つめながら自分が歌う姿を思い浮かべながら。
のんびりと自分の番を待つことにした。
「はー……めっちゃリテイクされた……」
それから一時間程して、かえが肩を落としてスタジオから出てくる。
いつもは自信満々のかえがこの時間のかかりよう……。
これは自分も覚悟しないといけないなとひなは覚悟を決めてスタジオに歩みよる。
「……ま、緊張せずに自分らしくな……。からひな」
かえから、すれ違いざまにそう言葉をかけられる。
「は、はい。ありがとうございます。かえ先輩」
そうかえにこたえ、ひなはスタジオに入っていく。
スタジオの中はある程度空調が効いているのか涼しく感じた。
そしてレコーディング開始。
自分らしく……。
自分らしく……。
心に言い聞かせながらひなは伸び伸びと歌う。
自分の心のままに歌う。
あるがままに唄う。
謳う。
「オッケーです」
「え……?」
思っていたよりもあっけなく終わってしまい、ひなは拍子抜けしてしまう。
それよりも自分が一発オッケーで、何でかえはあんなに時間がかかってしまったのか。
ますます腑に落ちないひなだった。
―――
どんよりと澱んだ空気に覆われた星空の下。
ひな達三人は帰路についていた。
「とりあえずレコーディングはこれで終わりだね~……」
「そうですね……」
いつもはひなはかえと並んで帰ることが定番なのだけれど。
今日はなつがかえの代わりに並んで帰っている。
かえはというと、うかない顔をしたまま黙って二人の後をついてきていた。
ひながレコーディングを終えた後。
かえは再びスタジオ内に呼ばれ、更に一時間ほどたって出てきた。
その時のかえの顔は本当に憔悴しきっていて。
それから、ひな達はかえに何と声をかければ良いのか分からずにいた。
「ん~……それじゃ~、あとは振り付けをかえちゃんに考えてもらって~……」
なつがそんなかえに気を使いながら、あえて弾んだ声で話しかけてみる。
「……」
なつの言葉を聞き、かえはビクリと肩を震わせ。
黙り込んだままその場に立ち尽くして星空を見あげる。
「……かえちゃん?」
「……かえ先輩?」
その様子を見てひな達も歩みを止める。
そして。
「……出来ない……」
かえは星空を見上げながら。
喉の奥から絞り出すように、その言葉を口にする。
「え……?」
思ってもみない言葉になつは驚きの表情で問いかける。
「出来ないんだよ……かえには……」
「かえちゃん……何言ってるの……?」
かえには今まで培ってきた子役の経験があるはずだ。
だからこそ振り付けだって、かえには簡単なはずだとなつは思っていた。
けれど。
「違う……。……かえはかえじゃないから」
「え……?」
なつには、かえの言葉の意味が分からなかった。
かえの真意がどこにあるのか分からなかった。
だからその問いかけを最後に何を口にして良いのか分からなかった。
ひなもただ黙ってその様子を見つめている。
流れる沈黙。
かえが見上げる星空を。
ひな達も、一緒にただただ見上げる。
そして。
空から一筋の流星が流れた。
だから、かえは。
かえは、一つの告白をすることを決意した。
「これは一人の……」
今までかえという少女が。
ひた隠しにしてきた一つの事実を。
「馬鹿な、ひきこもニートの物語だよ……」
薄暗く曇った星空の下。
かえは、ゆっくりと、ゆっくりと、言の葉を紡ぐ。
一人の少女の物語を。
読んでくださってありがとうございます!
次回からかえ視点のななりあがりシスターズ。
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今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m




